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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 パレードの途中で月魔獣の襲来というハプニングがあったが、パーティは中止になることなく行われた。

 軍事的権威を示すパレードだったわけだし、月魔獣の襲来くらいで中止していられないのだろう。主に体面のため。

 僕が会場に足を運ぶと、中は大盛り上がり……していなかった。
 みなコソコソ、ヒソヒソと話している。

「……ずいぶんと遅い参加ね」

 僕を見つけて王女殿下は近づいてきた。
 今日のサーラーヌ王女は、竜をかたどった刺繍のロングドレスを身にまとっている。

「これはこれは、王女殿下。御機嫌うる……」
「よしなさい。面倒なの」

「……はい」
 とりつく島もない。

「パーティは強制参加だと思ったけど、どこをほっつき歩いていたのかしら」
「リトワーン卿に呼ばれて、今まで執務室にいました」

「キザ男のところね。何を話したのかしら」

「大したことは……今回の迎撃はシャラザードがやったことだったので、その説明とかを少し」

「あの咆哮? ……ということは、一列になって突っ込ませたのは?」
「シャラザードです」

 王女は手に持ったグラスを給仕に渡し、僕の腕を掴んだ。
「ちょっとこっちに来なさい」
「はへっ!?」

 会場の隅に連れて行かされ、周囲に人がいないことを確認してから、僕に顔を寄せてきた。

「あんた、それって大変なことよ」
「はい? どうしてです?」

「今のこと、不用意に人に話さないようにしなさい!」
「理由を教えてください。どうしたんです、突然」

 サーラーヌ王女は「馬鹿なの?」と真顔で僕をけなしはじめた。

「竜国の軍事的優位があなたひとりでひっくり返るでしょ。あそこまであからさまに竜を従えさせるって分かったら、どうなるか分かる?」

「えーっと、僕の争奪戦?」

「それならばまだかわいい方ね。あなたを得た国が……ううん、あなたを得た人がこの大陸を統べる。そう考える人たちが出てくるのよ。一国の軍事力を上回る効果があるんですもの。味方にするためには、なんだってしてくるわよ」

「でも……竜向かえの儀から今まで、そんなことは無かったけど」

「そりゃ、竜操者が乗っていない状態しか従えさせられないと思ったからでしょう。もし従えさせても、竜操者があとから操れば、その効果はなくなると普通は考えるもの」

「……えーっと、つまり。今回のはマズい?」

「マズいわね。あの様子だと、どんな状態でも他の竜を操れる分かったわけだし、その数も予想していたよりずっと多いわ。あの一糸乱れない行動は、打ち合わせなしに出来たのでしょう? 竜操者だって制御を自分のもとに戻そうとしたはずよ。それなのに、そんな様子は少しもなかった」

 完全にシャラザードの意志通りに動いていた。それは非常に重要なことだと王女は早口で言った。

「なら、僕が黙っていれば……」
「竜操者の口から広がるでしょうね。魔国や商国が知ったら……ちょっと怖いわ」

 思ったより大事になっていた。

「どうしたら」
「幸い今は、月魔獣の大型種の話題でもちきりだから、口裏をあわせて乗り切るしかないわね」

「まいったな。そんなつもりはまったくなかったのに」
「認識が甘いのよ。いい? もし聞かれてもあれは無関係。訓練の賜物だった。そう言いなさい」
「わ、分かった。必ず、そう言うよ」

「まったく、お母様はどうしてこんなのを野放しにしているのかしら。しっかり首に縄を付けて王宮で飼えばいいのに……」

 不穏なことをつぶやきながら、王女は行ってしまった。
 僕は王宮で飼われるつもりはない。
 辺境でパン屋を開くという夢があるのだから。



 僕は壁を背にして、パーティの参加者たちを盗み見た。
 みな不安そうに話している。

 耳を傾けると、大型種から大転移を連想しているようだ。
 各国とも、いまだ大転移についての正式発表はない。

 だが、ここにいるのは高官ばかり。
 すでに詳しい内容を知っている者も多い。

 大型種の襲来はこれで二件目だが、そのことについて取りざたされている。
 みな多くを抱えている者たちばかりだ。

 大転移がおこれば、失うものも多い。
 日常が脅かされるだけではない。自分たちの足元がどうなるのか不安なのだろう。

「アンさんはどこかな」

 会場内を見渡して、アンさんを探す。
 より地位の高そうな人たちを目で追っていたら、見つけた。

 数人の紳士たちに囲まれている。年齢はかなり上だ。
「服装からして、竜国の領主たちかな」

 竜国と技国の友好――。
 アンさんがその架け橋となるため、一生懸命頑張っている。

 会話の間に入って邪魔をするのは気が引ける。
「僕はどうしようか」

 王女殿下に釘をさされたばかりだし、あまり耳目を集めたくない。
 かといって、このまま壁際に突っ立っているのも芸が無い。

『みなさん、本日はようこそお集まりくださいました!』

 壇上で、リトワーン卿がしゃべり出した。
 みなの注目がそこに集まる。

『ささいな出来事がありましたが、こうして無事式典が執り行われましたのも、ひとえにみなさまのおかげでございます。まことにありがとうございます』

 リトワーン卿が優雅に一礼する。
 まばらに拍手があがる。

「所作がいちいち大げさなんだな」
 王女殿下がキザ男と言っていたが、普段からアレならば、たしかにキザだ。

 みなの注意がリトワーン卿に移っている。
 今のうちに料理を皿に取って、外で食べよう。

 そう思って会場中央にあるテーブルに向かったが、ふと違和感をおぼえて周囲に視線を走らせた。

 みながリトワーン卿に注目している。
 そのため、全体の動きに統一性がある。

 そこから外れているのは、料理を取ろうとする僕と……会場中央にいる人たちだ。
 彼らの視線はリトワーン卿には向いていない。

 異分子は異分子をかぎ分ける。
 つい彼らを目で追ってしまう。

 僕の背中に電流が走った。
 男たちがアンさんの方を見ていた。

 アンさんはリトワーン卿の方に身体ごと向いているので気づいていない。

 なんだ? なにをするつもりだ。
 男たちが動いた。


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