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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 もう笑うしかない。

 不謹慎だけど、いまは本当にそんな気分だ。

 時刻は真夜中。
 空を見上げると、ふたつの月――エイダノとカイダが天頂に輝いていた。

 僕は黒衣に身を包んだまま、屋根の上でたたずんでいる。
 そう、ここは屋根の上だ。

 こんな場所で、僕は人待ち中。
 相手はまだ来ない。

「問題なしだった……というより誤報だったのかな?」

 誤報なら、本当に笑うしかない。
 僕の十日間を返してほしい。



 十日前のこと。
 僕のもとに、潜入調査指令が届いた。女王陛下からだ。
 しかも緊急の案件だという。

 緊急の案件なんて実に二年ぶりだったので、何事かと緊張した。

 十日前、僕は意気込んで任務に取りかかった。
 そして結果は……見事に空振り。

「ねえ、僕の十日間はいったい何だったの?」

 屋根の上であぐらをかき、後ろの屋敷を振りかえらずにそう問いかける。

「……やあ、お疲れ。もしかして、気づいていた……みたいだね」

「待っていたからね。それで僕は、ここで文句を言ってもいいのかな?」
「遅れたのはごめん。指令の内容についてだったら、できれば勘弁してほしいね」

 頬杖をついて、ふてくされた表情を崩さないでいると、遅れてやってきた人物は僕の前に立った。
 黒衣で身を包んでいるのは僕と同じ。

 僕の前で顔を覆う布を取る。
 中からさわやかなイケメンが顔を出した。

 僕の義兄あにクリスタン・ローザイトだ。
 義兄にいさんはどうしようもないくらいイケメンだったりする。
 二回もイケメンと言う必要はないと思うが。

「遅れたのはいいとして、今回の緊急指令について聞きたいんだけど」
「質問か? 何でも聞いてくれ」

 義兄さんがかき上げた髪が、月の光を反射して眩しいくらいだ。
 夜だぞ、いま。このイケメンめ。

 自分で眉根まゆねが寄ったのが分かる。
 すると、義兄さんはこぼれる笑顔を僕にみせつけた。

 まったく、いつでもどこでも無駄に愛嬌を振りまく。

「じゃあ聞くけど、どこをどう探しても、後ろ暗いものは出てこなかったよ?」
「そうか……だったら、そうなんだろうね」

 いやにあっさりしている。
 そんなにすぐに認めてしまって、いいのか?

 緊急案件じゃなかったのか。僕の十日間を使ったんだぞ?

 これは女王陛下から下された緊急案件だ。
 本来ならば、僕の調査能力を疑ってもおかしくないのだけど……アレかな。

 この話には裏がある系のやつか?
 少し突っついてみよう。

「いまどき珍しい、多品目を扱う商人だね。でも怪しいところはなく、至極まっとうだった……で、何か知っているよね、義兄・・さん?」

 あえて一部にアクセントを付けてやると、義兄はニヤリとしたまま答えない。
 こいつ、絶対なにか知っている。



 僕の名はレオン・フェナード。16歳になった。
 竜国りゅうこくの七大都市のひとつ、ソールの町に住んでいる。

 家は、『ふっくらフェナード』なるパン屋を営んでいる。
 ネーミングセンスは、正直どうかと思っている。

 技国ぎこく式のパンなので、軽くてやわらかい。
 つまり美味しい……と僕は思っている。

 僕自身は、将来パン屋を継ぎつつ、この家業、つまり暗殺者を続けようと思っている。いや、思っていた。なのに……。

 いや、それについてはいい。
 大事なのは、つい先ほどまで、僕がとある交易商人の屋敷に潜入していたことだ。

 いまから十日前のこと、『可及的速やかに商人の身辺を調査し、必要とあらば抹殺せよ』という指令がくだった。
 その日から僕は毎晩、その商人の屋敷に忍び込み、いろいろな調査をした。

 日中はパン屋の手伝い。夜は屋敷で張り込み。家人かじんが寝静まったら調査を開始する。
 そんな毎日を十日間続けた。

「義兄さん、知っていることがあったら、早めに言った方がいいよ」

 僕の言葉に、クリスタン義兄さんはあさっての方を向いた。
「さあ、何のことかな」

 完全に目が泳いでいる! 全然ごまかしきれていない!
 これは追求せねばならない。

「……で、どんな裏があったわけ?」

「どうしてそう思う?」
「商人に怪しいところはなし。寝ている間に書類も調べたけど、全部シロだった」

「中には魔道が掛かったものもあったんじゃないかな」

「重要書類を入れた箱はそうだね。それもすべて、確認済み。これっぽっちも怪しいところは出なかったよ。これだけまっとうな商人も珍しいと思う」

「だからこそ怪しいとは考えなかったのかな」
「だったら、国中の商人が怪しいさ。ということで、そろそろ喋ってくれないかな、義兄さん」

 もし、今回の話に裏があるのなら、クリスタン義兄さんは知っているはずだ。
 なにしろ、話を持ってきた本人なのだから。

「もうすぐお前は、この町を出てしまうだろう? 女王陛下が、お前のパトロンにどうかと、手を回してくれたんじゃないかな」

「パトロン…………そういうことか」
 僕は理解した。


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