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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 九月の中旬、もうすぐ竜国運営会が開かれるという頃になって一通の書簡が王宮に届いた。

 差出人はウルスの町の領主リトワーン・ユーングラス。

 サヴァーヌ女王はそれを読む。
「……欠席ね」

 書簡には女王を礼賛する美辞麗句が並べ立てられているものの、書かれている内容はひとつだけだった。

 ――魔国の蠢動が激しいので、竜国運営会に参加できない

「強制召喚の意味が分からないはずはないし……代理を呼んでちょうだい」

 女王の言はただちに実行されて、かつてウルスの町で重席にあったモーチャン・ビスカートルが王宮に呼ばれた。

 もう何ヶ月も、モーチャンは竜国運営会に代理出席している。

 突然の呼び出しにもかかわらず、モーチャンは慌てることなく女王の前に現れた。
 礼服をきっちりと着こなし、八十歳という年齢をまったく感じさせない。

「お呼びにより、参上致しました。女王陛下におかれましては、御機嫌麗しゅう」
「まどろっこしい挨拶はどうでもいいわ。……ねえ、どうして来ないのかしら」

「魔国の動きが活発だからでございましょう」
「その話、まだ妾のところには届いていないけれど?」

「ウルスの町は魔国の国境近く。王都で分からぬことでも、現地では違うかと」
「ふうん。……で、それを信じて欲しいわけかしら?」

「事実でございますれば」
 モーチャンは深く頭を垂れる。

「どう事実なのかしら」
「魔国が竜国を狙っております。領主がウルスの町を離れるわけには参りません」

「魔国が竜国を狙っているのは昔からではないかしら」
「左様でございます」

 とりつく島のない言い方ではあるが、モーチャンの態度は昔から変わらない。
 女王は「ではいつになったら来られるのか」と問いただしたが、モーチャンは首を横にふるばかり。

 女王はモーチャンを下がらせた。



 リトワーン卿が女王に対して叛意を持っている?
 王宮内でそう囁く人が増えた。

 王宮のそこかしこでヒッソリと、だが確実に噂は広がっていった。
 強制召喚に応じず、今月の竜国運営会も欠席。

 女王は、会議の席上でどう発言するのか。
 運営会でリトワーン卿の領主の任を解く可能性もある。

 そうなったとしたら、一体だれがウルスの町の領主になる?
 そもそも領主交代と言っても、実現するとは思えない。

 新領主がのこのこ出かけていったら、不幸な事故が起こることだって十分あり得る。
 ではどうするのか? 放っておく? 軍を差し向ける? それとも再度召喚する?

 噂が噂を呼び、人々の関心が集まる中、九月の竜国運営会が開催された。

 会議の出席者たちは緊張しつつも興味深げに女王の発言に注目するが、会議の次第がすべて終わるまで、ついぞリトワーン卿の話題が出ることはなかった。

 女王は無視を決め込んだのだ。



 月が変わって十月。
 王都の話題はふたつに絞られた。
 ひとつは今月開かれる技術競技会。

 他国の話題とはいえ、八年に一度である。
 技国で行われたとしても、竜国にも大いに影響がある。

「なんでも今回は、王女殿下がご出席なさるんだと」

「ということは、王子殿下は王都で留守番か。いまの技国は比較的竜国寄りだとはいえ、開催場所が大山猫の氏族だろ。心配だよな」

「だがあそこは落ち目だと言うし、先の内乱で多くの駆動歩兵を失ったって言うぜ。竜国に仇なすことはしないんじゃないか?」

「違えねえ。一気に踏みつぶされちまうよな」

 王都の民たちは噂好きである。
 そして何より、各国の情勢をよく理解している。

 いまの大山猫の氏族は、面と向かって竜国と争えるような状態でないこともちゃんと分かっていた。

「それよりも魔国はどうなんだ? リトワーン卿が強制召喚を蹴ったって話じゃないか」

 もうひとつの話題。
 それはウルスの町の領主、リトワーンのことである。

 彼が女王より命令を受けて王都に呼ばれたのはすでに周知の事実となっている。
 そして魔国の脅威を理由に召喚を断った事も。

「でも本当なのか? つい最近だって魔国から商人が結構来ていたじゃねえか。みんないい奴だぜ」

「リトワーン卿が方便を使ったって話もあるが、魔国じゃ兵が集まっているって話も出てるんだ」

「つぅことは、戦か?」

「食糧はかなり前から買いあさっているからな。魔国の商人がウチに流れて来たんで、流通がだいぶ滞って、かなりふっかけられたって話だ」

「それでも買いあさるんだから、金を持ってるな……」
「いや、本当に必要だからだろう。何に使うか知らねえが、いくら出しても欲しかったんだろ?」

「だったらやっぱり……戦争か?」
 誰かがごくりとつばを飲み込んだ。

「可能性、あるな」
「相手は竜国か、それとも……」

「大転移が近いって噂もあるし……どうなっちまうのかねえ」
「さあな。だが我が国には竜がいる。竜操者様がいて、俺たちを守ってくださる」

「そうだな。女王陛下だって竜持ちだ」
「ああ、あの真っ白な竜はいかにも強そうだぜ」

「属性竜だから強いだろ。それにホラ、最近だって」
「黒竜か? あの暴君の」

「そうそう。黒の破壊者。完全なる闇の帝王とか言われてる」
「噂じゃ、見えてる範囲、どこでも雷を落とせるって話だ。狙われたらイチコロだぜ」

「オレが聞いたのだと、敵も味方も広範囲の雷で一網打尽だとか」
「しかも笑って味方に雷を落とすんだろ? 竜操者はまだ十七歳だってのに末恐ろしいな」

「女王陛下もその破壊力を恐れて師団長の職を与えて、王都に近寄らせていないとか」
「マジかよ。どんな存在なんだよ」

「オレも聞いた。とにかくいつもどっかに飛んで行ってるよな。学院の方にはもう一切顔を出してないんだとか。北でも西でも南でもいいから、とにかくどっかに行ってもらいたいってのが本音らしい」

「そんなに強いんじゃ、味方としては頼もしいかぎり?」
「なんで疑問系なんだよ!」

「だって、ブレス一発で王都なんか……なあ」
「全滅するよな。怖ぇ、怖ぇ」

「できればその力、敵に向けてほしいな」
「雷は味方相手に打ってる事が多いらしいけどな」

「他の竜操者が涙ながらに語ってるんだよな」
「失礼な態度を取ったら、次の日にはいなくなってたとか聞いたこともあるぞ」

「竜が怖いんだか、竜操者が怖いんだか」
「両方だろ?」
「違いない」

 王都の民は噂好き。
 最近流行の噂は、技術競技会とウルスの町について。
 そして最後はシャラザードの話になって、みな一様に黙り込む。

 雷の被害を受けた竜操者の話が広がり、それが自分たちに向くのではと首をすくめる。
 空を見上げ、ぶるっと身体を震わすと、みなそそくさと散るのである。


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