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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 僕とシャラザードが落ち込み、学院生を含めた全員がドン引きする中、演習は粛々と進んだ。

 月魔獣の大量降下の原因について、経験豊富な竜操者たちも「こんなの初めてだ」と首を傾げるばかりである。

 唯一僕だけは、予想がついた。だが話せることではない。
 王都出身の竜操者たちにはまだ、知らされてないようだ。

 大転移の前触れ……これはそういうことではなかろうか。

 大型種がすでに二回確認されている。
 今回の大量降下もまた、これから増えていくのではなかろうか。

 昨年の演習も月魔獣の襲撃は多かったが、今年はそれに輪をかけて増えていた。
 今年の出動回数は移動中で発見したものを含めると、実に十数回もあった。

 昨年と大違いである。
 頻出する月魔獣に対し、みな良く連携し、戦ったと思う。

 僕は見学。
 参加させてもらえなかった。

「万一のことを考えると……な」

 歯切れの悪い言い方だが、シャラザードがもう一度ハイになったらだれも止められないからだ。
 ある意味自業自得なので、頷くしかなかった。

 そのため、シャラザードはずっとストレスを溜めて演習を終えることになった。
 珍しく文句を言わなかったので、反省してくれていたのだと思う。

 ここで狩れなくてもすぐに学院も長期休みに入る。
 時間を見つけて来ればいいだろう。

 なんにせよ、今年は無事終わることができた。
 めでたいことだ。



 長期遠征から戻った日の夜、僕は女王陛下の元へ向かった。
 すでに報告が行っているだろうが、念のためだ。

 月魔獣の大量降下の話をしたところ、古い史料には大転移に関する詳しい叙述がないため正確なことは分からないという。

「では、予兆の可能性が高いものの、確実ではないということですか」
「そうなるわね。監視を強化して、頻度と規模を目視させるつもりだけど、そうすると人手不足なのよね」

 竜操者を商国と魔国の国境付近に巡回させている。
 彼らを呼び戻せば、空白地帯ができ、国の防衛上よろしくないらしい。

「竜操者以外の監視を増やすしかないわね」

 馬を使って監視させる方法は確立されている。
 月魔獣の足は馬よりも遅いので逃げきれる。
 だが月魔獣が追ってきた場合、町の方へ逃げるのは得策ではない。

 また、馬が全力疾走できる距離は思いの外短く、替えの馬を用意しないかぎり、長距離を逃げ切るのは難しい。

 女王陛下は、それでもやるつもりらしい。

「僕が参加できたらいいのですが」
 僕は長期休みに、やることがある。だから月魔獣の警戒はできない。

「潮の民の向かった先が早く分かればいいわね」
 見つかったら、残りの休みは月魔獣狩りに出かけられる。
 そうだったら、シャラザードが喜びそうだ。

「メインに一箇所、予備に二箇所。すでに準備はできているわ」
「ありがとうございます。休みに入りましたら、すぐに出発したいと思います」

 海岸線沿いで、人が立ち入らない場所かつ海から船で見えない場所に僕やシャラザードの拠点を作ってもらったのだ。

「戻るときは夜にしなさい。日中は駄目よ」
「心得ております」

 海上を飛翔して島かそれに類するものを探すのだが、僕が『捜索していること』を他国に知られてはいけない。

 海上になにがある? もしかして『楽園』か? とバレてしまうからだ。
 よって拠点での生活も捜索活動も秘密裏に行わねばならない。

「期待しているわね」
「努力します」

 こうして女王陛下との謁見は終わった。

               ○

 遠征が終われば、学院は長期の休みに入る。
 昨年はアンさんにデートをすっぽかされたと思ったら、実家から迎えが来ていて帰っていったはずが誘拐されていたりと、はじめから大変な出来事があった。

「アンさんを救出するために技国に行ったんだよなぁ」
 クーデターに巻き込まれて散々な目にあったが、アンさんと僅かな期間だったけど一緒にいられて、楽しい思い出もできた。

 今年は『楽園』探しが本格化する。なんとしてでも、休み中に見つけなければならない。

「おまえ、今年も帰らないつもりなのか?」
 購買部で義兄さんと話をしていたら、呆れられてしまった。

「だって、指令があればしょうがないじゃない」
「それはそうだが……手紙で納得すると思うか?」

 父さんと母さんは納得してくれると思う。
 姉さんは……無理だな。

「義兄さんは帰るんでしょ。うまく説明しておいて欲しいな」
「残念だが、俺も今年は無理だ」

 ん?

「もしかして指令?」
 義兄さんは王都の〈右足〉ではないので、僕関連の指令に同行する程度しか、仕事を請け負ってなかったはずだけど。

「いま人手不足なんだよ。おそらくだが、長期休みの間はずっとだな」
「ちょっと待って! なにをどうしてそんな長期間?」

「この前あったのは、王都の火事騒ぎだけじゃないだろ? 竜国商会への攻撃。これはつまり竜国の経済体制を破壊する行動だ」
「うん」
 リンダのお父さんも危うく難を逃れた感じだった。

「その報復だな。今まで泳がせていた商国の暗部を一掃する作戦に出た」
「それはまた大胆な」

「拠点を潰せばそれだけ竜国での行動が制限される。いい機会だと思ったんだろうな。というわけで、地方からも応援が呼ばれれて、続々王都に入ってきているらしい」

 大規模な作戦だった。
 どうやら女王陛下は秘密裏に商国を締め上げようとしているのだ。

「なんか大変だね。大丈夫なの?」
「さて、ここまで大規模な行動は俺も初めてだしな。完了目標は三ヶ月以内だから、かなり時間がない」

「三ヶ月か……普通は潜入して証拠集め。内容を吟味して襲撃。その後始末だけど、それだと早くて一ヶ月だよ。どんだけ急いでいるんだか」
「もちろん理由はある」

「どんな?」
「俺の予想だが、成功したら今度は侵攻をかけるつもりだ」
「もしかして、商国内に打って出るの?」

「ああ。いま〈影〉の大移動が始まっているが、既存の町が多少手薄になってでも、王都と商国内に人をやっている。順番的に国内が終わったら、商国の都市が目標だな」
「はーっ」

 女王陛下は本気だ。
 この急ぎようを見ると、すべてをギリギリ年内に終わらせたいのかな。

 大転移が早ければ来年の頭頃。
 その時に両国で争っていたら対応が遅れる。それまでにキッチリ終わらせたいのだろう。

「分かった。もう帰郷については考えないことにするよ」
 ここまで大規模な話を聞いてしまったら、僕や義兄さんが実家に帰る、帰らないなんて話が小さく思えてしまう。

「おまえそれ、現実から目を逸らすって言うんだぞ」
 いやだから、考えないようにしたかったのに……。

「でも実際帰れないからね。しょうがないよ。手紙だけ……出そうかな」
「それがいい。俺も書くしな。それでおまえはそんな格好して、どこへ行くんだ?」
 私服だったので、学院から出るって分かるか。

「リンダに会いにね」
「そうか。パトロンの機嫌は損ねないようにしろよ」
「わかってるって」

 そう言って僕は寮を出て行った。


300回でしたね、応援ありがとうございます。
活動報告に書きましたが、もう少しだけ忙しさが続きます。
ただ、連載は予約投稿ですので影響ありません。
それでは引き続き、よろしくお願いします。
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