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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 その日の夜。

 陰月の路からかなり離れた平地で野営を行った。
 昨年のてつを踏まないためにも、充分距離をあけたのだ。

「……で、また初日は歩哨なわけね」
「よろしくお願いします、レオン先輩」

 一緒に見張りに立つのは、一回生のユーノス・ホルトスだ。

「大丈夫だと思うけど、周辺の見回りに行ってくるから」
「はい。さすがレオン先輩ですね」

 なんだろ、キラキラした目を向けてくる。

 ここを野営地にするにあたって、現役の竜操者のみなさんが念入りに周囲を巡回していた。
 昨年のようなことはもうないと思いたい。

 ここは周辺はなだらかな丘はあるが、基本は平地だ。
 月魔獣がやってくれば、遠くからでも分かる。

「陰月の路から離れているから、そうそう出くわすことはないよな」
 昨年と違って、安心して見回れる。

 一通り地形を確認したら戻ろうと思ったとき、闇が動いた気配がした。

「……なに? まさか」

 ただし、近くではない。もっと遠くの方で巨大な闇が動いた気がしたのだが。
 気配がした方面に目を凝らす。

 ふたつの月が交わったのは昨日。
 月魔獣の移動速度を考えると、この辺りまで一日でやってくることは考えられない。

 月魔獣は休憩を取らずに動けるとはいえ、移動速度はそれほど速くない。
 ならば別の何かか?

「……と思っていたら空かよ!」

 いたのは飛行型の月魔獣だ。
 これならばあり得る。というか、見逃すと大きな被害が出てしまう。

「シャラザードを呼ぶか……いや、一年前のリベンジしてみるか」

 昨年は手も足も出なかった。
 その悔しさをバネに、一年かけて新しい魔道を覚えた。

「父さんの魔道を参考にしたんだけど、月魔獣に通用するか試したい」

 今まで僕が覚えてきた魔道はみな対人用だ。
 そうではなく、月魔獣のような大型のものにも効果があるものが必須だと考えたのだ。

 そして苦節一年、僕は実体のない闇に質量感を持たせることに成功した。

 それを足元に展開させる。僕の新しい魔道『闇歩き』。
 まずはそれを試してみよう。

 闇夜のいまならば、だれかの目につくこともない。
 僕は闇で足場を作って、軽快に虚空を上っていった。

 近づいてくる月魔獣はそれほど大きくない。
 大地を踏みしめて歩くのと違って、ずっと飛べないのだろう。

『闇歩き』は漆黒の壁を作りだせるが、移動してくる月魔獣相手では分が悪い。
 ここはもうひとつの魔道で勝負したい。

「新しい魔道第二弾っと……」

 両手を顔の前にかざし、親指と人差し指で輪を作る。
 月魔獣の姿が輪の中に入ったところで、魔道『闇の波動』を打ち出した。

 経験から、月魔獣には斬撃よりも衝撃の方が効果が高いことが分かっている。
『闇鉤爪』とは違って、精密な形を作る必要はない。
 その分、威力は高めになっている。

「斬るより潰す」

 撃ちだされた闇の球は、まっすぐ飛んで月魔獣にぶち当たる。

「……!?」

 夜闇の中だ。月魔獣には闇の球が見えなかったのだろう。
 顔面にまともに食らって、高度が下がった。

「一撃だとこんなものか……何発か当てれば倒せるかな」

 人間でいえば、脳震とうを起こしたようなものかもしれない。
 体勢を立て直すことができず、フラフラと落ちていく。

 頭を下げてゆっくりと下降していった月魔獣は、野営地のすぐ近く(・・・・)に落下した。
「ヤバッっ!!」

 直後、野営地のそこかしこで笛がかき鳴らされ、一帯ははすごい喧騒に包まれた。

「僕は悪くない…………よな?」

               ○

「……飛翔していた月魔獣が偶然不時着ねえ」
 壮年の竜操者は首を傾げるばかりだった。そのような例は聞いたことがないのだ。

「歩哨が発見したときにはもう虫の息だったそうです」
「うーん……」

 飛翔型の月魔獣が、飛び方を誤る事があるのだろうか。壮年の竜操者は考えこむ。
 そして不時着しただけで虫の息になるほどヤワな存在だっただろうかと。

「分からん。……そういえば、発見した歩哨というのは?」
「ユーノスという一回生です」

「他は? 歩哨は二人組だろ?」
「レオン操者です。周囲の警戒に出ていたため、野営地にはいませんでした」

「ふうん? レオン操者って聞いたことがあるな」
「特殊竜を得た二回生ですが」

「いやそうじゃない、たしか前も同じような……そうか。一年前に野営地に月魔獣が出たのだ。そのとき最初に発見したのがレオン操者だったな」

 どこかで聞いた名前だと思ったら、そのとき事情を聞いたことがあった。

「二度も歩哨中に月魔獣と遭遇ですか。運が悪いですね」
「そうだな……あのときもなんか引っかかる遭遇だったんだよなぁ」

 一年前、月魔獣のハサミによって走竜の尾が切断された。
 あとで調べたら、そのハサミには鋭利なところがまったくなく、ものを掴むことはできても、切断できるものではなかった。
 なぜ走竜の尾が切れたのか、結局分からずじまいだった。

 そして今回。
 飛翔中にバランスを崩し不時着したにしては、月魔獣の様子がおかしかった。
 あれだけの生命力をほこる月魔獣がそれだけで瀕死になるなど、聞いたことがない。

「月晶石は取ったんだろうな」
「もちろんです」

「月晶石の減り具合はどうなっていた?」
「たっぷりありましたよ。減り具合から考えて、昨日落ちてきた個体でしょうね」

「そうか……まっ、深く考えても仕方がないか」

 それで今回の件はおしまいになった。

 偶然バランスを崩した月魔獣が、たまたま打ちどころが悪く、発見されたときにはもう瀕死だったと報告書には書かれることになった。


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