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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 大山猫の氏族が主催する今回の競技会。
 会場はもちろん大山猫の本拠地になる。

 シャラザードと向かった先に巨大な町が見えてきた。

『ずいぶんと大きな町だな』
「そうだね」

 過去何度も序列一位だったからなのか、今まで見てきた技国のどの町よりも大きい。

 ここは過去二十四年間、ずっと首都でありつづけた。
 それゆえ、町は少しずつ発展していったのだろう。

『ふむ……あそこに降りればよかろう』

「降下場所、見えた?」
『ああ、小さきものどもが集まっておる』

 シャラザードのいう「小さきもの」とは小型竜のことだ。
 王女殿下が乗った編隊が先行していたはずなので、おそらくそれだろう。

「じゃあ、そこに向かってくれる?」
『心得た!』

 上空を二度旋回し、敵でないことを示してからゆっくりと着陸体制に入る。

 シャラザードが着陸した場所は、今回のために特別に誂えた竜専用の広場のようだ。
 ゲートがあったので竜国の関係者以外だと、竜の世話をする者しか入れないはずだが、シャラザードが降りてゆくと、驚きの声があちこちから挙がった。

 一般の人たちだろうか。
 そんなはずがないと思いつつ目を凝らして見ると、みな同じ服を着ている。
 広場の係員らしい。

「竜に慣れていない人が多そうだ。シャラザード、大丈夫?」
『我は木にせんよ』

「そう? 僕はこの町にしばらく滞在するから、ここに来られるのは数日おきになると思う」
『うむ。その後はちゃんと陰月の路へ連れて行くのだぞ』
「分かったって」

 前回の約束を履行したと思ったら、また新たな約束をする羽目になってしまった。
 いつになったら僕は、学院の授業に出られるのだろうか。



 もうすぐ十月の中旬が終わる。
 開催前の式典はほぼ終了し、あとは競技会本番を待つだけになっているはずだ。

「兎の氏族、客分待遇のレオン・フェナードです」

 僕はアンさんから貰ったプレートを取り出し、広場の責任者に見せた。

「はっ、承っております」

 発行されたプレートは兎の氏族のもの。
 すでに話は通っているようだ。

 招待客だけでも数千人の規模になっているだろうに、よく覚えていられるものだ。

 僕に与えられた宿泊施設は、兎の氏族が使うもの。つまりアンさんと一緒だ。
 同時に、アンさんの両親とも……一緒だ。

「ようやくわたくしの両親と会えますわね」
 と以前、アンさんが言っていた。ニコニコ顔で言っていた。
 嗚呼、緊張する。

「竜国が使う施設はどのあたりになりますか?」

「兎の氏族が使われる建物からですと、行政区画で二ブロック先になります」
「そうですか。ありがとうございます」

 来賓を受け入れられそうな建物がそう並んで建っているわけではないが、結構離れているな。

 王女殿下には、今日のうちに顔を出しておこう。
 無視していると、後で何を言われるか分からないし。


「お待ちしておりましたわ、レオンくん」
 建物に入ると、下のロビーのところでアンさんが待ってくれていた。

「えっと……僕が来るの……分かっていたんですか?」

「少し前に、先触れが来ましたので」
「なるほど……」

 高貴な方々が急に現れると困るから、先触れを出す措置が取られるのか。
 先触れというものがあるのは知っていたが、僕がその対象になるなんて想像していなかったから、完全に頭から抜けていた。

「レオンくんをわたくしの両親に会わせたいところなのですが、運営本部に詰めておりまして……夕食のときでよろしいでしょうか」

「もちろんです。早く会いたい気持ちもありますが、今は大事な時でしょう。僕のことは気にしないでください」

 どうやらいまは留守らしい。
 正直助かったと思っているのは内緒だ。

「ではお部屋にご案内致しますね」
「お願いします」

 アンさんと一緒に階段を上がり、これからのことを考える。

「技術競技会はおよそ一ヶ月続きます。わたくしは最後まで参加しますけれども、レオンくんはどうされます?」
 どうやらアンさんを同じことを考えていたようだ。

「僕は半分くらい参加ですかね。それ以上になるとシャラザードが月魔獣を狩らせろと騒ぎそうですので」

 ここからだと陰月の路がかなり遠い。
 行って返ってくることもできるが、技術競技会を最後まで見なくてもいいと思っている。

「そうですか。閉会式で序列が発表されますので、一緒に参加したかったのですが」
「そういえば、集計結果が発表されるのですね」

 このイベントはあくまで競技会であるため、個々の発表や展示品にポイントが付く。

「はい。そうしないと次の首都が決まりませんので」
「そうですね……閉会式のときだけ戻ってくることも可能かもしれません。そうしたら一緒に参加できますね」

 そう言うと、アンさんの顔がぱぁっと明るくなった。

「でしたら、ぜひご一緒しましょう。次の首都は兎の氏族になりますので、シンボルの譲渡が行われます」

 序列一位になると、技国の首都を表すシンボルがその場で受け渡されるらしい。
 僕は閉会式に参加するのであって、その受け渡しに参加するわけじゃないよな。

「そうですね。考えておきます。……でももう順位は本決まりなんですか? 競技会はこれからですけど」

 素朴な疑問をぶつけると、アンさんは少し難しい顔をしつつ、説明してくれた。

「それはおそらく確定だと思います。新しい技術や製品は一朝一夕に出てくるものではありませんし、その前段階で発表される論文の数々も考慮されますので。それに大山猫の氏族と鴎の氏族は同盟を破棄しましたので、これまでの共同研究は今回発表されません……というか、ポイントが付く対象にならないのです」

 裏で悪いことをしないように、この競技会には厳密なルールがある。

 とくに同盟や共同開発に関するものは厳格に細部まで決められており、両氏族が同盟を解消したことで、共同名義で発表できなくなったという。

 大山猫の氏族は、基礎研究を鴎の氏族に任せていたために、今回メインとなる研究発表や製品がすべて無効となってしまった。
 大山猫の氏族だけにポイントが付けられないからだ。

 序列一位と序列二位がそんな感じであり、今まで順調に研究を続けてきた序列三位である兎の氏族は、大同盟を組んだことでさらに大きくなった。

 さすがに今回は負ける要素は皆無であるという。
 結果の分かっている出来レースになっているのだそうだ。

「なるほど、そういうことですか」
「ですので、すでに本拠地では首都移転に向けて受け入れの準備を進めています。商人たちもそのつもりで動いているようですわ」

 これまでの八年間で発表されてきたものも点数化されており、今のところ兎の氏族が独走しているようだ。

「では、競技会も安心して楽しめますね」
「そうですわね」
 アンさんはニッコリ笑った。


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