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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 ディオン氏族長は、『魔探』の暗号の中身を知っているという。

「何が書いてあったんですか?」

「多くは『楽園』についての見解。他には資料の在処を示していたことじゃな」
「資料? 『楽園』のですか?」

「そうじゃ。すでに資料も探し出してあったそうじゃ。潜入させた者もしっかりとこの目で見てきた。といっても全部ではないが。知りたいじゃろう?」

 氏族長がもったいつけるので、僕は大きく頷いた。
「もちろんです。ここまで来てじらさないでください」

「そうじゃな。『魔探』が残した資料は多岐にわたる。たとえば『楽園』でしか見ることにできない植物。花や葉、種などが乾燥させて資料として保存されていた。さらに地図もある」

「地図?」
『楽園』の地図があれば、もう見つけたも同然じゃないか。

「地図といっても、町と畑、山、川など大ざっぱなもののようじゃ。ただし、その規模からすると果てしなく大きい」

「果てしなく……大きい?」

「山ひとつとっても巨大じゃろ? それが地図の中にはいくつも書き込まれておった。湖もそこから流れる川も、それだけではない。村々の位置も書き込まれていた。付近には広大な穀倉地帯もある。そうそう、地図のほかにも風景を描いた絵もかなりあってな、どれもそこが豊かな土地であることを表していた」

 氏族長の言葉からふたつの事が分かった。
 まず『魔探』は『楽園』に行ったことがある。
 そして、『楽園』には人……おそらく僕らと一切交流のない人々が住んでいる。

「すごい情報ですね」
「そうじゃろ? しかもまだあるんじゃ」
 氏族長は意味深に笑った。

「まだ、何があるんですか?」

「なぜ『魔探』が隠したのか、その理由が記されていたのじゃ」
「核心に迫る内容ですね、それ」

「うむ。『魔探』によると、この地はわしらが得るには広すぎ、また魅力的過ぎると。現地民にとってそれは良くないことじゃから、ここに至る道筋は記録に残さない。そう書いてあったのじゃ。じゃが万一、国が崩壊するような事態になったときのために記録を残しておくと。そのときは国ごと移動せねばならないかもしれない。その地は一国をまるまる引き受けてもまだ余裕がある。ゆえにこの記録を残しておく。この地『楽園』を永久にそのままにできることを祈って……とな」

 衝撃的な事実だ。
 まず『魔探』の考え。
 その地を僕らが知れば、きっと入植が始まる。

 もとからいた住民の意思とは関係なく。『魔探』はそれを危惧したのだ。

 その場所を隠すことで『楽園』に住んでいる人々を守ろうとした。
 ただし、大転移に代表されるように、ひとたび災害があれば国であろうとも容易に滅ぶ。

『楽園』の情報を隠し続けて国が滅ぶのは本末転倒。
 そのために、中途半端になろうとも、『楽園』の情報は残したのだろう。

「大転移の資料に暗号が挟まっていたというからな。わしらが総力をあげれば、ヒントなしでもたどり着けると思ったのじゃろう。わしだって地上のどこかにあるなら必ず見つけ出すつもりじゃ」

「そうですね。一国まるまる受け入れてもまだ余裕があるなんて……すごい話ですよ」

「これで商国の戦略が読めた。水面下でこれほど動いたのも、わしらがそれにかかりっきりになり、『楽園』探索をさせない作戦じゃ。自分たちだけで見つけられるよう、四つの国を巻き込んだ戦略を考えたのじゃろう」

 たしかに『楽園』がこれほどのものならば、戦争すら辞さないかもしれない。
 ある意味、究極のお宝ではなかろうか。

「ここまでは調べられたのじゃが、そこから警戒が厳しくなってな。やむなく撤退したというわけじゃ。もう少し潜入を続けて商国の作戦までさらってこられたら良かったのじゃが」

「いや十分だと思います。これで僕らも本気で『楽園』を探さねばと思いましたし、商国も引かないことが理解できました」

 たとえば、竜国と魔国を合わせたくらいの面積とか、四つの国が生産する穀物と同じくらい生産できる土地が余っているとか。

 そういうことすらあり得る。恐るべし『楽園』。
 逆に、よく『魔探』が隠したなと思う。

 自分が第一発見者になって権利を主張すれば……いや現地民がいるのか。

「すでに入植している者と接触しているはずだが、交流がないのはどういうわけか」
「ん? 父さん、どういうこと?」

「向こうだって、こっちの国の様子を知りたいだろう。誰一人、『楽園』を出なかったのかなと思ってな」
「それは『楽園』があまりに魅力的過ぎたからとか」

「人がいればそこは他人の土地だ。それだけ価値がある土地ならば、こっそり現地民を抹殺し、建築物を破壊し、無人だったとした上で接収できる。どのような考えの人間がいるか、実際に見て判断したいはずだが……」

 父さんは考え込んでいる。
 現状では、『楽園』に行ったのは『魔探』ひとり。
 そして『楽園』からこっちへ来た者はまだいない。

 いや、すでに来たことがあるとか?

 商国に技国、魔国や竜国……そのどこかの村か町に行って、信用ならないと思ったのかも。
 だから『魔探』とともに『楽園』の場所を隠した。

 真実は分からない。
 どちらにしろ、『魔探』は名誉ではなく、隠蔽することで彼らを守る選択をしたわけだ。

 アンネラのお父さん。
 生きているうちに一度会ってみたかったな。

 そう思わせる人だな。

「わしなどは、『楽園』を見つけた後のことを心配してしまうな」
 氏族長が言うと、父さんが後を継いだ。

「もし竜国が先に見つければ、現地民と交渉して占有権を買い取るか、何らかの交換条件で専有を認めさせるでしょうな。そして商国を排除して自前で商業ルートを確保。……いや、新しい秩序を構築するかもしれん」

「新しい秩序? なにそれ?」
 父さんは何を言っているんだ?

「入植に制限をつけるとかだな。貴族、平民のような感じで一級、二級と等級をつけて権利を制限するとか。そうすることで、今回魔国から来たような移民を排除できる。ある意味、ゼロから国造りできるのだから、やりがいもあるだろう」

「逆に商国が得た場合は、富を手放さないで活用するじゃろうな。切り売りすれば、いっときは儲かるが、貸し出すことで延々と富を生み続けた方がいい」

 氏族長も父さんも怖いことを言うな。

「魔国だったら、全国民が移住するかもね」
 大転移で一番被害を受けるのが魔国だ。国を捨てるくらいやりかねない。

 結局僕らの情報交換でいろいろなことが分かった。

 王都に戻ったら、女王陛下に報告しなければならない。
 これは表に出してはまずい話なので、こっそりとだ。

 こうして僕らと氏族長との話は終了し、僕らは部屋に戻った。

 明日はいよいよ、婚約の発表だ。


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