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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 天空に輝くエイダノとカイダのふたつの月。
 これが交わるとき、エイダノの月から鋼殻と呼ばれる岩のようなものが降ってくる。

 それが地上に落ちて月魔獣となる。

 月が交わったときでも、降ってくる鋼殻の数はそれほど多くない。
 一度に二、三体が普通だ。多くて五、六体。

 六体を越えることは滅多にない。

「お、おい……あれ」
「なに!?」

「まさか!?」

 遠征も残すところあと僅かとなった日。
 空を見上げた学院生たちが、うめき声をあげた。

 空からひとつ、またひとつと鋼殻が降ってきたのである。

 日中に月が交わると、降下してくる鋼殻を肉眼で見ることができる。
 遠くに落ちる鋼殻は小さな点でしかないが、近くで見るとそれなりに迫力がある。

 それが次々と降ってきたのである。

『多いな』
 シャラザードの言葉に僕は頷く。

 見える範囲で三十ほど。
 鋼殻の大量落下だ。

「もうすぐ地上に落ちるね」
『いくか』

 いまは、二列編隊で長距離行軍の訓練中だ。

 飛竜は地上を二列になって進む編隊の真上を飛んでいる。

 僕の場合、他の竜とぶつかると危ないので、一番後方から彼らの列を見守っている。
 ちなみにシャラザード背中には、一回生のレゴンもいる。

「列が乱れたので、止まったみたいだね。いい機会だから、下で話を聞いてみよう」
 突然の事態に、地上は慌てふためいている。

「レゴン、きみも一緒に来て」
「……はい」


「月魔獣の大量降下が確認されましたけど、どうします?」
 地上に降りてすぐに尋ねた。

「学院生を後方に下げるしかない」
「安全策を取るわけですね」

「そうだ。月魔獣は我々だけで対処する。学院生でも中型竜ならば可能かもしれんが、乱戦が予想される。戦っている横から襲われればひとたまりもない」

 どうやら、乱戦経験のない竜がいると、いろいろ危ないらしい。

「なるほど、たしかにそうですね」
 さすがに乱戦経験がある中型竜乗りは、学院生の中にいないだろう。

「それと近くの施設に応援を呼びに行かせる。飛竜を月魔獣の追跡に当てれば、移動先も分かる。応援が間に合えば、民に被害が出る前に倒せる」

「えっと、そのことなんですけ……」
「学院生の集合が終わりました!」

 ひとりの竜操者が駆け込んできた。
 どうやら、すでに何らかの指示が出されていたようだ。

 状況判断が素早い。僕が地上に降りていく間に行動が決まっていたらしい。
 伝達も行動も迅速だ。もう学院生たちを集め終わっていたとは。

 遠征中に月魔獣の大量降下なんて、初めてのことだろう。
 それでもグダグダと議論することもない。

 彼我の戦力を正確に把握しているからこそできる。
 やはり竜国の竜操者は優秀だ。

「それでですね。話の途中になりましたが、僕に提案があるのですけど」

「……なんだ?」
 この忙しいのにという顔をされた。

「月魔獣狩りですが、僕に行かせてもらえませんか?」
「……あの黒竜でか?」

「はい。ここ数日のシャラザードはストレスが溜まっているようだし、いい機会かなと思うんです」
「いい……機会? というか大丈夫なのか?」

「大丈夫です。雷玉らいぎょくは使わせません。ちゃんと手加減させます」
「て、て、て……てか?」

「できるのか?」
 声が詰まった竜操者の代わりに、壮年の竜操者が問いかけてきた。
 去年も遠征に参加した人だ。

「はい。しっかり手加減させます!」

「今のはそ、そういう意味で聞いたのでは……いや、できるのならば行動を許可する。どうせ最初は学院生を逃がすために動くのだからな。やれるだけやってこい」

「ありがとうございます。一回生のレゴンはそちらでお願いします」
「あ、ああ……引き受けよう」

「では行ってきます」
 一礼してシャラザードのところへ戻る。



『主よ、どうだ?』
「許可をもらったよ。手加減できるよね?」

『うむ。ではこの牙と爪で引き裂いてくれよう』
「ま、まって!」

 すぐに飛び立とうとするので、慌てて飛び乗った。気が逸ってるな。

「頼むから、手加減を忘れるなよ。この距離で雷玉を使われたら、竜はともかく、人が死ぬ」
『心得たわ。何度も言うでない。いくぞぉ!』

 一声吠えて、シャラザードは月魔獣に向かっていった。

 シャラザードの背に乗っていると、興奮具合がよく分かる。
 たぎっているのだ。

 地上では鋼殻状態から変形した月魔獣が現れ始めた頃だった。
 シャラザードは低空飛行し、月魔獣の横を通り過ぎるときに爪で切り裂く。
 一旦急上昇、後方宙返りをしたあと、今度は牙で次々と噛み砕いていく。

『うわっはははは……爽快、爽快』

 後ろ足で月魔獣を蹴りあげて、自身はその反動で上昇する。
 蹴られた月魔獣は粉々に砕けて破片を周囲に撒き散らした。

 行ったり来たり。それだけで月魔獣の数がどんどん減っていった。

「……終わり?」
『そのようだな』

 あとで数えたら、三十六体の月魔獣がいた。
 シャラザードが数体まとめて破壊するので、その時はそれほど多いとは思わなかった。

 それほど時間がかからず、月魔獣を全滅させたが、シャラザードの興奮が収まらなかった。
 シャラザードに破壊衝動はない。

 ただ月魔獣の存在が許せないだけだ。
 今回、目の前にいた大量の月魔獣が何かのスイッチになったのだろう。

『ふぉぉおおおおお……』


 雄叫びをあげると、虚空に向かって雷玉を一発打ちやがった。


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