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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 軍事パレードは、町中にある三カ所の拠点を巡ると教えてもらった。
 僕はアンさんとともに、ルートの確認がてら、シャラザードに乗って出発地点まで進む。

 といっても飛ぶわけではない。
 シャラザードに歩いてもらっている。

 出発地点は軍事演習場となる。
 そこから競技場までが最初のルート。

 その後は町の外周近くにある避難施設まで進む。
 そこはかなり広い場所らしく、普段は人々の憩いの場となっているらしい。
 最後は氏族が住む本拠地内に戻る。

「駆動歩兵が通ることも考えられているから、道が広いですね」
 パレードのルートだけをみれば、余裕をもって通行できるだけの道幅が取られている。
 馬車でも四、五台は並んで進むことができそうだ。

「技術競技会の開催を見据えていますので、建物は最初から密集させないようにしてあるのです」
 なるほどと思う。

 もしこの都市で技術競技会を行う場合、かなりの人がやってくる。
 建物の建て替えが不可能である現状、先に場所を確保しておくのは必要なことだろう。

「出発地点はこの先ですか?」
「はい。楽団の演奏が聞こえてきましたね」

 人々の耳を楽しませるため、出発までの間は、音楽隊が楽曲を奏でるらしい。
 ずいぶんと大がかりだ。

「それではわたくしは、隊に合流します」
「はい。パレードが終わったらまた」

 僕はアンさんを下ろしてもう一度シャラザードに乗った。

「シャラザード、竜の列があるだろ。あれの先頭を歩くからな」
『心得た。なに連中を引き連れるのは慣れておる。心配いらん』

「すごく心配だから、勝手なことはするなよ」

 釘を刺しておかないと、シャラザードは何をしでかすか分からない。
 最近はそれほど暴走することはないが、念の為だ。

 僕の心配をよそに、パレードはつつがなく進んだ。
 シャラザードが行進するたびに、周囲から驚きの声と歓迎を表す大きな声援が届く。

「そうか。この国だと、竜を間近で見る機会なんてないんだものな」

 多くの観衆が一度は驚き、目を見開く。
 中には数歩後ずさろうとして後ろの人と衝突し、慌てて謝る姿が見て取れる。

 ――竜は怖いもの。

 そう教えられて育った大人ほど、極端な反応を示す。
 とくにシャラザードの巨体を見れば、小さい頃に親から教え込まれた話などが思い浮かぶのだろう。

 悪い子でいると、真夜中に怖い竜が飛んでくるわよと。

 同時にシャラザードを歓迎する声も多く聞かれる。
 婚約発表と同日の軍事パレードだ。

 どうやら観衆はそのことを知っているらしい。
「おめでとう」
 そんな声がそこかしこから挙がっている。

 パレードは予定のコースをゆっくりとまわり、最後は氏族が住む領内に入って終わった。

 多数の駆動歩兵と竜が参加したこのパレードは、行商人などから技国中に広まるだろう。

 もちろん魔国や商国にも伝わる。

 竜国と誼を通じ、軍事的協力関係であることを大々的に宣伝できたはずだ。
 これを受けて両国がどのような行動に出るのか。

 きっと竜国も技国も他国に多数の〈影〉や間者を忍び込ませていることだろう。

 すでにこの大陸は二つの大きな勢力に別れて、覇権を握るまで歩み寄ることはないのだと思う。

「ごくろうさま」
 パレードを終えて戻ったら、王女殿下が出迎えてくれた。

「すごい歓迎でした」

「わたしも馬車で回ったけど、たしかに熱狂的だったわね。民はまだこれから起こることは何も知らされていないから。純粋に心から喜べるのよね」

 もうすぐやってくる大転移。
 どれだけの人や竜が死ぬか分からないが、陰月の路にいた僕らは分かる。
 技国の首謀部が予想している被害を下回ることはない。

 だからその前に、『楽園』の決着をつけなければならない。
 大転移は数年間続くと言われている。

 できればその前に『楽園』を見つけ出したい。
 商国も同じ事を考えているだろう。

 それを出し抜くには、やはり竜――シャラザードの力が必要ではなかろうか。

 国を統べるのと同じほどの富が眠っている『楽園』。
 本当に、どこにあるのだろうか。



 パレードを終えた僕は、そのまま氏族の人たちとパーティに出席した。
 会場でさまざまな人と出会い、多くの話をしたが、僕は大転移と『楽園』のことばかり考えていて、あまり覚えていない。

 パーティ終了後、氏族の館で一泊する。
 翌日僕は、両親を連れて帰ることになる。

 母さんは最後の方になると吹っ切れたらしく、氏族に連なる人たちと楽しく談笑して過ごせたようだ。

 父さんは相変わらず飄々(ひょうひょう)としていて、高位の若い女性方になぜか人気だった……なぜだ?

 長期休みも、もうすぐ終わる。

 翌朝僕は、アンさんと王都で会う約束をして、技国をあとにした。

 そろそろ学院でしっかりと授業を受けなければ。
 最近、ほとんど出席していない。

 たまには集中して勉学に励むのも悪くないと思う。

『主よ、戻ったら陰月の路で月魔獣狩り三昧だな』
「…………ああ、そう言えば忘れてた」
 勉学はもう少し先になるだろうか。

『忘れてただとぉ!?』

 帰路の途中、シャラザードの咆哮が天に響いた。


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