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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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310

 ――ザザーン

 岩に当たる波の音が心地よい。

 僕は夜に包まれた海を見下ろした。

「ロザーナさん、どうぞ。熱いお茶です」
「ありがとう、レオンくん。いただくわ」

 軽く会釈して受け取ったロザーナさんは、両手で抱えるようにしてゆっくりと飲む。

「海鳥が鳴いているわね」

 ほっと息を吐き出して、ぽつりとつぶやいた。
「鳥の鳴き声が聞こえますね。近くに巣があるんでしょうか」

「そうね。海鳥は断崖絶壁によく巣を作るの。いまは子育て中なのかしら。雛の鳴き声みたい」

 僕には違いが分からないが、ロザーナさんは分かるらしい。
 さすが、海沿いの町出身。

 いま僕らは、ポークニの町から南にずっと行ったところにある『拠点』にいる。

 ここは女王陛下がわざわざ僕らのために用意してくれた場所だ。
 拠点はシャラザードを隠す場所としての意味合いが強い。

 というのも、海上を航行する船から、ここは見えない。
 ちょうど入り組んだ岩の影になっている。

 そして陸からもまた、険しい岩山が邪魔をして、到達するのが難しい。

 つまり拠点は、陸からも海からも見つかりづらい場所にある。

 ここから『潮の民』が向かった先、『楽園』を捜索する。

 出発は必ず日が昇る前、夜が明けきらないうち。
 戻ってくるのは夜、日が沈んでから。

 女王陛下からは、「海で何かを探していること、絶対に他国に知られないように行動してね」と言われている。

 わざわざ多大な手間をかけてまで拠点を用意してもらったのだから、その言葉を守りたい。

「ここへは数日おきに寝に帰るだけになりますけど、体力は大丈夫ですか?」
「どうかしら。……でも、レオンくんと一緒ならば頑張れそうね」

 ロザーナさんはもともと強い女性だ。限界がきても言い出さないことも考えられる。
 その分、僕が注意しておこう。

「捜索は明日の朝からです。今日は早く寝ましょう」

「そうね。でも、部屋は……別れているのね」
「……はい。別です」
 一緒の部屋だと、いろいろと困る。

 雨露がしのげればいいかと思ったが、意外なほど頑丈な丸太小屋ができていた。
 僕はロザーナさんと別れて、ちゃんと一人用のベッドに入った。

 あとでアンさんに言い訳できないことになると、非常に困るのだ。



 翌朝からはシャラザードに乗って捜索である。

『気持ちよいな。飛ばしていいか?』
「だめ! 分かって言っているだろ」

 この捜索では、決められた高さ、方角、速度で進まないと意味がないのだ。

 それで島か大陸があればよし。なければ見つかるまで探すことになる。

「私はこの地図に書き込めばいいのね」
「お願いします」

 僕が行き先を指示し、シャラザードが遠くまで見渡せる目で島を探す。
 捜索し終えた部分をロザーナさんが特製の地図に書き込む。

 こうやって捜索結果を地図に埋めていくのが日課となる。

「一時間経ちましたね」
「じゃあ、このマスはチェックっと」
 ロザーナさんがチェック印を方眼紙に書き入れた。

「陸からおよそ千キロメートルは捜索済みだから、今日はそこから飛びますね」
「分かったわ。思ったより大変よね」

 過去数百年の間、竜国は東の海の捜索をまったくやっていなかったわけではない。
 未知の島や大陸を見つけようと、飛竜を飛ばして何度も探索隊を派遣していた。

 だが行けども行けども海ばかり。
 何度も空振りを経て、捜索は打ち切られた。
 記録によると最近の六十年間は、一度も捜索隊を派遣していない。

「しかしこの地図は面白いわね。一マスがシャラザードさんの一時間分なんでしょう?」
「そうです。首都の北で何度も飛行練習をして算出した一番無理のない形がそれです」

 シャラザードがゆったりと飛行し、意識しなくても長時間、等速で移動できる速さがおよそ時速百キロメートルだった。

 そこで、一マスの一辺が百キロメートルになるような方眼紙を作り、その縮尺に合わせて海岸線を作ってある。
 シャラザードの速度に合わせた専用の地図だ。

これによって、意識しなくても一時間飛行するごとにマスをひとつずつチェックしていけばいいようになっている。
 先人の知恵らしい。

「そしてまだ見ぬ海の先が千キロメートルからなのね」

「そうです。船だとかなりの距離になりますが、シャラザードだとたった十時間ですね。そこからさらに東に捜索範囲を広げていきます」

 シャラザードは浮くことができるので、海上で夜を明かしても問題ない。
 そのための準備もしてきてあるし、拠点に帰るのは何日かおきになるだろう。

 僕はいいが、ロザーナさんの体力が心配なので、最初は三日に一度は帰還したい。
 そのつもりでマス目を埋めていく予定だ。

 初回の捜索は都合三日。
 実質一日と少しだけだが、それが終わった。

 そうそう都合良く見つかるはずもなく、東に長く延びたチェックを携えて僕らは拠点に戻った。

『腹が空いたな』
「分かった。たっぷり食べてくれ。餌は王宮持ちだし、遠慮しなくていいぞ」

 王宮に何度も確認をとったが、海上での長期泊を考慮して、拠点に帰ったあとは好きに食事をしていいことになっている。

 今回の計画はシャラザードがいなければ成立しないものであるし、王宮も大目にみてくれるだろう。
「食べ放題だぞ、良かったな」
『限界まで食べるとしよう!』

 大目に見てくれる……よな?


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