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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 リンダは「もう驚かない」と言ったが、かなり驚いたようだ。

「ちょ、ちょっと、どういうことなのよ! 近々おこるって、それ大変なことじゃないの!」

 リンダは僕の首をカクンカクン揺さぶった。
 首が絞まる。というか、本気で絞めにかかっている。

「待って! 息ができないからっ!」
 振りほどいたら、顔と顔がくっつきそうなほど、近寄ってきた。

「話・し・な・さ・い!」

「……はい」
 リンダは本気だった。

「女王陛下と話をしたときに言われたんだ。大転移が早まるって」
「だって、あのときは四年後って言ったじゃない。もう歳があけているから、三年後? まだまだ時間はあったはずよね」

月詠つきよみの方で計算違いがあったみたい。詳しいことは分からないけど、二つの月が近づけば近づくほど、その距離は縮まるんだって。引き寄せ合うのかな。そういうわけで、ほんの少しずつだけど、計算とズレていたらしいんだ」

「それで?」
「そのズレは月が近づくほど大きくなって……つまり、もっとズレるようになって、それを計算に入れてもういちど大転移がおこる時期を測定したんだ。そうしたら、早ければ次の年明けにはおこるだろうって」

「…………本当なのね」
「ああ、残念ながら」

「こうしちゃいられないわ。早く民に知らせないと」
「待って! それは駄目なんだ」
「どうして?」

「いま、上の人たちから順に知らせている最中なんだ。いっきに話が広がるとパニックがおこる。自分だけは助かろうと買いだめしたり夜逃げしたり……それだけならいいけど、きっと犯罪が増える」

「そうね」
「中には煽る人もいるだろうね。他国の間者とか。……それで国は民にかかりっきりになる。持てる力を民の安心のために使わざるを得ない」

「それはいいことじゃないの?」
「そのせいで大転移への対策ができなくなってしまうんだ。いま竜国は様々な準備を始めている。食糧の確保や、戦いの準備。難民をどうするかなど、領主たちと頭を悩ませながらね。その活動が終わらない内にパニックが起こったら、何もできなくなる」

 リンダは聡明だ。
 それだけで分かったらしい。

「そうね。時間は限られているんだもの。やれることはそう多くないはず。それを徒に妨害する意味はないわね」
「そうなんだ。知らせる時期については、上の人たちが決めてくれる。きっと逃げる先の準備まで終えてからになるのかな。今はまだ、話すべきじゃない」

「分かったわ。でも話してくれてありがとう。……それで大転移なんだけど、月はどう動くの? 予想では北だけど」
「変更はないらしい。陰月の路が北上すると思う。だから、竜国の場合、北の都市の住民は移り住むことになるだろうね」

「一時的に難民になるでしょうけど、陰月の路があった場所が空白地帯になるから、そっちに移動かしらね」
「竜国はそうやって大転移を乗り越えてきたんだから、今回も大丈夫だと思う」
「そうね、きっとそうよ」

 リンダは自分に言い聞かせるように何度もつぶやいた。

「でもね。問題もあるんだ」
「なに? ……悪いことなの?」

「すでに大転移の兆候が現れているんだ。月魔獣の大型種が二回、発見された。大型種一体につき、中型竜五体と同等。かなり強力な相手だよ」

「それが大転移になると落ちてくるのね」
「そうなんだ。問題は大転移前に落ちてきたことだね。本番になったらどれだけたくさんの大型種が落ちてくるか」


「ちょっと、脅かさないでよ。大型種はあれでしょ。呪国を滅ぼしたという」
 数体の大型種が暴れて、呪国の首都が崩壊した。

 その後、首都の奪回は失敗し、多くの死者を出しつつ戦線は後退。
 最終的に軍は組織的な抵抗を断念して領土を破棄。
 呪国の消滅が確定した。

「脅しじゃないさ。今回の大転移はそれだけ厳しいものになると思う。つい最近でも、多くの月魔獣が降下したんだ。一度の降下数からしたらあり得ない数」

「どのくらいなの?」
「たった一回で、三十四体の月魔獣が落ちてきたんだ。これが繰り返されると、あっという間にその土地は数百体の月魔獣で埋まってしまう」
 そうなれば、その地を放棄せざるを得なくなる。

 月晶石が切れるまで立ち入り禁止。
 その間に園周辺にある都市は消えてなくなるだろう。

「怖いわね」
「そうならないように頑張るしかないんだ。難しいけどこれも国を守る竜操者の使命だと思っている」
「気をつけてね」
「ああ……」

 そういったものの、僕にはまだ不安がある。
 シャラザードの言う、月魔獣の支配種が落ちてくる場合だ。

 支配種がいれば月魔獣はいつまでも行動不能になることはない。
 つまり支配種を倒す必要がでてくるのだが、シャラザードいわく、生半可な攻撃で倒せる相手ではないらしい。

 万一支配種が落ちてきた場合、総力戦になるのではなかろうか。

「戦いわわたしも分からないから任せるわ。それより北方ね。パパに言うわけにもいかないけど、北方はたたみ始めた方がいいわね。どのみちたたみ終わるのに半年くらいかかりそうだし」

 大転移で陰月の路が北に移動すれば、ヨシュアさんが利用している北方の森林は使えなくなる。
 代替地を探さなければならないが、木材に限っていえばその土地の領主と話がつけばなんとかなる。

 半年前から準備をすれば余裕だろう。

「僕は商売のことは分からないから、それこそ何のアドバイスもできないけど」
「いいのよ。ちょうど長期休みに入るわけだし。わたしがやっておくから。……そういえば、あなたはどうするの? 実家に帰る?」


「いや僕は女王陛下の指令があるから、それにかかりっきりかな」
「さっき言っていた〈影〉のことね。どうにも不思議よね。あたなが裏でそんな活動をしていたなんて、とても信じられないわ」

「〈影〉と言ったって、もとはこの国で働く善良な人たちばかりだよ。国を愛する人、隣人を愛する人、そういう人たちが集まって、誰かがやらなきゃいけないことを進んでやってきたんだから」

「別に責めてはないのよ。でもそれだと、今回も帰省しないのよね」
「そうだね」
「シャラザードがいるのに帰らないなんて、ご両親もがっかりね」

 一日あれば帰郷できるので、時間が余ったら帰ってもいいとは思う。
 けど、『楽園』探しはいつ終わるか分からないので、帰ればいものと考えておいた方がいいだろう。

「まあそういう感じだから、今度会うのは、長期休みが終わった頃だと思う」
「そうね。残念だけど仕方ないわね。気をつけるのよ」
「ああ……リンダも」

 そう言って僕らは別れた。

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