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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 三人の男たちが動いた。
 パーティ会場に刃物は持ち込めない。

 ……と思ったら、袖口から光るものが見えた。
 ナイフか?

 僕はすでに駆けだしている。
 周囲はまだ気づいていない。

 奴らの狙いは? 見ているのはアンさんだ。
 アンさんの護衛を探す。

 近くにふたりいた。だが、まだ気づいていない。

「襲撃だ! そこの三人を取り押さえろ!」

 駆けながら叫んだ。
 周囲の視線が僕に向く。

 僕が指さした先で、男たちがこちらを見る。
 バレたのを理解して、向こうも駆け足になった。

 まずい。間に合わない。
 テーブルの脇を通るときに、フォークとナイフを掴んだ。

 ナイフを二本投擲する。
 一番前にいた男が避ける。見えてなかったのに、器用だ。

 ここでようやく護衛が動いた。だが、遅い。
 アンさんの護衛は四人。近くには二人しかいない。
 もう二人は他の来賓の向こう。阻まれて近づけていない。

 襲撃者に気づいたパーティの客たちが騒ぎ、男たちから離れるように動く。
 護衛が立ちはだかる、
 先頭の男がナイフを一閃させた。護衛の腕が切り裂かれ、血が吹き出た。

 護衛の武装は警棒のみ。刃物を持ち込めないのだから仕方ない。
 またひとり護衛が斬られた。だが、後ろに通さないようその場に踏みとどまる。

 男たちが戦闘を避けて、アンさんの横に回り込む……その前に僕が追いついた。

「アンさん、下がって!」
「レオンくん、危険です」

「……ッ!」
 答える暇はなかった。
 僕の前に男がふたり。

 敵は細身のナイフを手にしている。
 僕はというと、テーブルにあったフォークが二本のみ。
 ちょっと不利だ。

 ――キィン、キン

 両手にフォークを一本ずつ持って、男たちの攻撃をさばく。
 ボディチェックをくぐり抜けるために、長剣を持ち込めなかったのだろう。

 もし持っていたら、フォークでは対抗できなかった。

「レオンくん、危険です」
「大丈夫です。心配しないで! そのかわり下がっていてください。狙いはアンさんです」

 安心させる言葉を吐きたいが、襲撃対象はアンさんだ。
 みれば、ようやくおいついた残りの護衛たちが男を囲んでいる。

 こっちは僕が二人を相手して、向こうは四人で一人を囲んでいる。
 半分回して欲しいくらいだ。

 ――キィイイイン

 フォークの先が切断されて飛んでいった。
 食事用のフォークでは、暗殺者のナイフに敵わないようだ。あたりまえか。

「ならば、これだ!」

 フォークを二人に投擲する。
 敵の注意が逸れた隙にしゃがんで足払いをかける。

 一人を転ばしたら、即座に膝を蹴り抜く。
 鈍い音がして骨が砕けた感触が足の裏に届いた。もう立てないだろう。

「あとひとり」

 敵はアンさんめがけてナイフを投擲してきた。
 集中して飛んできたナイフを素手で掴む。

 ちゃんと柄の所を掴んだので、僕に怪我はない。もちろんアンさんもだ。

「レオンくん……」
「待っていてください。いま片付けます」

 怯む敵に近寄って、ナイフの柄を側頭部にたたき込む。
 鈍い音がした。感触から骨が砕けたのが分かった。

 敵はそのままくずおれたので、向こうの敵を見た。
 すでに四人の護衛に取り押さえられていた。

 周囲に視線を走らせるが、これ以上不審な動きをする者はいなかった。
 良かった。凌いだようだ。

 膝を抱えて呻いている男の顎を蹴り抜いて、僕は振り返った。
「もう大丈夫です、アンさん……」

 そこには、僕を凝視しているアンさんがいた。驚きに目が見開かれている。
 足下には気絶する襲撃者がふたり。そして無傷の僕。

 ……やっちゃったかな?



