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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 ロザーナさんを背後にかばいながら、目の前の漁師さんたちと対峙する。
 向こうはやる気だ。

「口で言って分からねえなら、身体に教えてやる」

 ひとりが殴りかかってきた。
 最初に凄んできた人だ。

 男の拳を避けて、脇腹に肘を入れる。カウンターで入った。
 鈍い音がしたし、肋骨が数本折れた感触もあった。

「ぐおっ!?」
 拳を振り上げたまま固まっているので、念のため反対側の肋骨も折っておく。
 続いて腹に膝を二度入れたら、膝から崩れ落ちた。
 これでひとりは無力化完了。

「こいつやるぞ……ぶげらぁ」

 至近距離なんだから、しゃべるヒマがあったら、戦うか逃げるかすればいいのに。
 掌底を顎に当てたら、男は頭から仰け反った。
 腹がガラ空きなので膝を入れる。
「…………っ!?」
 息ができないらしく、口をパクパクさせている。
 もう一度膝を入れたら大人しくなった。
 二人目完了。

 残りの一人は拳を振り上げたところでビビって固まっている。
 近寄って足の甲を蹴り砕き、悲鳴をあげている間に後ろに回り込んで背中に肘を落とす。
 呻く間もなく倒れ伏したので、無力化成功だと思う。

「……ロザーナさん、無茶ですよ」
「あ、ありがとう……あれ? レオンくんって、なんか私のイメージと違う?」

「…………? よく分かりませんが、迂闊に関わると危ないですよ。見境ない連中もいますので」
「そ、そうね。気をつけるわ」

「それで、事情だけは聞いておきましょうか」
 漁師の三人はノビているのでとりあえず放置する。

 商人は恰幅のよい五十代くらいの男性だ。
 さっきも思ったが、荒事には向きそうもない。

 僕が一歩踏み出すと、二歩も下がった。怖がられている?

「離れて見ていましたけど、危険なようだったので止めに入りました。この人たちと何を揉めていたのですか?」
 実際に止めに入ったのは、ロザーナさんだが。

「助けていただいてありがとうございます。わたくしが取引先を変えたところ、恨みに思われまして、因縁を付けられたのです」
「込み入った話になるとアレですけど、契約違反とかですか?」

「いえいえ、そう言った話ではないのです。わたくしはこの港で買った魚を南の町まで持って行って売っているのですが、別の商人の方に売って欲しいと言われまして、お売りした次第であります」

「それで喧嘩を?」
「この町ではギリギリ北方と同じ種類の魚が捕れます。南にはいない魚ですので、他の町でも重宝してくれるのですが、今回は商国商会を通して他国で売るとか。それがこの町の漁師の方々は不満らしく……」

 商人の話によると、漁師たちから買った魚を商国商会に売った。
 港市場の利用権を持っていない商人が、持っている商人から魚を買うのはよくあること。

 それに高く買ってくれる相手に売るのは商人として間違っていない。
 ただし、ここの漁師たちは竜国の民に食べて貰うために魚を捕っているのであり、いくら儲かるからといって、他国に流した商人を心よく思わない人もいる。

 とくに今は、竜国の商業圏を商国商会が荒らしていると通達が出たこともあり、この商人の行動を裏切りと捉えられたらしい。

「先ほどは因縁をつけられたと言っていましたが」
「はい。商国商会との取り引きを止めろ。売ったものを買い戻せと言われました。わたくしも商人ですから、それはできませんと。それでつい売り言葉に買い言葉で激しい口論となってしまって……」

 なかなか難しい問題だ。
 ちょっと首を突っ込んで解決するものと違う。

「彼らの処理はしておきますけど、売り先はよく吟味して、売る量も程々にした方がいいかもしれませんね。長年の取引先を蔑ろにするのはどうかと思いますし」

「ええ、分かっていますが、商人はより儲けの多い方と取り引きするものですから」

「それは自由ですけどね。この人たちは引き受けます」
 商人と別れて警邏兵を探しにいく。

「今のは商業圏の奪い合いかしらね」

「そうですね。あの商人は漁師たちから買った魚を全部商国商会に売ったみたいですしね。高額で買い取ったのも宣伝効果を狙ったのかもしれないし。ここで捕れた魚は、竜国に一匹も入らずに運ばれていくんでしょうね」

「漁師たちも怒るわよね。竜国民のために魚を獲っているのに……」
「それで商人に暴力を振るったら、そっちが悪くなりますけどね。……あっ、いたいた」

 町の警邏兵に道で伸びている三人のことを話した。
 商人に暴力をふるっていたので止めに入ったら矛先がこっちにきたので応戦するしかなかったと言ったら信じてくれた。

 どうも似たような事件が最近多いらしい。

「なにかギスギスしちゃって嫌な雰囲気ね」
 他でも漁師たちと商人が衝突しているらしく、町中もどことなく緊張しているように思えてしまう。

「商人が利を求めるのは悪いことではないけど、僕からすると悪手かなと思いますね」
「漁師たちの信が得られないからよね」

「そうですね。もうあの商人には魚を売らないでしょうから、遠からず町を離れることになると思います。それに、商国商会も同じことは続けられませんよね。そのうち売ってくれる商人が少なくなれば、去って行くんじゃないでしょうか。そうしたら、協力していた商人たちはどうするんでしょう」

「どうしようもないわね。もう漁師たちからも、同じ商人たちからも信用されないでしょうし」
「というわけで、今回のは目先の利益に飛びついた商人たちがバカを見るだけなんじゃないでしょうかね」

 どのくらい高値で買ってくれたのか分からないが、市場を一時的に混乱させるのが商国の目的なんじゃなかろうか。

 町外れまで歩いながら、僕はそんなことを考えた。


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