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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 シャラザードが打ち出した雷玉は、遥か上空まで音もなく上がり、爆ぜた。

 目もくらむような閃光、その後にやってきた爆発音。
 腹の底に響くような振動に、撤退中の学院生のみならず、竜操者たちすらも動きを止めたらしい。

 そのおかげで戦いが終了したことが分かったのだから、終了の狼煙と思えばいいだろう。
 そう現実逃避してみた。

 まるで月を撃ち落とすかのような高さで爆発したことで、直接的な被害はなかった。
 もし地上に打ち出していたら、遠征中の仲間はみな死んでいたのではなかろうか。

 上機嫌だったシャラザードだが、徐々に落ち込みはじめた。
 釘を刺されていたというのに、やってしまったと理解したようだ。

 言葉にすると「ずーん」と言った感じだろうか。
 大きな身体を縮こませて反省をアピールした。

 僕も、戦闘時に上がっていくシャラザードのテンションに、ヤバイかなとは思った。

 本人は反省している。
 今回は被害が出なかったが、あとで厳しく言い聞かせる。

 そして僕はというと……。

「……避けられている?」

 月魔獣を倒して戻ってきたら、明らかに視線が変だった。
 怯えられているというか、避けられている感じだ。

 そういえば、以前も雷玉の実験をしたときも同じだった。

「もう人のいるところで絶対に使わないようにしよう」
 完全封印だ。

 周囲の視線が痛かったので、僕もシャラザードの隣で膝をかかえて座った。
 反省中である。

               ○

 竜国の王宮。
 竜舎を見下ろすバルコニーで、サヴァーヌ女王とアンネロッタ・ラゴスは、午後のお茶を楽しんでいた。

 王立学校を詳しく調査した結果、不審な者の出入りは確認できなかった。
 現在、学校の周辺を〈影〉が密かに監視している。

 アンネロッタはというと、軍事式典から城に戻ってからというもの、ずっと王宮暮らしを続けていた。

「襲撃者についてなのだけど」
 使用人を遠ざけてから、女王はそう言った。

「何か分かったのでしょうか」
 アンネロッタはなぜ自分が襲われたのか、見当がつかなかった。

「襲った者は、魔国にある暗殺集団『死の剣』に所属していることが分かったの」
 非合法組織はどの国にもある。

 商国にある呪国人からなる『闇の息』や、魔国の魔道使い集団『ブラッド・ロビン』などが有名で、その他大小合わせてかなりの数が存在している。

 これらは犯罪組織として裏の世界に君臨するだけでなく、表の顔を持っていることも多い。
 今回名前の挙がった『死の剣』もそんな集団のひとつだろうとアンネロッタは思った。

「調べたらあまり大きな組織ではなかったのね。だから潰したの」
 店先で商品を選ぶような気軽さで、とんでもないことを言い出した。

「潰されたのですか?」
「他と繋がっていない組織だったのよね。だからいいかなと思って」
「………………」

 非合法組織に手を出せば報復だって覚悟しなけれなならない。
 それをこんなに簡単に排除させてしまう女王に、アンネロッタはあらためて畏怖を覚えた。

「押収した帳簿からお金の流れが分かったわ。出処を辿っていったら、商国商人に行き着いたの。ここまでは分かったことね。それで予想なのだけど」

 女王は指を折りながら四つの予想を立てた。
 商国商人が黒幕で、目的は式典の妨害。
 商国商人が黒幕で、目的はアンネロッタの殺害。
 黒幕は他にいて、目的は式典の妨害。
 黒幕は他にいて、目的はアンネロッタの殺害。

「でもこれじゃ、何も分からないのと一緒よね」
 女王はクツクツと笑った。

「わたくしとしては、自分が狙われる価値があるとは思えないのですけれども」
「どうかしらね。たしかに氏族長でもなければ、その後継者でもない。……けれども、価値はあると思うわよ。ただし、今回は違ったようね」

「そうなのですか?」

「最近妾の国で好き放題やってくれたものね。少し本気で相手してあげたの」

 人を何人か挟んでいたところで、〈影〉が本気で事にあたれば依頼人までたどり着くことができる。
 もちろん生死問わずとなるため、相手に警戒されることになるのだが。

 今回は女王のお墨付きを得たことで、かなり派手に動いたらしい。
 仲介した人物を含めて、名前が挙がった全員、その家族、仲間を含めて拘束したという。

 その話を聞いてアンネロッタは天を仰いだ。一体何人の人が拘束されたのだろうかと。

「拘束したのは、『死の剣』のメンバーを抜かすと百人に届いてないと思うわ」
 アンネロッタの心情を察したのか、女王はそう言った。
 もちろん、アンネロッタにしてみれば、何の慰めにもならなかった。

「それでね、厳しく取り調べた結果、あの襲撃事件は式典の妨害が目的だと分かったわ。ちょっと予想外だけれども、ほぼ間違いないと思うの」

 アンネロッタが狙われたのは、来賓の中で一番地位が高かったから。
 それと魔国と竜国の関係を悪化させるのにちょうど良かったかららしい。

「では商国があの襲撃を計画したということでしょうか」
「そうなるわね。大きな計画の一部だったようね。だから全体像はまだ分からない。けれど、それも時間の問題」
「……?」

「この落とし前をつける過程で明らかになると思うわ」

「報復……されるのでしょうか」
「もちろん、もう動いているわ。竜国は竜国のやり方――一番得意な方法で報復してあげるつもり」

 竜国が一番得意な方法……それはもう、どうみても戦争と変わらないのではなかろうか。

「というわけで、もう安全。王立学校に戻っても大丈夫だけど、どうかしら」
 それを伝えたかったのだと女王は言った。

「ありがとうございます。ここでの生活も楽しいものでしたが、わたくしは留学の目的を果たすため、学校の寮に戻ろうと思います」
「それがいいわね」

 こうしてアンネロッタが王宮を出ることが決まり、竜国は今までの借りを返すかのごとく、反撃の狼煙をあげるのであった。


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