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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 僕とロザーナさんは、ポークニの町中を海まで歩いた。
 港には大小の船が停泊しているのが見える。

「漁船が少ないですね」
 石造りの港に木でできた桟橋が何本か伸びている。

 停泊している船から人が入ったり出たりするのが見える。
「荷揚げしている感じからすると、商船の船着き場かしら」

「そうみたいですね。漁港はまた別の場所なのかな」
 クリスに教えてもらった人物は、引退した漁師だと言っていた。
 ここにはいないかもしれない。

 働いている人に聞いてみると、もっと南に歩いたところに入り江があり、漁船はそっちに集まっているという。

「ここから少し歩くようですけど、ロザーナさん、大丈夫ですか」
「私は平気よ。でも不思議ね。こうやって港を分けて使っているのも、仲違いの原因かしら」

 なるほど。先ほど出会った商人と漁師のことだろう。
 普段から同じ港を使い、毎日顔を合わせていれば、商人だって漁師がなにを望んでいるか分かったかもしれない。

「そうですね。けどこの港は商船で一杯ですし、一緒に使うのも難しいのでしょう」

 場所は有限だ。仲良く譲り合って使うのもいいが、狭い場所に押し込められると、毎日おこるささいな軋轢あつれきも無視できなくなる。

 だからこそ、漁師と商人たちは港の棲み分けを行ったのかもしれない。

 言われた通り町の南端まで向かってみた。
 港が造れる場所は町中でも限られているようで、しばらくは坂道が続く。

 小高い丘を越えたところに、小さな入り江が見えた。

「あそこかな」
「小型の船ばかりね」
「そういえば、漁船っていうには、小さいものばかりですね」

 漁船と言えばもっと大きなものを想像したが、思ったよりも小さい。
 商船の半分以下だ。大きさからすると、一人乗りか、二人乗りくらいか。

 すでに今日の漁は終わったらしく、港は閑散としていた。
 何人かが片付けをしていたので、その人たちに聞いてみる。

「この町の漁師だったイオーズさんに会いたいんですけど」

「イオーズじいさんに? また珍しいな」
 クリスから教えてもらった名前を出したが、どうやら知っているらしい。

「町の古い歴史を知りたいと思いまして」

「ああ、そういうことか。オレも小さい頃、よく聞かされたな。イオーズじいさんなら、少し離れたところに住んでいるぜ。教えようか」

 海が見える高台の小屋に住んでいるらしい。
 僕らはお礼を言ってそこに向かった。また坂道だ。

 石段を上がりきると、教えてもらった小屋があった。
 雨風を受けて色あせた小屋の先、切り株を枕に老人が寝ていた。
 この人がイオーズさんだろう。

「こんにちは」
 声をかけると、老人はゆっくりとまぶたを開いた。

「……ん?」
「あの、イオーズさんで合っていますか?」

「そうじゃが、どなたかな?」
「レオンといいます。こっちはロザーナです」

「ふむ、見ない顔じゃが」
 イオーズさんは身体を起こして、切り株に座った。

「イオーズさんのことは、この町のクリスくんに教えてもらったんです。昔の話をしてくれるとか」
「ほうほう、クリスぼんか。あの悪たれは、ワシのことを覚えておったか」

 老人の顔は深いシワが刻まれて、表情は読み取りにくいが、心なし喜んでいるようだった。

「僕はクリスくんから『潮の民』について聞いたんです。彼に話したことありますよね」
「あれがまだガキの頃に話したかのう。おまえさん方も聞きたいのかな?」

「ええ。できれば詳しい話を教えてもらいたくて」
「ふむふむ。ええぞ。どうせ暇で寝るくらいしかないのでな」

 イオーズさんは「しかし、『潮の民』か、懐かしい名前を聞いたのう……でもどこから話そうか」とつぶやきながら、語ってくれた。

 それは昔々の物語。

 イオーズがまだ少年の頃、やはりこの町に住んでいた古老から聞いた昔話。
 その古老もまた、小さい時分に聞いたという……代々受け継がれてきた話をゆっくりと語ってくれた。

