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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 学院の授業には、座学と演習がある。
 前期の演習には長期のものもあり、二回生が一回生を連れて、月魔獣を狩りに出かけることになっている。

 もちろん僕ら学院生だけではなく、現役の竜操者も多く参加している。
 彼らはお目付役だ。

「もう、明日出発か。早いな」
「キミは二回生になって、ほとんど授業に出ていないからね」

「できれば僕も授業を受けて、平穏に暮らしたいんだけどね」
「シャラザードがいるから、無理だろうね」

「……やっぱり?」
「俺たちが竜を選ぶんじゃなく、竜に選ばれたわけだ。そこはもう、諦めるしかないだろうね」
「そうなんだけどね……そういえば、今年の演習場所はどこ?」

「知らされていないかな」
「えっ?」

「だって、去年はえらいことになったからね。秘匿したいのも分かるよ」
 アークの言うとおりだ。

 一年前の演習では、魔国から僕ら学院生を狙って十人もの刺客がやってきた。
 事前に情報を察知したことで、王都の〈影〉や僕と義兄さんを動員してなんとか撃退できたが、もし情報がもたらされなかったら、多くの死者が出ていたことだろう。

「そういえば、襲撃があったんですよね」
 寮の同室、レゴンがそう聞いてくる。

「俺たちは寝ていたから全く気づかなかったんだけど、死者が出たんだ」
 死んだのは、お手伝いに派遣されたことになっていた〈影〉のみなさん。

 彼らが命を賭して守らばければ、アークだってこの世にいなかったかもしれない。

「ほかにも、月魔獣の襲撃もあったんだ」
「えっ? 月魔獣狩りに行ったのですから、当然なのではないですか?」

鋼殻こうかくの状態で休眠していたのがいてね。寝ているときにそれが活性化した。野営地のすぐ近くでだ」

 僕が言うと、レゴンは目を大きくした。
「無事だったんですか?」

「一応ね。怪我人が出たけど、そのときは死者はでなかったし」
「あったね。あれはキミが発見したんだったね」

「偶然だけどね」
 僕が歩哨に立ったときに月魔獣に襲われた。

 ある意味不幸な事故だったのだが、それを抜きにしても例年以上の月魔獣が出たらしく、終始気を抜くことができなかった。

「大丈夫なのですか? 僕らはまだ竜を得ていないのですけど」
 レゴンが心配そうな顔をしはじめた。

「まあ、今年は野営の方法も改善されたらしいから、大丈夫だと思うよ」

 防護体勢の見直しが計られ、学院生の中に現役の竜操者たちを今年から入れることになった。
 本来独力で対処する術を学ぶ演習だが、イレギュラーな事態が起きた場合、学院生だけでは対処が難しいケースもある。

 多少過保護になってでも、しっかりとした管理体制を敷くことにしたらしい。

「っつうことは、おれらは見ているだけッスか?」
「なんだ、クリス。戦いたいのか?」

 竜を得ていないクリスたちに、月魔獣は倒せない。
 死なないように逃げるのが精一杯。

「笛回しとかやらなくていいんスか?」
「笛回し?」
 なんだそれは。

「ああ、あったねえ。演習に向かうのは竜操者だけだから、笛回しは要らないよ」
「なんだい、アーク。その笛回しってのは」
 僕は聞いたことがない。

「陰月の路に近い町や村で、巡回の取りこぼしがあったりすると、月魔獣が襲ってくるんだよね。竜操者が来るまでの時間稼ぎに馬に乗って笛を鳴らすんだよ」

 通常、小型竜数体で月魔獣を相手にする。
 複数の月魔獣が出た場合、その注意が町に向かないように、紐の先に笛を付けて、クルクルと回すらしい。

 その音にひかれて月魔獣を人のいない場所へ誘導するのだそうな。
「知らなかった」

「笛回しは被害にあった先人の知恵だろうね。馬の方が足が速いし、有効な手段だよ」

「なるほどね。ちなみにクリスはやったことあるの?」
「いや、オレらは笛の音を聞いたらとにかく音がする方から離れろって言われてたッス」

 笛回しは大人の仕事らしい。
 月魔獣を引っ張りつつ戦えない人を逃がすのか。よくできている。

「でもレオン。キミはもう普段から月魔獣を狩りに行っているだろ?」
「そうだね。休むとシャラザードがうるさいし」

「明日からの演習はどうなんるんだろうね」
「そういえば、何も聞いてないな。……見ているだけだとシャラザードが嫌がるだろうし。適当に間引く役をするんじゃないかな」

「なるほど。便利だね」
 アークは笑ったが、実際どうなのだろう。

 学院生のほとんどは外へ出歩くことをしないため、一部領主たちの間で噂になっている大型種のことを知っている者はいない。

 そろそろ王都でも噂になってくるだろうし、時間の問題だろうが、今回の演習に際しては隠しておくらしい。

 現在発見された大型種は二体だけだが、これから増えてくることが予想される。
 今回の演習に出会わないことを祈りたい。

「さて、そろそろ寝るとしよう。明日は早いからね。そして演習中は寝不足になるのも覚悟した方がいいよ」
 アークの言葉に、レゴンもクリスもベッドに入った。

 日帰りの演習は何度も経験している彼らだが、宿泊するほど遠出するのは初めて。
 しかも場所は陰月の路である。

 この時ばかりは、眠くなくてもみな早めに就寝することに決めたようだ。

 いよいよ明日は出発である。
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