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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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「なぜ王女殿下がここに?」
「あなたのシャラザードが見えたから、迎えに来たのよ」

「分かっていて、わざと言っていますよね。なんで技国に王女殿下が来ているのですか?」
「両国の友好を深めるためだけど?」

 さも当然という風にサーラーヌ王女は答えるが、この時期に? まったく意味が分からない。
 僕と両親は、婚約発表のために呼ばれたはずだ。

 ……あれ? もしかしてそれがって、政治的行事になっている?

「気づいたようね」
「ちょっと待ってください。聞いてないんですけど?」

 学校が長期休みに入ってからは、僕はずっと海上にいた。
 アンさんは休みに入ってすぐに実家に戻っている。

 つまり僕は、アンさんと何の打ち合わせもしていない。

 王女殿下が僕より先行してここにいるということは、何らかの顔見せ、もしくは会談の予定があったからだろう。

「技術競技会は十月、今はもう八月も終わり。すぐに九月になるわ」
「そうですね」
「竜国はすでに技術競技会のあとを見据えて動いているわけ。お分かり?」

「あー、そういうことですか」

 チラッと聞いただけだが、竜国と技国が同盟を結ぶにあたって、いろいろ共同声明を出す予定がある。

 ただし今ではない。
 兎の氏族が序列一位になってからだ。

 その根回しまでの期間はあと一ヶ月。
 王女殿下は最後の詰めに来ているのだろう。

「おっと、そろそろ私は退散しましょうか。あとは若い者どうしで……おほほほ」
 そう言って王女殿下は消えていった。なにを言っているんだか。

 と思ったら、アンさんの気配がやってきた。

「ようこそおいでくださいました。レオンくん、それにお義父様、お義母様」
 そこには、マナーの手本もかくやという仕草でお辞儀をするアンさんがいた。

「こ、これはこれは……ほ、本日はお日柄もよろしく……」
 母さんは緊張して変な挨拶になっている。

「不肖の息子だが、よろしく頼みます」
 父さんの挨拶も微妙におかしい。

 その挨拶だと、僕が婿に行くみたいだ。

 ちなみに後で父さんに聞いたら、「一般常識のないおまえをよろしく頼むのは間違っていない」と胸を張っていた。

 それ、僕のせいか? なんだか理不尽な気がする。

「久しぶりです、アンさん。今日も一段と綺麗ですね」

 王立学校の制服や、竜国で華美を押さえた服装ではなく、上等な布地をふんだんに使った上品な服を着ていた。

「あいかわらず、レオンくんはお上手ですこと。……シャラザードさんもごきげんよう」

『うむ。上等な食事があるのかな』
 さっそく餌の無心って……何様だよ、おまえは。

 シャラザードの咆哮の意味が分かっていないはずだが、アンさんは「あとでシャラザードさんのために用意した特別なシャナ牛をご用意しますね」と言って笑った。

 分かってない……よな?

 僕らはアンさんに連れられて一室に導かれた。
 すでに何度か来ている僕からすると、ちょっと驚いたことがあった。

 前回の結婚式では高位の来賓が多かったこともあるだろうが、今回はより上等の部屋に通されている。
 国賓待遇なのか? 部屋までの廊下からして豪華さが違う。

 技国側の気合いの入れようも分かるというものだ。

 部屋に行くまでの間に聞いたところ、王女殿下は五日前に到着していた。
 連日、会談づくめらしいので、王族というのは大変だ。

「両親が一緒に食事をと言っておりますので、後ほど迎えがくるかと思います」

「ありがとうございます。ご相伴させていただきますね」
「はいっ」

 にっこり笑ってアンさんは去って行った。

「どうしましょう。着替えた方がいいかしら」
 母さんがオロオロしている。

 たしかに氏族が住むここでは、使用人すらもっと良い生地のものを着ている。
 かといって、こっちは一介のパン屋であるわけだし、気にしたところでしょうがない。

 僕の場合、竜操者の正装があるので事は足りるのだけど、父さんと母さんはそういうわけにはいかない。

 ……と思ったら、夕食前に部屋に礼服が届けられた。
 僕ら三人分だ。

 兎の氏族から打ち合わせのために実家に来たことがあるらしいが、そのとき服のサイズを測ったのだろうか。

「これ、どうやって着るのかしら」
 いそいそ、そわそわする母さんを放っておいて、僕と父さんは黙々と着替える。

 しばらくすると扉がノックされ、僕らは夕食に招待され……たわけではなく、王女殿下の使いがやってきた。部屋に来いということらしい。

「僕ですか?」
「そう承っております」

 王女殿下の側近のひとりが、恭しくそう述べる。
「分かりました。参ります」

「どうしたんだ?」
「王女殿下が呼んでいるみたいなんで、ちょっと行ってくる」

「分かった。何かあったらこっちで対処しておく」
「うん、お願い」

 僕と王女殿下の接点は……あまりない。ないはずだ。
 なんだろうかと訝しがりつつ向かうと、きっちり正装したままの王女殿下がいた。

「来たわね」
「お呼びと伺いましたので」

 正装している王女殿下の前で頭を垂れる。どうにもやりにくい。
 何の話だろうか。

「陛下より言付けがあります。臣下の礼を」
「……は」

 片膝をついて言葉を待つ。

「レオン・フェナードを竜国操竜会・中央竜隊・師団長の任に処す。更なる励みを」
「…………はっ?」

「更なる励みをっ!」
 王女殿下が半ギレした。

「はっ、謹んでお受け致します」

 なんだ? 師団長ってあれだよな。
 軍部の中で中位の役職。
 複数の部隊を統括する役職だったと思うのだけど。

 巻物が手渡される。

「ふー、やれやれ。……あっ、もう終わったからいいわよ」
 肩を鳴らしながら王女殿下が追い払う仕草をする。
 雰囲気が急に砕けた。

「いや、意味が分からないんだけど……って、何やってんの!?」
 王女殿下が服を脱ぎだした。

「窮屈な服を着替えるのよ。早く出て行きなさい!」

 蹴り出されるようにして、僕は部屋から追い出された。

 何だったんだ?


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