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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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『潮の民』の行方を捜し、『楽園』を見つけるのが女王陛下からの指令だった。

 半分は達成できたが、残り半分はそもそも存在していなかった。

 それが今回の結論である。

「……というわけにはいかないんだろうなぁ」

 女王陛下との謁見。
 僕はロザーナさんの横で報告を聞いている。

 扱いとしては僕はオマケのように思えるが、どうせ夜にでも呼び出しがあるのだろうから、この場では黙っているつもりだ。

「……翻訳しきれない部分もありましたが、お話できる部分は以上となります」
「ご苦労様。大変でしたね」

「もったいないお言葉でございます」
 領主一族に連なる家系だけあって、ロザーナさんの所作も洗練されている。

 僕と話すときと違って、女王陛下もやりやすいだろう。

 今回、女王陛下に報告するにあたって、ロザーナさんは僕に助言を求めてきた。
 いわゆる「物の名前」についてどう翻訳するかだ。

「説明にあやふやな部分があってもよくないし、話すたびにニュアンスが違っても困るでしょ」

 ということで、それに見合った名前を考え出すことになった。
 たとえば島の名前。彼らは「噴火した時に舞い散る小さな火の欠片が、住んでいる所全体を覆ってしまうことがある島」と呼んでいた。

 実際にはもっと短いが、そういう意味を含む島を表す「いい言葉」がないかと尋ねられたので、「火乃粉島ひのこじま」と呼ぶように薦めてみた。

「それ、いいわね。じゃあ……」

 というように彼らの考えや生活している環境を、僕らが使っている公用語に変換する作業を始めたのである。
 そのくらい帰りの道中、暇だった。

 シャラザードが急いで飛んでも海岸まで二日かかっている。
 ざっくり計算しても、五千キロメートルは離れていた。

 そんなに遠いとは思わなかった。
 想像の埒外である。

 逆によく見つかったなと思うくらいだ。

 ロザーナさんはあとで詳しい報告書を書いて提出することになった。
 それを読んだ上で疑問点などがロザーナさんに戻され、さらに詳細な報告書を書き上げることになっている。

 二回目の報告書を提出する前に、もう一度島で確認する必要がありそうなので、そのときは僕がついていく。

 いまのところ、シャラザード以外で正確な場所を覚えているのがいないので、仕方ないと言える。

「お土産をいくつか持っていきたいわね」
 そうロザーナさんは言った。

 火乃粉島では古代語が使われているので、こちらから入植は難しいだろう。
 そもそも島の許容量も多くなさそうだし。

 そのため、できれば僕らの大陸に興味を持ってもらって、若い人たちが何人かやってくる方が都合がいい。
 その布石として、お土産は好感触をもってもらうのに丁度いい。



 夜になって、僕は再び王宮に向かった。
 今度は〈影〉としてだ。

「ごくろうさま、レオン」
 昼間とかわらず、女王陛下は穏やかな笑みをたたえている。

「指令の半分を果たせず、申し訳ありません」
「いいのよ。『楽園』があそこにないと分かったんですもの。上出来かしら」

『潮の民』は『楽園』にはかかわってなかった。
 それが確定された。

「上空から島を一周しましたが、たしかに浅い岩礁が全体に散っていて、小舟以外は無理そうでした」
 島の代表であるタイランからの話を鵜呑みにせず、しっかりとこの目で確認した。

 停まっている小舟は一人か二人乗りがせいぜい。
 食糧や水を積み込むことさえできないものばかりだった。

 数百年ぶりにやってきた僕らを警戒して、あらかじめ船を隠しておくことは考えられないので、やはりあの島では大型の船は造られてないと思う。
 そもそも港はなかった。

「しかし火山を崇めているのよね」
「数十年に一度は噴火しているようですので、そのせいかと思います」

 タイランの孫娘は火の巫子ふしとしての役目を負っていた。
 あのような過酷な環境にある閉鎖された社会では、独自の宗教が発生しやすいという。

 竜国の北方でも昔は過酷な環境を生き延びるために、あまたの宗教が生まれたという。
 天蓋てんがい山脈を西に持つ魔国でも、神山や霊山として崇めている人もいるらしいし、人はどこでもすがるものを見つけるのだろう。

「学院の長期休みがもうすぐ終了しますが、シャラザードを陰月の路へ連れていかねばならなくなりました」

「そう……切り札を切ったのね」
「はい。そのひとつだけはどうしても」

 探索の途中で絶対にシャラザードが飽きるので、自由に狩りに行かせられるよう、事前に女王陛下から許可を貰っておいた。

「それは構わないわ。いま、陰月の路は竜操者が不足しているのですもの」

 どうやら僕がシャラザードと海上にいる間に、竜操者の戦術変更が実施されたようだ。

 ――強者は進化しない

 勝っているうちは、その必勝パターンを変えたりしない。
 進化せねばと分かっていても、つい常勝のやり方を変えようとしないのだ。

 今までは降下してきた月魔獣の数は少なく、大きさもそれほどではない。
 数体の小型竜がいれば、安全に狩れた。

 中型竜ならば、一体だけでも問題ない。
 数体の月魔獣程度ならば、応援を呼ぶことなく対処できた。

 それが慢心。

 月魔獣の大型種には小型竜では太刀打ちできず、中型竜が必要。
 新たな戦術を模索してこなかったツケがここにきて露呈してしまったのだ。

 そのため、女王陛下はシャラザードが伝えた『一点集中運用』を導入することに決めた。 個々の技量に応じて役割分担するのではなく、強者もそうでない者も、ただの部品となって月魔獣と対峙する。

 プライドの高い竜操者には到底受け入れられない戦法だが、負けて死ぬよりはマシ。
 いま竜操者の意識改革と同時にその訓練に勤しんでいるという。

 大転移開始まであと半年くらいだろうか。
 正直間に合うのか分からないが、若手の竜操者を中心に操竜場で再訓練に励んでいるという。

 その分、陰月の路を巡回する竜操者が減っているらしい。

「大転移には妾も参戦するつもりなの。だからソウランも呼び寄せたわ」
「…………はっ?」

 女王陛下はニンマリと笑った。
 いや笑う所ではないと思うのだけど……。


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