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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 王宮にある裏専用の謁見の間。

 女王の前では、先ほどから〈右足〉が頭を垂れている。

「……あの子はそう言ったのね」
「はい」

 レオンに与えた指令。その結果報告を聞いて、女王の周囲が騒がしい。
〈左手〉たちがいきどおっているのだ。

 何しろ謁見よりも、自分の入学式を優先したのだから。

「それで、どうでした?」
 周囲に動じることなく、女王はそう問いかけた。

「スルー、ダブル、そして〈右手〉の『針千本』、いずれも一太刀でした」
 あれだけ騒がしかった周囲が、急に鎮まった。

「ダブルは我が国で『千里眼』と呼ばれていた者だったわね。みな一太刀……ね。『首断ち』も敵わなかった相手に、恐ろしい、いえ将来が楽しみね」
 うふふと女王は笑った。

 首断ちは、巨大な直刀を使う、〈右手〉にしては珍しい、武術を極めた者だった。
 魔道には弱いところもあったが、実力でふたつ名を得た王都の〈右手〉である。

 敵に後れを取るような人物ではない。
 それが倒されたのは、単純に敵の力量が上だったからだと思える。

 強さは申し分ないが経験の浅い『悪食』に、経験豊富な『針千本』を組ませた。

「あなたが見ていたのは、悪食との戦いだけですか?」
「はい。それもすぐに決着がつきました。まるで子供と大人、それほどの開きが見てとれました」

 いまの実力ならば、十度戦っても、悪食は全敗する。
 それが分かったからこそ、再戦のときに悪食は土下座したのだ。

 勝てる相手ではない。
 いや、同じ土俵に立つことすらおこがましい。

 それは、喉元に剣をつきつけられた悪食がよく分かっているだろう。
 やはり全赦を与えるのは危険だ、そんな声が聞こえる。

「そういえば……」
「どうしました?」

「はい、そういえば、『闇渡り』はこうも言っていました。弱すぎたと」
「弱すぎた? 敵が弱すぎたのですか?」

「そうです。いえ、針千本も悪食も含めての発言だと思いました」
 自分に自信があるから、自慢したいからの発言ではなかった。

 ただ、ただ、どうしてこんなに弱いのだろう。
 そんなことを思っている感じだった。

「親はあの『死神』ですし、それを基準にすれば、そうなのかもしれませんね」
 女王はついに、ホホホホと高い声をあげて笑った。

 裏の謁見の間に、その笑い声だけが響いた。

               ○

「くっ、兄者ッ!」
「どうした?」

「兄者がやられた。スルーもだ」

「!?」
「な、なんだと!?」
「嘘を申すな! あのふたりがやられるなど……」

「オレの『ダブル』を否定するのか?」
「い、いや……」

「兄者の死の瞬間まで、オレははっきり見た。あれは魔道だった。何もないところから剣が出た」

「まさか、ダブルの片割れがやられるとは」
「マズイなこれは……」

「スルーがいなければ、計画が大いに狂うぞ」
「それが狙いかっ!」

 魔道使いダブル。
 双子ゆえの感応力の高さと魔道によって、ふたりは同じものを見、同じ経験を積むことができた。
 身体をひたすらいじめ、身体を鍛えた兄と、知識をひたすら蓄え、魔道を極めた弟。

 互いが互いの弱点を補い、自分のみならず、相手の力を自由に引き出せた。
 離れた場所にいても、互いのことはなんでも理解できた。

 それゆえの魔道『ダブル』。彼らはひとりでふたり。
 ふたりはひとり。

 その片方が死んだ。
 残された弟の顔は蒼白になる。

「兄者……きっと敵は討つ」
「ダブル、敵はどのようなやつだった?」
「そうだ。重要な情報だぞ」

「黒衣を身にまとって、顔も隠していた。目だけがかろうじて見える程度だ」
「それは竜国の〈影〉だ」
「顔は? 名前でもいい。手がかりになりそうなものはあるか?」

「顔も名前も分からない。だが、使った魔道は見た。あれは、あれは……何もない闇から剣を出していた」

「闇から剣?」
「剣ならば、近接系の魔道か?」

「分からない。兄者の後ろにはだれもいなかった。だが剣が出た。剣だけが……なのに黒衣の男は兄者の前にいた」

「要領を得んな」
「放出系なのか?」

「違う。あれは……不可視の剣だった」
「不可視の剣……?」

「剣は敵対していた魔道使いが持っていたものだった」
「ならば、その魔道使いの動きを見ていればいいのか」

「発動の瞬間が分かったとして、不可視の剣では、避けることはできないぞ」
「どこから来るか予想できないことには、どう避けていいのかも分からないな」

「なるほど、不可視の剣……『インビジブルナイフ』か。手強いな」
 誰かが言った。

「インビジブルナイフか」
「竜国に現れた新たな魔道使い……対策をたてるべきだな、これは」

「おのれ、インビジブルナイフめ。見ていろよ、兄者の敵はきっと討つ!」

 これ以降、魔国の魔道使いたちの間で、『インビジブルナイフ』の名が広まっていく。

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