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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 海に面したアクリの町は、竜国七大都市のひとつに数えられている。

 ここの領主フラット・エイドルには、サフランという一人娘がいる。

「お義父さん、お久しぶりです」

 ソウラン・デポイがフラットのもとを訪れたのは、前回の訪問からおよそ五十日ぶりである。
 ソウランとサフランはすでに婚約して長い。

 式こそ挙げていないものの、すでに家族同然のつきあいをしている。

「よく来てくれたね、ソウラン。娘は温室にいるよ」

 植物を愛し、育てることが大好きなサフランはよく庭や温室、特別に作られた庭園などにいることが多い。

「そうですか。あとで行ってみます。……それで南の町についてなんですけど」
 ソウランの言葉にフラットは眉根を寄せて考え込む。

「こちらにも話が来ている。かなり荒れたらしいね」
「そのようです。このまま北上すると、難民がこの町にも来かねません」

「心配してくれたのかね。それはありがたい。……たしかに魔国人の流入は多いが、ここは港町だ。外から入ってくる人は昔からいるし、これまで培ってきた経験もある。対策しているから心配ないと思っているのだけど」

「それならば良かったです。南では一時期治安がかなり乱れたと聞きましたので」
「そのようだね。でも収まってきているのだろう?」

「はい。表面上は……ただし、実際のところは分かりません。流入者が他の町に分散した可能性もありますので」

「そうだね。よし、我が町の防衛も少し強化しようか。幸い、陰月の路とは離れているものの竜操者の数はそれなりにいるからね。街道の監視を兼ねて、周辺の巡回をお願いするよ」

「そうした方がいいですね。良かった。懸案がひとつ減ったので、安心して王都に戻ることができます」
「ふむ……今度は女王陛下のもとに?」

「はい、そうなんです。今はどこもかしこも人手不足で、王都に常駐をお願いされました」

「なるほど……魔国の動きが活発だし、もう一波乱あるかもしれないね」
「魔国ですか? 魔国がまた蠢動しゅんどうをはじめたのですか、お義父さん」

「兵を出す動きが出ているらしい。その矛先はどこになるのやら」

「そうですか……魔国の兵は月魔獣と戦っているからか、精強という噂ですし、酷いことにならなければいいですけど」

「まあ、ここまでやってくることはないだろうし、私は移民の対応を優先せねばならないけどね」

「そうですね。魔国への対応は、リトワーン卿に任せるのがいいでしょう。あの町の軍事力は竜国一ですし」

「そうだな」
 ソウランの言葉に、フラットは静かに頷いた。

「では私は彼女の所に行ってきます」
「そうだね。またあとで。一緒に夕食を食べていく時間くらいあるのだろう?」

「ええ、明日までに帰還すればいいですので」
 そう言ってソウランは出て行った。



 サフランが温室で育てている植物は、技国の中でも暖かい場所にしかない珍しいものばかりだった。

「こんにちは、私のお嬢さん」
「ソウランさま。いつこちらへ?」

「つい先ほどです。少々気になったことがあったので、王都に戻る前、お義父さんに確認してこうと思って寄らせていただきました」

「そうだったのですか。父へはもう?」
「はい。お話しできました。対策済みのようで、安心したところです」

「それは良かったですわ。……ソウランさま、ここは少々暑いですので、お部屋でお話し致しませんか?」
 サフランはにっこり笑って、摘んでいた花を持ったまま立ち上がった。

「そうですね。これは私が持って行きましょう。……珍しい花ですね。南国風の……ちょっと見たことがないタイプです」

「はい。オウセンホウという名前で、とても鮮やかな花を咲かせるでしょう? こんなに綺麗なのに、根には毒があるのです。といっても弱いものですけれども」

 根から抽出する絞り汁は無味無臭らしく、知らずに食すと、身体が痺れるという。

「毒ですか。しかも根に?」

「南方の地中には多くの虫が生息しているようで、美味しいと根っこでもなんでも囓るそうなんです。ですからこうして毒を溜め込んで自身を守っているのですわ。……人間が食べても痺れるだけですけれども、虫には効果があるのでしょう」

「なるほど。生きる知恵ですね」

 虫も生きるために必死ならば、植物も必死なのだとサフランは言う。
 ソウランもそれに同意し、ふたりは連れ添って建物の中へ入っていく。

「このオウセンホウはどうするのですか?」
「花瓶に生けて、玄関口に飾ろうかと思っています」

「ではお手伝いしましょう。花瓶は重いですしね」
「ありがとうございます、ソウランさま」

 こうしてソウランは領主の館で一晩過ごし、翌朝王都へ戻っていった。


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