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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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「では、こちらになります」

 仕込みを終えた僕は、貴族に手渡すパンを持って地下水路を進んだ。
 闇に溶けるので、そこらの馬車よりもずっと早く進むことができる。

 しかもどこも迂回することがないため、ギリギリの時間で出発しても間に合ってしまう。
 ロブさんやミラはゆっくりしている僕を心配して……というか、オロオロしはしめたので、余裕をもって出発したのだが。

「ウチで働いていたせいで遅刻したなんてなったら大変だから、もう行って!」

 そう言われてしまえば、行くしかない。

 今日はいつもと違って、貴族の馬車に届け物がある。
 闇に潜った状態でも分かる。注文されたパンはまだ温かい。

 普段ならば寮の近くまで行くのだが、さすがに学院からパンのかごを持って出て行くのはまずい。
 少し離れた場所から地上に出たほうがいいだろう。

 毎年、通行止めされる場所は決まっているらしく、そこを教えてもらったら、すぐに目当ての貴族を発見した。

 というか、その馬車が目立っていた。

「ねえ、この先に行けないらしいのよ。何か抜け道を知らないかしら」
 顔を出したら、開口一番そう言われた。ブレないな、この人。

「僕は最近王都に来たばかりですから、なんとも。そもそも、これは入学式のために通行止めをしているみたいですよ」

「さっき言われたわ。だからコッソリと入れないかなと思うわけ」

「その通行止めの理由が、お貴族様や大商人を近寄らせないためですよね。だったら止めたほうがいいと思います」
 思いっきり排除対象者だし、この人。

「そうだけど、せっかく来たのに、会えずに帰るわけにはいかないのよ」

「入学式には女王陛下も来られるんですかね」
「出席するのは王族のだれかだと思うけど、どうしてそう思うの?」

「通行止めをしているのが近衛隊だからですよ。あれには賄賂も権力も意味ないですよね」
 賄賂で転ぶ近衛隊がいたら、危険でしょうがない。

 近衛隊は女王陛下直属の軍隊なのだから、貴族の命令でも聞く必要がない。
 この人がいくら頑張っても無理なのだ。

「封鎖しているのは道だけよね。民家とかに入って、庭を抜けてうまく……」

「それこそ見つかったら、かなりヤバイことになりますよ。領主様にも迷惑がかかるかもしれません」
 僕はヤバイという言葉ワードの発音を強めにした。

 本当にヤバイのだ。
 見つかって責任逃れのために「王都のパン屋に抜け道を教えられた」とか言われたら大変なことになる。

「うっ……そ、それはマズイわね」

 さすがに思いとどまったようだ。
 お家断絶を想像したのかもしれない。

「というわけで、僕は戻ります」
「分かったわ。ありがとうね」

 ミラと喧嘩腰で話していたからどんなわがままお嬢様かと思ったが、ちゃんと礼が言えるらしい。

「いえ、毎度ありがとうございました」
 僕が頭をさげると、貴族は馬車の紋章を指差した。

「ミューズという町に来たら、私のことを思い出しなさい。領主に連なる一族でハモン家のリミディアよ」
「僕はレオンといいます。実家はソールの町でパン屋をやっています。先週から『ふわふわブロワール』で修行をはじめました」

「そう。あなた、いいパン屋になるわ。さっきは間に入ってくれてありがとね」
 貴族の女性はウインクした。

               ○

 寮に戻り、着替えを済ませる。

「最近毎日出歩いているね。アークくんはもう、出発しちゃったよ」
 マーティ先輩が教えてくれた。

「入学式の開始まで、まだ時間はありますよね」
「そうだけど、いろいろと出会いがあるじゃない。それでだと思うよ」

 王立学校の入学式は数日前に済んでいる。
 そのため、今日は竜の学院生だけの式典になっている。

 この入学式は、現役の竜操者だけでなく、軍関係者も多数列席すると聞いたことがある。
 マーティ先輩は出会いと言っていた。

 アークはすでにそういう人たちに売り込みを始めるつもりだろうか。

「先輩たちは出席しないんですか?」
「今日も騎乗訓練だね。まだまだ覚えることが多くて大変なんだ。キミも来年になったら分かるよ」

 最近は毎日、竜のタイプ別訓練や混成部隊の訓練をしているらしい。
 出現する敵に合わせてフォーメーションを組むらしく、位置取りや進軍速度を合わせる訓練をひたすら行っているとか。

