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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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「レオンくん、お話があります」

 アンさんはまじめな顔で言った。
 いつものほやぽやとした雰囲気ではない。

「な、なんですか?」
「王城内にはわたくしの部屋が与えられていますので、そこでお話します」
「……はい」

 式典に参加する際の着替え用に、小さな部屋がひとつ与えられているとアンさんは話してくれたことがある。
 小さなと言ってもそれは、他の部屋と比較した場合であるのだが。

「レオンくん、どうぞ」
 ソファを勧められたので、ソっと座る。

 アンさんと二人っきりだ。使用人すら排除してしまっている。

「なんでしょうか」
 嫌な予感がする。

「これでレオンくんに命を助けてもらったのは何度目になるでしょうか」
「さあ……そんなにないんじゃないですか?」

「本当ですか?」
 じっと僕の顔を見つめてくる。

「えっと……」

「わたくしは待っています。レオンくんが話してくれるのを……ずっと」
「………………」

 真剣な顔で僕を見つめてくる。
 アンさんは待っているのだ。
 なにを? 僕が隠していることを話すのを。

 強引に聞きだそうとはしない。
 そのかわり、嘘やごまかしをしないで欲しいと、その目は訴えている。

「………………」
「………………」

「分かりました。……お話します」
 根負けした。
 というか、将来の奥さんに隠し事はしたくない。

 もちろん、話せば危険が迫るかもしれない。
 だが、つい昨日アンさんは狙われたばかりだ。

 これからのことを考えれば、ここは話した方がいいのかもしれない。

「伺います。レオンくんのことですから、きっと話してくれると信じていました」

 アンさんの返答に、少しだけ気が楽になった。

「僕はもともと、竜国の平和を裏から守る〈影〉のひとりなのです」

 民は悪意に弱い。
 彼らの生命、財産、そして心を守るため、彼らの知らない所で外敵を排除する。
 その役目を担った者たちを〈影〉と呼び、幼い頃から訓練を続けてきたのだと話した。

「ではレオンくんは、竜操者になる前は……」
「実家のパン屋で働いていましたが、同時に女王陛下の〈影〉としても働いていました」

「そうですか。納得です。それで女王陛下はレオンくんのことをよく知っていたのですね」

 女王陛下と雑談をするときに、不意にそう感じることがあったという。
 というか、僕の話題で女王陛下と雑談していたことに驚いた。

「詳しく話せませんが、〈影〉には得意分野があって、僕の場合は『戦闘』になります」
 あえて『暗殺』とは言わなかった。

「わたくしは実際に剣で戦うことはできませんが、国に帰れば駆動歩兵乗りです。その目から見ても、昨日のレオンくんの動きは、人並み外れていました。技国の剣を極めた人たちと対等に渡り合えるほどに」

 それはかいかぶりだと思う。
 日中で剣士を相手にした場合、僕はほとんど実力をだせないのだから。

「今まで黙っていてすみません」

「いいえ。事が事ですから、仕方ないと思います。そして確信しました。鴎の氏族領でわたくしが捕らえられたとき、助けてくれたのはレオンくんだったのですね」

「そうです。アンさんを探すためにあの町へ潜入したのです。運悪くクーデターに巻き込まれてしまいましたが」

「お礼が遅れましたが、レオンくん。あのとき助けていただいてありがとうございます」
 アンさんは深々と頭を下げた。

「僕は指令で向かっただけですから。アンさんの知り合いが適任ということで、僕が選ばれたのです」

 あのとき、アンさんの立場はすごく微妙だった。
 留学生のアンさんであって、アンネロッタ・ラゴスではない。
 それは知られてない情報だった。

 見知らぬ竜国の人物が助けに入ったところで信用されるはずがない。
 それでも同年代の女性ならばまだ可能性があっただろうが、潜入、発見、救出、脱出と、成功に導けるような人材はいなかったと思う。

「それと内乱のとき、わたくしを救ってくれたのは、やはりレオンくんだったのですね」

「そうです。親竜国の兎の氏族を助けるために向かいました。僕も個人的にアンさんを助けたいと思ったので」

 あのときはまだ、アンさんとは友人どまり。
 それでも友人の窮地に駆けつけたいと思ったのは本当だ。

「レオンくんが身につけているペンダントが見えたのですが、確証はありませんでした。父もなにもいいませんでしたし」

 ディオン氏族長はほぼ確信していたようだけど、アンさんには黙っていたのか。
 もしあの直後で、アンさんに問われていたら否定していたと思う。

 アンさんもそれが分かっていたから聞かなかったのかもしれない。

「あの内乱のときに現れた黒衣の人物は伝説になっているのですが、あれがレオンくんでしたか」

 若干、アンさんは遠い目をしていた。
 伝説ってなんだ?

「その節はすみません。少々やり過ぎました」
 あのとき、敵駆動歩兵をバンバン殺した。

「伝説の黒衣……そういえば、わたくしは見ていないのですが、砦の方に現れた方も凄かったとか」
「えっと、それは父です」

「はい!?」

 珍しく、アンさんが素で驚いている。

「父も〈影〉なんです。というか、僕が逆立ちしたって勝てない相手が父です」
「まあ……ではお義父さまが伝説の黒衣。まったく気づけませんでした」

 さすがに予想外だったのが、呆然としている。
 ディオン氏族長は、あのときの二人組が父子であることは知っているから、この辺はもう話していい情報だろう。

「そして昨日と……ふふっ、レオンくんには助けてもらってばかりですね」
「いつだって僕はアンさんを助けますよ、もちろん」

「話してくれて、ありがとうございます。ようやく胸のつかえがおりました。これでふたりの間に秘密はないですわね」

「ごめんなさい。実はもうひとつあるんです」
「あら、そうなのですか」

「はい。いい機会なので、これも話しておきたいと思います」
「でしたら、お聞きします」

「ありがとうございます。実はですね。僕は魔道使いでもあるのです。つまり、魔道が使えます」

「はい!?」

 本日二度目の、素っ頓狂な声だった。


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