 今回の襲撃事件。
 魔国の高官がパーティ会場に連れてきた三人の護衛が犯人だった。

 高官本人はまったく与り知らないと潔白を主張したが、過去の事例もあったので、別室で取り調べ中だ。

 竜国がつけてくれた護衛だと高官が話しているらしい。
 パレードのときまでは、たしかに護衛はいなかった。

 そして狙われた人物。
 これは間違いなくアンさんだ。

 個人的な恨みとは思えないので、竜国に一番ダメージがある方法を考えた結果ではないかと思われる。

 襲撃者が使っていた武器は、刃が薄い特別製のナイフだった。よほど念入りにボディチェックしないと見つけられないたぐいのものらしい。
 このことから、計画的犯行であったと思われる。

 現在、捕まえた三人を尋問中。
 プロの犯行らしいので、尋問がどのくらい有効か分からない。

 襲撃事件が起こったことで、パーティは中止。
 ある意味一番被害を受けたのはリトワーン卿だが、警備を見直すということで、パーティ直後から姿は見えない。どこへ行ったのかは知らない。

 そして僕はというと、アンさんとその護衛たちと一緒に一室に閉じ込められている。
 他の暗殺者がいないとも限らないので、完全に安全が確認されるまで部屋から出ないように言われてしまった。

「……レオンくん、さきほどは助けていただいてありがとうございます」
 ようやく落ち着いたのか、アンさんはそんなことを言った。

「いえ、間に合って良かったです」
 僕としては、あまり触れたくない話題だ。

 護衛四人で暗殺者一人を押さえたのに、僕は果物ナイフとフォーク(あとで聞いたらそう言われた)で暗殺者二人と渡り合ったのだ。

 しかも、四人の護衛のうち三人までもが負傷している。
 僕は無傷。
 最後は、アンさんめがけて投擲されたナイフを掴んでいたりする。

 その辺のところを聞かれると、非常に答えづらい。

 唯一無傷だった女性の護衛が立ち上がった。
「外が騒がしいようですね。確認してきます」

 扉をそっと開いて、廊下へ出て行く。
 あの人が護衛に紛れた〈影〉だろう。

 無傷で乗り切ったことや、身のこなしから、そう判断できる。
 王女殿下の護衛にも〈影〉がひとり紛れていたので、アンさんの場合も同じだと考えられる。

 それが分かったからと言って、どうなるものでもないが。
 でも、気まずい雰囲気を察して、話題を変えてくれたのかもしれない。

「このフロアの安全が確認されたようです」
 護衛が戻ってきてそう教えてくれた。

「まあ、良かったですわ。これで安心ですわね」
「そうですね。明日の帰りですけれども、できればどこにも寄らずに帰りたいのですけど」

「一泊しないでということですか?」

「はい。シャラザードならば、王都まで一気に王都まで飛べます。襲撃されたことを考えると、その方が安全かと思いますので」

 宿で一泊しているときに襲撃されると困る。

 僕が提案すると、〈影〉らしき護衛が頷いてくれた。
「わたくしは構いませんけれども」

「シャラザードの背なら安全ですので、護衛が許可していただけるならば、先に戻ります」

 その場合、途中で何かあっても護衛の責任は問われることになる。
 僕に任せたからといって、責任がなくなるわけではない。

 だが、護衛たちは全員問題ないとの見解を示してくれた。

 護衛としてもアンさんを途中の町で一泊したときに狙われたくないのだろう。
「それではレオンくん。明日はよろしくお願いします」
「はい」

 翌日になっても進展はなく、引き続き尋問をつづけ、分かったら王都に知らせが走るということまで聞いて、僕とアンさんは出立する。

 アンさんが狙われているのならば、一刻も早くここを出てしまいたい。

「シャラザード、頼むよ」
『承った!』

 護衛たちを残して、僕とアンさんは王都に向かって出発した。
 道中、一切休憩を挟まずに飛び続け、夕方、無事王都に到着した。

 アンさんを王立学校に送ろうか、一度女王陛下に相談しようかと悩んでいると、アンさんがまじめな顔をして言った。

「レオンくん。お話があります」


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