 ポークニの町にとつぜん現れた集団。
 彼らはここから西へ何日も歩いた場所からやってきたという。

 あちこちの村や町で人探しをし、ついに海岸の町まで辿り着いたのだと。

「海岸の町に辿りついたがいいが、そこから先へは船がなければ進めないからのう。彼らは困っておったらしいのじゃ」

 最初、海岸を見た彼らは北か南に向かおうとしたらしい。
 事実何人かは向かったらしい。
 だが、彼らが探している人物の手がかりはなし。

 彼らは一年くらいこの町に滞在していたらしく、親しい者もできたり、新しく家族になる者も生まれた。

 このままゆっくりと町に同化する。
 町の人々もそう思っていたらしい。

 だがそうすると目的が達せられなくなる。
 このままではいけないと判断した彼らは、海を渡る決心をしたらしい。

「残る者も多かったときく。この町の先祖にはその者たちもおろう。だが、海を渡った者は確かにいた」

「それが『潮の民』ですか」
「うむ。持てるだけの食糧、水、酒を積んで、一隻の船で東に向かって出航したのじゃ」

 それはクリスから聞いた話と大差なかった。
「そのあと彼らはどうなったのでしょうか」

「さあのう。残った者たちはこの町に同化し、出て行った者の帰りを待った。だが結局戻ってくることはなかった。死んだのかもしれんし、新天地を見つけたのかもしれん。正確なことはだれにも分からん」

「彼らはどこに向かったか分かりますか?」

「ふーむ。東の海と言っても広い……とくにワシら漁師からすれば、真東には行きづらいじゃろな」

「それはどうしてです?」

「北から南に向かって潮の流れがあるのじゃ。風も同じ。北から吹きよる。それがあるから、船でなかなか沖まで出にくいのじゃな」

「吹き下ろし風ですね」
 そういえば、技国から竜国へ北上するには、南下するよりも日数がかかると聞いたことがある。沖の方でも一緒なのか。

「それとな、この町の住人が協力したのならば、出立したのは今頃かもしれん」
今は八月に入ったばかりだ。時期が関係あるのか?

「それには何か理由があるのですか?」

「来月か、再来月になると西から東へ向かって大雨を降らす雲がやってくる」
「そうですね」

「海の上でも一緒じゃ。波は荒れるが水が手に入る。水樽が空になったところで補給できるのならば、航海は続けられる」
「なるほど」

 となると、意外に遠くまで行ってしまった可能性もあるのか。
 探索する範囲がかなり広がりそうだ。

 その後もいくつかの話をしたが、これ以上の進展はなかった。

「クリスぼんはどうしておるのじゃ? 立派な神官にはなれんじゃろうし」
「彼は竜紋が現れたので、いまは竜の学院にいます。僕の同室です」

「なんと」
 このときばかりは、イオーズ老もシワだらけの目を見開いた。

「この町の子供たちは両親が海に出ている間、することがなくての。よくワシの所に話を聞きに来るのじゃ。クリスぼんは中でも一番の悪童でのう。人の話を聞かんと、ケンカばかりしておったが……ワシの話なんぞ聞いてないと思っておったが、覚えておったのじゃな」

「そうですね。懐かしそうに話していましたよ」
「そうかそうか」

 僕らはお礼を言って、老人の元を辞した。
 真東に向かって出航しても吹き下ろし風によって南に流される。
 もしそこから戻ってこようとすると、さらに南に流されることだろう。

 この町には戻ってこられなかったに違いない。

「探すとしたら、ここから東南が一番有力かしら」
 ロザーナさんの言葉に僕は頷いた。

「そうですね。一番可能性の高いあたりから探していきましょう」

 これから僕とロザーナさんの『潮の民』捜索が始まる。


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