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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 夕食までまだ時間がある。
 この時間を利用して、王女殿下に到着の挨拶をしようと思う。

「……と言っても、直接行くのはルール違反なのかな。よく分からないな」
 僕は竜国人だが、ここでの身分は、兎の氏族の客分である。

 見知った相手であるが、それでも王女は王女。粗相そそうがあってはいけない。
 というわけで、先触れを出してから向かうことにした。

 館の使用人にお願いすると、三十分ほどで行って戻ってきてくれた。
 王女殿下がお会いくださるそうな。



「あなた、随分と偉くなったのね」
 わざわざ先触れを出したのに、そんなことを言われた!

「直接会いに行く方が失礼に当たるかと思ったんですけど、違いました?」
「違わないわよ。それが正解。……だけど、影からこうニュッと出てきてもよかったのに」

 それは良くないだろ。完全に暗殺者だ。
 いや、僕は暗殺者だけど。

「王女殿下から許可をいただいたので、次からそうします」

 僕がニッと笑うと、王女殿下は「許してあげるわ」と笑った。
 やはりからかっただけらしい。

「しかし今頃来たってことは、競技会から見ていくの?」
「ええ、そうですけど。……違うんですか?」

 期間中はさまざまな発表があり、それを目当てに多くの商人や、観光客が訪れると思ったのだが。

「開催前の式典の方が豪華なのに。肝心の競技会だけど、資料をもらったのよ。目当てのもの以外は、あまり楽しくないのよね。研究発表なんかちんぷんかんぷんよ。私たちが見るべきものは多くないわね」

 一ヶ月近くかけて多くの会場で発表が行われるが、王女の目を引くものはあまり多くないらしい。興味のないものを見に行ってもつまらないだけだものな。
 いや、そうか。

「もしかして勝手に出歩けないんですか?」
 僕がそう言うと、王女殿下は重々しく頷いた。

「情勢が不安定だからって護衛を増やされたのよ。……まったく忌々しいわ」

 護衛が増えたようだ。自分を守ってくれる存在であるから邪険にはできない。
 その鬱憤が溜まっている感じだった。

「今回は技国の客分として来ているので、言うことは聞けませんよ」
「分かっているわよ。会談もほぼ終わったし、私の責務はほとんど果たせたもの。次は兎の氏族ね」

「こっちに来るのですか?」

「違うわよ。あなたが世話になっている建物じゃないわ。本拠地の方。氏族長と詰めの話が少し残っているの」
 どうやら競技会の開催中にまた兎の氏族領へ戻るらしい。

 そういえば、僕の婚約発表の時からずっと行きっぱなしだったっけか。
「いろいろ大変ですね」

「そう思うなら、シャラザードを貸しなさい。ちょっと散歩してくるから」
「できませんってば」

 何を言い出すやら。相変わらず王女殿下は考えが自由だ。

 もっとも、それだけストレスを抱え込んでいるとも言える。
 ふと、王女殿下が何に興味を示したのか気になったので聞いてみた。

「一番はなんと言っても、『動く廊下』ね。魔道じゃなくて、機械式の技術で可能にしたらしいのよ。実用化はまだだけど、城の長い廊下に設置したらはかどると思わない?」

「運動不足になりそうですね」

「夢がない男だこと。ほかには動く階段かしら」

「動くものばかりですね」
 というか、横着できそうなものばかり。

「前の競技会では昇降機が実演されたのよ。商国が技術を買い取って、西の都にはいくつか設置されているって聞いたわ。私は見たこと無いけど」

「へえ、どんなやつです?」
「噂では箱がくるくる回るみたいね。それに乗って二階とか三階とかに上がれるのよ。……で、今回は動く廊下と階段。だからそれだけは見ておきたいの」

「はあ、がんばってください」
 僕には必要なさそうな技術だ。

 たしかに便利かもしれないけど、廊下など歩けば済むのだ。
 馬鹿高い技術を導入しなくてもいい。

 ちなみに王女殿下がいま言ったものはすべて『実演』のカテゴリに入る。
 同じようなので、『展示』があるが、こちらは完動品でないものを含まれるらしい。

 そして先ほどちんぷんかんぷんと表していた『論文発表』や『講演会』、『研究発表』も複数の会場で盛んに行われている。
 講演会ならば、内容によって文化講演会、技術講演会、魔道講演会などに別れている。

 他にも過去の技術を進化させたものや、実用化させて『即売会』を行っているところもある。

 これら技術や製品、そしてできあがった一品物などが売買される場もある。
 多くの商人たちがそこで商談をしているらしい。

 一般向けには、ここぞとばかりに作ったお土産が売られ、まだ日の目をみない研究などのイメージ発表もある。

 とくにこれから何十年、何百年先に実用化されるかもしれないものを予想する『発表会』では、荒唐無稽と思えるようなものが多数出ているという。

 実際に作る責任もないから気楽に発表できるらしい。
 竜の数倍強くて数倍の速さで移動できる駆動歩兵とか、子どもが夢想するようなものが大まじめに発表されていたりする。

 それなりに夢があり、実現可能性を無視すれば、人の発想がどれだけ多岐にわたり、どれだけ大きいのか分かるというものだ。

「というわけで、私はあと十日もしたら兎の氏族に行くわね」
「分かりました。僕はそれよりもう少しこっちにいると思います。その後は王都に戻りますけど」

 そして陰月の路で月魔獣狩り三昧だ。

「なにかあったらこっちに連絡を寄越しなさい」
「はい、ありがとうございます。そろそろ日が暮れてきましたので、僕は戻ります」

「今回は兎の氏族側だったものね」
「はい。では失礼します」

 そう言って戻ると、アンさんが僕を待っていた。
 両親が帰ってきたのだという。つまり、顔合わせだ。

「ではレオンくん。こちらへ」
「……はい」

 ちょっとだけ、胃が痛くなってきた。


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