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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 ディオン氏族長に招かれた夕食会が始まった。

 ディオンさんの他には、アンさんとモーリスさんの兄妹、それにモーリスさんの奥さんも参加している。

 アンさんの両親は、すでに大山猫の氏族領に入っている。

 各氏族が集まって、技術競技会の運営組織委員会を設立しているのだとか。
 すでに準備は佳境に入っていて、委員会のメンバーであるアンさんの両親は戻ってくる暇はないらしい。

 こちらは僕を入れて三人だが、母さんはテーブルマナーにドキマキして、とっちらかっている。

 会食では、互いの近況を報告しあい、ウイットにとんだジョークを交えながら和やかに進んだ。
 氏族長は技国と竜国の友好をことさらアピールしているが、この席上で誰かに聞かせたいのだろうか。

 身内しかいないというのに。

「そういえば、大転移の噂も出ておるし、なかなか世の中は収まりつかんものよの」
 それにはどう答えればいいのだろうか。

 いかに身内のみとはいえ、そしてディオン氏族長は裏の事情を知っている。
 ここには給仕する一般人もいるし、護衛も立っている。

 こっちにも母さんがいるので、迂闊なことは言えない。

「平和・平穏が一番ですね」
 当たり障りのない答えを返しておく。

「そうであるな」

 氏族長はしきりに頷いている。
 これ以上突っ込んだ話はしないようだ。

 なんとなく、予定調和的を髣髴とさせる。
 身内ばかりとはいえ、必要な会話なのだろう。

「ときにレオン殿は、将来のこと、どのように考えておられるのかな」
 ディオン氏族長が突然、僕の人生の重大ごとを聞いてきた。

「そうですね。僕はパ……」
 父さんに睨まれた。

「コ、コホン……僕はできることなら、民の平和を守りたいと思います」
 父さん、この場でパン屋の話は駄目なのか?

 横目で父さんに目配せをすると、正解を引き当てたらしく、小さく頷いている。

「そうか。それは頼もしい。さすがは竜すら操ると言われる竜操者であるな。聞くところによると、すでに大量の月魔獣を狩っているとか」

「ええ、シャラザードが望んでいますので」
 あいつさえ駄々をこねなければ、もう少し真面目にパン屋の道を模索するのだが。

「なるほどなるほど。すでに師団長の地位にあることを合わせれば、竜国の将来は安泰ですな」
「えっ?」

 なんで僕ですらついさっき知らされたばかりの師団長の話を氏族長が知っているんだ?

 そこからはディオン氏族長の独壇場だった。
 手を変え品を変え僕を褒めそやした。

 聞いていて、自分の話じゃないほどだ。
 途中から合いの手すら入れられる雰囲気ではなくなったが、氏族長の独演会は続いた。

 相槌をうっているうちに会食は終わった。
 みればアンさんも苦笑している。

 部屋に戻り、父さんに聞いてみた。
「あれか? 政治的なパフォーマンスじゃないのか?」
「どういうこと?」

「おまえが首肯したことで、氏族長が話した内容は事実となった。今後は別の場所で細切れにしつつさっきの情報が流されるだろうな。おまえにとっては虚像だが、それが事実として、まことしやかに語られる」

 つまり、何らかの暗黙の了解があったのだろう。
 師団長の件もそうだが、いろいろ竜国とも話がついているのかもしれない。

「どうしてそんなことになったんだろう」

「ひとつは政治的アピールだろう。分かりやすい。もうひとつは軍事的な側面だろうな。いまの話が流れれば、よほどのことがないかぎり、商国も魔国も軍事行動を起こすのは躊躇う」

 覚悟なき侵略は控えるだろうと父さんは言った。
 たしかに、氏族長が語った僕とシャラザードの話は、半ば荒唐無稽とも思えるほど徹底していた。

 シャラザードだけで都市ひとつ壊滅しかねないと考えても不思議ではない。
 その戦力が兎の氏族の後ろについたのだ。

「ということは、それでも軍事行動を起こした場合……」

「不退転の決意を持ったと言えるな」
 それはそれで、大変そうだ。

 僕が師団長になったのは、どうも竜国だけでなく技国に対する泊付けの意味合いが強いらしい。
 今回の夕食会でそれが分かった。

 今後は「竜国の師団長」という立場としての振る舞いが僕に加わることになるだろう。
 他国を訪れるときは、ただの竜操者レオンではなく、師団長という肩書きがついて回る。

 それは僕にとっていいことなのか、それとも……。



 夜になり、就寝する……前に気配が生まれた。隣の部屋、父さんだ。
 父さんの気配が動く。

 付いてこいということらしい。行き先は氏族長の元だろう。
 父さんに先行させると『また』拘束しかねないので、すぐについていく。

「……きたか」

 氏族長は書斎で僕らを待っていた。
 僕らが来ることは予想していたようだ。

「孫娘から話は聞いた」
 長期休みの前に僕が女王陛下の〈影〉であることをアンさんに伝えた。

 休み中に帰郷したアンさんは、ディオン氏族長と話をする機会はいくらでもあっただろう。
 なので、このことは予想済みだ。

「その節は大変失礼しました」
 父さんが拘束したこととか、内乱のときに父さんがやり過ぎてしまったこととか。
 まとめてそのひと言で済ませてみた。

「家族になるのだ。過ぎたことはよい」
 ディオン氏族長は忘れてくれるようだ。
 太っ腹だ。

 でもこれって父さんが謝るべきことで、僕は関係ないような。

「寛大な心、ありがとうございます」

 僕が頭を下げるが、父さんはそのままだ。相変わらず過ぎて、何も言えない。
 女王陛下の前以外ではずっとこんな感じなので、慣れてもらうしかない。

「……でだ、水面下でおこっている闘争で、多くの〈影〉が命を落としているらしいな」
 ディオン氏族長の言葉に僕は驚いた。

 多くの〈影〉が命を落としている?


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