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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 十月の上旬。
 竜国からサーラーヌ王女一行が技国に向かって出発した。
 技術競技会は今月下旬に開かれるが、オープニングセレモニーなどは中旬に行われる。

 王女殿下はそれに先駆けて会場入りし、他国の高官と会談の時間を設けるつもりらしい。

 僕はと言うと、いまだ王都にいる。
 最近ようやくシャラザードとの約束を消化し終えたところであり、少しの間だけ休息を取っていたのだ。

 もちろん、情報収集は怠っていない。

 とくにリンダにはいろいろ助けてもらっている。
 今日も、最新の情報を教えてもらうことになっていた。

「競技会にはあなたも行くんでしょ?」
「そうだね。アンさんから招待されているから、一般枠じゃないみたい」

 竜国ではなく、兎の氏族からいただいた招待状がある。
 アンさんの婚約者――身内としての参加だ。

「いつ頃出発するの?」
「実際に競技会が始まってからだよ。僕の場合、政治的な立ち回りは必要ないからね。純粋に競技会を楽しもうと思っている」

「あなたの場合、その方がいいかもね」

「それよりも、魔国の情報が入ったって聞いたけど、どうなの? できれば技国へ立つ前に色々知っておきたいんだけど」

「魔国と大口の取り引きをしている商会から聞いた話なのだけど」
 そう前置きして話し出したリンダの表情は、いつにも増して真剣なものだった。

「まず食糧を買いあさっているのは本当。来るべき時に備えてと釈明しているようだけど、だれも信じていないわ」

「ということは、戦争が近い?」

「可能性はかなり高いわね。月魔獣の被害がかなり増えたみたいで、魔国民を南方へ避難させているのよ。そのせいで兵たちが大わらわ。兵の運用からは行動の判断がつかないみたい」

 魔国民を兵が誘導する関係上、北から南へと難民に寄り添うように移動しているらしい。
 それだけをもって戦争準備とは言えないので、判断が付かないようだ。

「うーん、そうすると時間はまだあるのかな」
 民の移動が終わらないかぎり、兵が分散したままだろう。

 それが集結するようならば、潜入している〈影〉が見逃すはずがない。

「そうは言っても、あと何年も猶予があるとは思えないわね」
「大転移の開始と同時とか?」

「それで困るのは魔国じゃないかしら。あそこが一番被害が多そうだし」
「だからこそということもあるんじゃ?」

「どうせなら、侵攻と同時に? まあ、考えられないわけじゃないけど、ちょっと場当たり的かな。わたしだったら、やらないと思う」

「勝算があれば、実行に移しそうだと思うんだけど。まあ、年内の侵攻も覚悟していた方がいいかもね」

「その方がよさそうね。一応、わたしももう少し注意して情報を集めてみるわ。それとウルスの町からの情報が一切入らなくなったわ」

「ウルス? リトワーン卿がなにかやったの?」

「人の出入りを制限しているのかしらね。戦時ならよくあるけど、情報統制をかけたんだったら、わたしたちがいくら頑張っても無理だと思うわ」

「そうだね。もし領主が本気で情報統制するつもりなら、逆らわない方がいい」
 竜国には竜による監視網があり、町中は〈影〉だっている。

 ただの商人がそれらを出し抜けるとは思えない。
 竜国の場合、本当に情報を制限しようと思えば、できてしまうのだ。

「あなたはもうすぐ大山猫の氏族に行くんでしょ。何か分かったら、どうしたらいいかしら」

「直接知らせて貰うのは難しいかもね。僕も土地勘があるわけじゃないし」
「アン先輩に頼むって手もあるんだけど……さすがにね」

「そうだね。……だったら、ソールの町の実家に知らせてくれるかな」
「実家に? どうして?」

「本当に必要な情報ならば、僕のもとに届くから」
 僕と違って、父さんにはツテがある。

 情報を届けてくれる〈右足〉のひとりやふたり、自由にできるだろう。

「分かったわ。万一何かあったら、そうするね」
「ありがとう。そんな事態にならないことを祈っているよ」

「本当よね。……そういえば、ロザーナ先輩だけど」
「ロザーナさん? どうかしたの?」

「新しい研究先が決まったって連絡があったの。落ちついたらまた連絡をくれるって書いてあったわ」

「そうなんだ。みんな頑張っているね」

 王宮には資料を出し終わっているはずだ。
 ということは、それ関連でスカウトでもあったかな。

 アンさんは氏族の勤めを立派に果たし、竜国と技国の友好に一役買っている。

 リンダは商会の連絡網を構築し、こうして最新の情報を僕に届けてくれる。
 ロザーナさんはつい最近、僕が話すことができなかった『潮の民』との仲介役をしてくれた。

 本当にみんな頑張っている。
 僕はと言えば……陰月の路で月魔獣ばっかり狩っていたな。
 あれ? 成長していない?

 いや、そんなことはないはず。
 僕だって成長している……はず?

「なに変な顔をしているのよ」
「僕だけ何も成長していないんじゃないかって、ちょっと思ってね」

「大丈夫。そんなことないから。それより気をつけなさいよ。最近は、あっちもこっちもきな臭い話ばかりだから」

「そうだね。十分気をつけるよ」
「それから何かあったら、アン先輩を守るのよ」

「分かった。約束するよ」
「よろしい。……じゃ、また当分はあえなくなりそうだし、久しぶりに楽しみましょうか」

 いつものレストラン。
 僕とリンダはお腹いっぱいになるまで、料理を楽しんだ。




 リンダと会ってから十日後。
 僕も王都を出発して技国に向かった。

 目的地は大山猫の氏族がいる本拠地。
 もうまもなく、八年ぶりの技術競技会が始まる。

「アンさん……もう着いているかな」

 先行したアンさんとは、現地で会えることになっている。

 ちょっとだけ楽しみだ。


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