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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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「あー、ちょっと待ってください」
 僕が両手を前に出して、話しかけてきた人を押しとどめる。

「そのまま、そのままでお願いします」
 通じてないと思いつつ、待てのジェスチャーをしてからロザーナさんのもとに戻った。

「ロザーナさん。言葉が分かりません!」

「そのために私がいるじゃない」
 ロザーナさんを伴ってもう一度話しかける。

「○▲◎□&#」
「*○□@$%」

 今度は通じている。……たぶん。

 相手はあからさまにホッとした表情をしている。

 ロザーナさんはというと……やや難しい顔。
「どうしたんです?」
「学説がね……少しだけ覆されそうなの」

「……?」

「いまは魔国に溶け込んでしまったけど、『霧の民』がいるでしょ。あの人たちの言葉には、旧王都で使われていた言葉、つまり古代語の名残りがあるのよ」

「聞いたことあります」

「私が話している古代語の発音は、それを元にしているのね。……で、いま聞いたら私の発音、なまっているって」
 ロザーナさんがガックリしていた。

 えーっとそれはつまり。
「霧の民が訛っていたってことですか?」

「そうなるわね。まあ、互いに聞き取れないほどじゃないのだけど。少しやりにくいのと、学説が崩れるかも?」

『霧の民』も『潮の民』も同じ一族もしくは近い一族だと思われていたが、そうではないかもしれないとのことだった。

「それでも話は通じるんですよね」
「通じるわ。こっちに敵意がないことも伝えたし。いま、代表を呼びに行ってくれているの」

 そういえば若いのが一人駆けだしていったっけか。



 ここからはロザーナさんの通訳を交えながら話をすることになった。
 会話はすべてロザーナさんを介して行うので、僕が質問しても、毎回そのままの答えが返ってくるわけではない。

 いろいろ回りくどい説明もあったりして、おおよその答えが得られるまで、かなりの時間がかかってしまった。

 結果からいうと、彼らが『潮の民』である可能性はかなり高い。
 確定ではないのは、彼ら自身、『潮の民』と呼ばれたことがないからだった。

 古い伝承をひもといても、そう呼ばれたことはない。
 つまり『潮の民』は後から便宜上つけた呼称だったようだ。

 それでも彼らは、旧王都から王族を探しにやってきた、一族の末裔であることは確かだった。

 ポークニの町(旧名ポールクニノープル)から出立したことも確認できた。
 イオーズ老が口伝で教えてもらった『潮の民』の伝承とほぼ一緒なのだ。

「旧王族はどうなったの?」
「見つけていないそうよ。というか、ご先祖様はこの島に漂着して船は壊れたみたい」

「あれ? 伝承と違いますね。戻ってきた人が言うには『楽園』があったって……」
 そこでふと気づいた。

 ここが『楽園』か? たしかに緑豊かだけど、楽園と呼ぶにはほど遠い。

「それが要領を得ないのよね。『楽園』と言う言葉も使ってないって言うし、そもそも島を脱出した人はいないっていうのよ」
「へー……ん?」

 詳しく聞いてみると、この島。周囲すべてが岩礁で囲まれているらしい。
 そういえば、島を取り巻くように白い波がたくさん見えたっけ。

「昔の記録は残っているみたいね。紙ではなく動物の皮を使ったものらしいの。しかもこの島にはいない動物の皮だから、当時のものでしょう」

 この島にやってきた者全員の名簿が残っており、その全員がどのように死んだのか、ちゃんと記録されているという。

 書いてあるのは名前と生年・没年くらいだが、家系図にもなっており、どこかへ出て行った者はいないだろうとのこと。

「しかも大きな船は造れないか」

 岩礁が邪魔をして巨大な船は出入りできない。
 そもそもここへ漂着した船にしたところで、島まで入れずに座礁しているとか。

「まあ、ここが『楽園』ではないのは確かだし、私としても信じていいと思うのよね」

 シャラザードに確認してもらったところ、周囲に島はなく、ここの人たちに聞いても他に島は知らないという。

「ということは『潮の民』はハズレか。どういうことだろ」

 イオーズ老の口伝だと、出て行った船は一隻だけ。
 つまり彼らの船がここで座礁して、そのまま朽ちていったのならば、他に島は見つけてないことになる。

「彼らはここで細々と暮らしているので満足みたいね」

 証拠としてシャラザードに乗せて何人か連れ帰ろうかと提案したらそんなことを言われてしまった。

「ロザーナさんと話しているこの島の代表がタイランさんで、儀式を司るのがその孫娘のセーレさんね。うまく訳せないのだけど、火山信仰かしら。セーレさんは巫子ふしの役割を担っているみたい」

 村は島にひとつだけしかなく、住民は三百人程度。
 この島にやってきてから人口はすぐに増えたらしいが、そこからはずっと頭打ちらしい。

 魚が豊富で、森に入れば動物もいるが、基本は昔ながらの農法で暮らしているという。
 若い者を含めて、島の外へ出たい者はいないらしい。

「なるほど……どうしようか」
「当時の書き物を渡すって言うけど、どうかしら」

「当時の書き物……それって大事なものじゃないんですか?」
「そういうものは省くそうよ」

「じゃあ、女王陛下にお渡しする史料としてシャラザードが背負っている物資と交換でどうでしょう」

 ロザーナさんが交渉をはじめた。
「……それでいいって」

「他に欲しいものがあったら言ってって伝えてください。どうせもう一回来ないと駄目そうだし」

「もう一回? 関係ないのが分かったし、そっとしておいた方がいいんじゃないかしら」

「地図に書き込みしないといけないので」
「なるほど……ここを見つけたのは偶然だものね」
「そういうことです」

 タイランさんにそう伝えて、僕らはこの島をあとにした。


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