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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 女性ながらも大型の地竜を操るオリヴィエ・ナハラ操者。
 記録が確かならば、今年三十二歳になっているはずである。

 彼女が竜を得た頃僕はまだ生まれたばかりだった。
 当時、大層話題になったようだが、僕は知らない。

 僕がオリヴィエ操者の話を初めて聞いたのはおそらく王都のパレードの時だと思う。

 巨大な地竜に乗ったオリヴィエ操者が王都の町に現れたというのをソールの町で聞いた。
 店のお客さんの雑談で小耳に挟んだのだと思うが、そのときはただ「すごいな」と思っただけだった。

 だが目の前に存在する大型竜は、たしかに人々が話題にするだけのことはある。

「王都が道を広げるのもしょうがないな」

 大型竜をパレードに参加させたとき、ただまっすぐ歩いていただけで、王都で一番広い道が半壊したらしい。

 このたった一体のために、王都の目抜き通りは道を拡幅したという。

「きみ、誠に申し訳ないが、私のブロードから下りてくれるかな」

 大型竜の背に乗ったままの僕らに、オリヴィエ操者は静かにそう告げた。

「おい、シャラザード。失礼だぞ、竜の背から下りろよ」
『……ふん』

「シャラザード。言うことを聞かないなら、狩り放題をなしにするぞ」
『う、うむ……仕方ない。今回だけだぞ。こ奴は我の獲物をだな、かすめ取った憎い奴なのだから』

 なんとも未練がましいが、月魔獣の落下地点に運良くオリヴィエ操者がいたのだからしょうがない。
 彼女に狩る力があれば狩るだろう。

 シャラザードは不承不承といった風で大型竜から退いた。
 その前に僕はシャラザードから飛び下りている。

「はじめまして、レオン・フェナードといいます。そしてウチのシャラザードが失礼しました。今年竜を得たばかりの新人ですけど、どうぞよろしくお願いします」

「ふふっ、噂は聞いているよ、少年。オリヴィエだ。もっとも私の自己紹介はいらないかな」

「そうですね。少なくとも竜国で暮らしていれば、知らない人はいないでしょう。それで、怪我はなかったでしょうか」

 一年中陰月の路で暮らして、人前に出ることはないが、その存在感はいささかも衰えていない。
 対峙して分かった。戦場に長い間いた者がもつ威圧感がある。

「なにやら凄い勢いで突進してきたからね。何事かと思ったが……怪我はないようだよ。私もブロードも」

「本当に申し訳ありません。あとでよく言い聞かせておきます。……シャラザードが月魔獣の大型種が出たと勇んでしまったもので」

「なるほど。噂通りかな。ということは先に倒してしまってさぞ落ち込んだだろうね」
「占有権があったわけではありませんので」

 落ち込むよりも怒った方が正しいのだが、それは言わなくていいだろう。

 それより、オリヴィエ操者だが、陰月の路で暮らしているわりには情報通だ。
 僕やシャラザードのことは知っているらしい。

 ふと気になったのだが、オリヴィエ操者に付き従う竜の群れがあったはずだが、今は見当たらない。

「普段は私の周りに十体くらいはいるのだけど、今の時勢で遊ばせるわけにはいかないものでね」
 聞いてみたらそんな答えが返ってきた。
 ということは今、月魔獣を狩りに散っているのだろう。

『おい、いつまで話をしておるのだ』
 シャラザードが横から口を挟んできた。

「黙ってろって! ……あっ、いまはシャラザードに言ったものでして。失礼しました」
「ふふふ、仲の良いことだ。それでシャラザードくん? ずいぶんとうちのブロードが気になるようだね」

「そのようです。喧嘩を始めなくてよかったです」
「属性竜がブロードに乗ったところで、コイツは気にしない。喧嘩にはならないさ」

 さすがは大型竜。大らかだ。
 竜の背に町を乗せていると言われるだけのことはある。

 シャラザードが言うには、小型竜と中型竜はそもそも種類は違うらしい。

 そして大型竜もまた他と違う。
 大型竜は古種エルダーと呼ばれるかなり希少な竜種である。

「それで月魔獣の大型種ですけれども……」

 上空から見た限り、大型種の下半身はこのブロードの下敷きになっていた。

「珍しくブロードがやる気になってね。こうガバッと」
 オリヴィエ操者が両手を挙げた。まるで大型の獣が襲いかかるような仕草だ。

「それで踏みつぶしたのですか」
「そんな感じかな」

 やっぱり大型竜は半端ないな。
 それだけで倒してしまうとは。

「ところできみはあやつり人形(マリオネット)かな?」
「……はっ?」

「では質問を変えようか。この時代に生まれたことを悔やむ?」
「いえ……そんなことはないと思いますけど」

「ならば自由に生きるといい」
「……はい。生きていると思います」

 何の話だろうか。
 ちなみに僕の究極の目標、地方の都市でパン屋を開くという夢は……いまだ叶っていない。

 すべてを投げ出せば可能だが、これからやってくる大転移。
 目と耳を閉ざして生きることは可能だが、僕を援助してくれるリンダや僕を伴侶に選んでくれたアンさんなど、僕には守りたい人が大勢いる。

 義兄さんの家族や『ふわふわブロワール』のみんな、おそらく大丈夫だと思うけど父さんたち、ガイスン本部長など『忠義の軍団(ロイヤルレギオン)』の人々……。

 いま僕はすべてをなげうって自分のことだけをする勇気はない。
 できるわけがない。

 オリヴィエ操者がそのことを言い出したわけではなかろうが。
 だからといって、先ほどの言葉の意図はちょっと分からない。

「迷っているな、少年よ。……好きなだけ悩むといい。もしきみがあやつり人形(マリオネット)でないのならば、きっと正しい道が見つかるはずさ」

『主よ、もうこの周囲には月魔獣はいない。早く狩りに行くぞ』
 シャラザードから催促が飛んできた。

「すみません、オリヴィエ操者。どうやら僕のシャラザードがしびれを切らしたようですので、ここで失礼します」

「なるほど、ではいくがいい。この『つかの間の邂逅』がどう作用するか分からないが、きみの行く末に幸多いことを」

「ありがとうございます。では行きます」
 僕はブロードの背から跳躍し、シャラザードの背に飛び移った。

「さあいいぞ、シャラザード」
『うむ。ここに来るまでに見かけたのがいたのでな。そいつらを血祭りにあげようではないか』

 シャラザードは岩くれと化した月魔獣の大型種に目もくれず、大空に飛び上がった。


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