「竜の方が人よりもタフらしいですからね。やっぱり大変ですか?」
「そうだね。訓練の途中で寮のベッドが恋しくなるかな」

 最近の先輩たちを見ていると、一日おきにしか帰れていない。
 野外訓練と称して、かなり遅くまで騎乗しているようだ。

 それでも竜の方はケロッとしているのだからやってられないと、マーティ先輩は笑った。
 来年は僕がそれをやるのだ。

「では行ってきますね」
「レオンくん、気をつけるといい」

「……はい。セイン先輩、ありがとうございます」
 突然、セイン先輩がそんなことを言った。マーティ先輩も苦笑している。
 何を気をつけろというのだろう。

 そもそも会場は、学院の向かい側。
 道を挟んだ先に行くだけなのに。

 しかも、道路は封鎖されていて、関係者以外は立ち入り禁止になっている。
 貴族のお嬢様ですら入り込めないのだ。
 気をつける必要がどこにあるのか。

「じゃ、行ってきます」

 僕は寮を出て、向かいにある王立学校の敷地に足を踏み入れた。

「へえ、ここもずいぶん緑が多いな。学院もそうだけど、土地を贅沢に使っているよな」

 学院の方は、竜が闊歩するので、道幅もかなり広い。
 訓練する場所も必要なため、敷地が広く、移動するのも時間がかかったりする。

 王立学校の方は、それほど広いわけではなさそうだが、うまく道がくねり、木々が視界を遮り、実際以上の広さを演出しているようだ。

「……ここが入学式の会場か」
 立派な講堂である。

 王立学校の生徒数は各学年五百名で、三学年合わせて千五百名と聞いている。
 このくらい大きさは必要なのだろう。

「まずは受付に行くのね」

 講堂とは別の校舎に入り、受付と書かれた場所に到着する。

 卒業生代表、来賓、学校関係者、地域代表、功労者、軍関係者、経済連関係者……受付の中にも様々な種類があり、どこに行くのか迷ってしまう。

「入学者ってのがあるな」

 一番端だった。
 主賓じゃないのか?
 なんで端なんだろう。

「ご入学おめでとうございます」

 学院の制服を着ているためか、すぐに受付は終了した。
 竜紋を確認されたくらいか。

 胸に大きな花を付けられた。
 今年の入学者全員がつけるらしい。

「ちょっと派手ではないですかね」
「そんなことありません。よくお似合いですよ」

 応対してくれたのは、王立学校の職員だろうか。
 すごく丁寧な対応だった。

「あと三十分ほどで入学式がはじまります。もうみなさまお揃いですよ」
「えっ、そんなに早いんですか?」

 みんなやる気あるな。

「控室に行けば分かると思います」
 突き当たりに『控室につき、関係者以外入室禁止!!』とデカデカと書かれている。

「あそこですか」
「そうです」

「分かりました。行ってきます。ありがとうございました」
「お気をつけて」
「…………はぁ」

 変な見送られ方をされた。そんなに僕は頼りなく見えるのだろうか。
 控室の前に立ち、両開きの扉を開いた。

 人で溢れている。なんでこんなにいるんだろう?
 中へ一歩踏み出したら、ワッと言う叫びとともに大勢の若い女性が駆け足でよってきた。

「えっ?」

 僕はあっと言う間に囲まれ、腕を捕まれ、襟元を手繰たぐり寄せられ、腰と胸と足を拘束された。

「えっ? ええっ?」

 集まってきた全員が同じ制服を来ている。
 王立学校の生徒たちである。しかもみんな女生徒だ。



 そして全員が狩人ハンターの目をしていた。

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