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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 僕がディオン氏族長に語った話は、あまり多くない。
 偶然見つけた島に『潮の民』がいたこと。
 ただし、そこは『楽園』ではなかったこと。

 今は僕だけしか、そこに辿りつけないことなどだ。

「……ということは、『楽園』は他にあるというわけか」

「もし『楽園』が本当にあるのならば、そうですね。同じく旧王都から出て行ったといわれる『霧の民』がいますので、そちらの可能性もありそうです」

「なるほどのう。『霧の民』というと天蓋てんがい山脈か? あそこに『楽園』のような広い土地があるのか疑わしいわな」
 氏族長は懐疑的なようだ。

 僕も天蓋山脈の中は難しいと思っている。
 高い山が何重にも連なり、竜でさえ越えていくのが難しい。

「難所ばかりと聞きますし、徒歩では山脈ひとつ越えるのも命がけですね。……とすると南の海の向こうですが」

 天蓋山脈を延々と進むと、平らな大地が存在していることが分かっている。
 それは竜国が調査したのだから、詳しいな記録も残っている。

 天蓋山脈の向こうは、植物がほとんど生えておらず、ただ栄養のない荒れ地が広がっている。

 当時、天蓋山脈の向こうを探した竜操者が嘘を吐いたわけではないが、何らかの勘違いがあっても不思議ではないが、どうだろう。

 ちなみに学院の授業で習ったが、天蓋山脈を越えるのは竜でも難しい。
 高い山が連なっているため、尾根の低い場所を探して越えていく必要があるらしい。

 そのため、直線的に進むことができず、自ずと進行ルートが限られているとか。
 一万メートルを超える山がゴロゴロあるため、通常の竜では高さの限界に引っかかるのだ。

 僕とシャラザードなら可能だが、そもそも人はそんな山を越えることができない。

「南の海か……船すら進めん難所がいくつもあり、その先ものう……」
 氏族長の言いたいこともわかる。

 技国は新天地探しのため、積極的に南の海を探索している。
 竜国が東の海を探索するのと同じだ。

 南下すればするほど気温が上がる。
 それにともなって水温も上昇する。

 この水温の上昇が厄介らしい。
 南の海を探索しに出かけた船がいくつも消息を絶っている。

 水面近くに群生したの群生に舵を取られたのだ。
 この藻はかなりくせもので、水面と同化して遠目だと海面と区別が付かない。

 夜になれば尚更である。
 そのため、船団を組んで航行しても、日が昇ると一隻消えているということが普通におこるのだ。

「竜国は空からの探索でしたので、海藻地帯のことは知識として知っているだけですが、それは広範囲にあるのですか?」

 海藻地帯の正確な地図は、他国に渡してないはずである。

「かなり広い。だが問題なのは、季節によって、もしくはその年の気温によって群生する位置や範囲が変わることなのじゃ。ゆえにだれも正確なことは分からん」

「それは厳しいですね。ということは、南の海に漕ぎ出した場合、よほど幸運が重ならないと往復できるか分からない感じですか」

「うむ。それに海藻地帯を抜けた先が恐ろしい」
「そうなんですか?」

 竜国に伝わっている話は、舵に絡みつく藻のことだけだ。
 他に何かあるのだろうか。

「海藻地帯は熟練の船乗りが見れば、なんとか躱すことができる。たとえ絡みついたとしても、大勢の水夫が海にもぐり、時間をかければ藻を排除できる。もっとも、いくら廃除したところで、先に進めばすぐに絡みつくのだが」

「やはり、海藻地帯はかなり危険ですよね」
 僕がそういうと、氏族長は首を横に振った。

「いや、本当に怖いのはその先にあるガス地帯なのじゃ」
「ガスですか?」

 ガスを吸って意識がなくなるとか、そういうことだろうか。
 そんな危険な場所が南の海に?

「そのガスは、飛竜にも影響あるんでしょうか」

「いやいや、ガス自体は無力と言っていい。海底の泥からガスが発生し時折立ち上ってくるようじゃが、人が吸い込む前に海面上で霧散する」

「……? では何が危険なんですか?」

「ガスが下からたくさん上がってくるとな、それに巻き込まれた船が沈む」
「えっ?」

 海の広さからいえば、船底の面積など小粒もいいところ。
 ガスが浮かび上がってくるときは、海面が泡立つという。見える範囲すべて。

 ガスでできた泡が船底に当たると、船が徐々に浮力を失って沈んでしまうらしい。
 横転ではなく、完全な沈下。

 複数の船で航行中、海中からガスが上がってきたなと思ったら、あっというまに一隻、二隻と船が沈没していくらしい。

「理屈は分からんが、大量の泡が船の浮力を奪うのじゃ。そしてこれは逃げられん。……このような難所が南の海にはいくつかあるからのう。わしは南方に『楽園』はないと思うのじゃ」

「そうですね。ちょっと怖いですね」
 そんな難所があれば、船乗りも怖がって近づかないだろう。

「とすると、『楽園』は実在しないということになりますが」

「そこで、わしが得た情報じゃな」
 商国の上層部が握っているという『楽園』の情報か。

「興味あります」
「うむ、どこから話そうか。……まずは、潜入させた目的からじゃな」

 氏族長は、商国と魔国が「なぜ」手を組んだのか。
 両国がどこまで共闘するつもりなのかを探りだそうとしたらしい。

「潜入させた者が持ち帰った情報を聞いて、わしは驚いた。というのもな、商国は本気で『楽園』を探しておるのじゃ。投資した金額は膨大、人も能力もふんだんに使い、『楽園』を探しておる」

「つまり、『楽園』は存在すると?」
「というよりも、なぜ存在すると考えたのか。それを知りたかった」

「なるほど。そうですね。……それは分かったのですか?」

「分かった。発端は『魔探またん』の残した暗号であったな」
「はい。僕はそう聞いています」

「商国上層部はな、暗号をすでに解いておる」
「そうなんですか?」

「一部は以前より解けていたようじゃが、ここ最近かもしれんが、すべて解読したようじゃ」

「その暗号の中身は一体?」

 僕が問いかけると、ディオン氏族長はニヤリと笑った。


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