挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

290/660

290

 月魔獣も黙ってはいない。
 軽く振り払ったように見えたが、それだけで数体の飛竜が打ち落とされる。
 だが、編隊を組んだ飛竜は怯むことがなかった。

「シャラザード、あれはおまえがやったのか?」

 一直線に並んで突撃を繰り返すなど、見たこともない。
 少なくとも、学院では教えてもらっていない編隊運用だ。

「まあ、シャラザードさんがですか?」
 アンさんも驚いている。

 シャラザードが他の竜を従わせるのは知っている。
 僕だって何度も見てきた。

 だがその本質は理解していなかった。

『もちろん我がやった』

 シャラザードが答えた。

 間違いないらしい。
 シャラザードは、他の竜を従わせる……それはつまり、他の竜を操って、死地へ向かわせることができるのだ。

『小型竜で大型種を倒すには、あれが一番よい。いまに落ちる』

 その言葉通り、攻撃を受けた月魔獣の動きが悪くなり、ついには低空へ逃れはじめた。

『ぎゅわぁあああん(ただちに向かえ)!』

 大型の月魔獣が落下……ではない。不時着か。
 月魔獣はたまりかねて、地面に降り立った。
 大地が揺れる。

 そこへ、今度は地上から小型竜の群れが襲いかかる。

 一体、二体、三体……それはさきの飛竜と同じで、一直線に並び、次々と同じ箇所へ攻撃を加えていく。

 月魔獣が振り払っただけで、走竜、地竜は枯れ葉のように空を舞う。
 その姿をみると、本来まったく敵うはずのない相手であることが分かる。

「だけど、押している」

 それがハッキリと分かった。
 月魔獣は嫌がっている。

 すると今度は空から飛竜が同じように急降下してきた。
 目指すは首筋の一点のみ。

 地上と空からの攻撃が続く。

 僕とアンさんはそれをバルコニーから黙って眺め続ける。
 逃げ惑っていた観衆も足を止め、竜たちの波状攻撃に見入っていた。

 どれくらいの時が流れたのか。
 月魔獣が空へ脱しようとして失敗し、なすすべもないまま竜たちの蹂躙を受けて、力尽きた。

 あっけないまでの幕切れだった。
 月魔獣は途中からは、竜の攻撃を避けるだけ。
 追い払うこともできず、身を削られ、やがて力尽きた。

「……終わったのか?」
「そうみたいですわね」

 観衆もそれを感じ取ったのか、一気に沸いた。



 月魔獣の大型種が飛来し、一時はパニックになったものの、小型竜の活躍で事なきを得た。
 だがパレードの列は乱れ、観衆は逃げる途中で怪我をした者も出た。

 竜の何体かは大けがをし、竜操者も同じである。
 死者も出たはずだ。

 このままパレードを続けることはできない。
 観衆を解散させ、来賓を町へ送り届けることに決まった。

 残った竜操者たちは、周囲の警戒と月魔獣の処理である。

 僕はアンさんとともにウルスの町に戻った。
 技国との関係を考えれば、アンさんは大事に扱ってしかるべき身分である。

 ごった返す竜の発着場を尻目に、優先的に場所を開けてもらえた。
 ただ、それには他にも理由があったようだ。

「……領主様がお呼びでございます」

 アンさんを護衛に任せて戻ろうとしたら、そう言われてしまった。

「僕にですか?」
「はい。すぐに来て欲しいとのことでございます」

「……はぁ、行きます」

 なぜ僕が領主に呼ばれたのか。
 シャラザードの位置はパレードの中央付近で、そこにはリトワーン卿もいた。

 何が起こったのか理解しただろう。
 戦いに参加した小型竜の竜操者にヒアリングすれば、おおよそのことは分かってしまう。

 戻った早々、領主から呼び出し。
 呼び出された理由は分かるが、いかない訳にはいかない。

「ではご一緒に……こちらです」
 使用人だと思うが、有無を言わせぬ口調で迫られてしまった。

「分かりました」
 しかたなく僕は後についていった。



 リトワーン卿の執務室に通されると、ソファに座らされ、お茶がすぐに出てきた。
 テキパキと雑務をこなすのは、秘書だろうか。

 大型種の襲来でやることは多いだろうに、リトワーン卿も僕の目の前に座って、茶をすすった。
 のんびりして大丈夫なのか?

「今回の襲撃だけど。来賓や観衆たちに被害が出ないよう尽力してくれたみたいだね。礼を言おう」

 のっけから、こんな調子だ。
 僕……いや、シャラザードが竜を使役したことを前提にして話している。

 ちょっとだけとぼけてみたい衝動にかられたが、そんなことをしても利益はない。
 ないばかりが、悪印象を持たれてしまうだろう。

 なにしろ、僕の目の前に据わっているのは、魔国の防波堤を長年続けてきた人だ。
 あまり舐めた真似はできない。

「あの場では僕のシャラザードも動けず、他の竜も同様だと思いまして、勝手しました。事後報告になりますが、対処させていただきました」

 うん、シャラザードが勝手にやったのだけど、嘘は言っていない。

 やったことを正直に言ってしまうと、僕がシャラザードを制御できていないと思われてしまって、よろしくないのだ。

「正直助かった。あのまま小型竜が統制のとれない攻撃を続けたとして、倒せる確証はまったくなかった。いや、おそらく無理だっただろう」

 飛竜があっさり蹴散らされた姿を僕も見た。
 あれでは倒すどころか、足止めも難しかったと思う。

「一般の人々に怪我がなくてよかったです」

「その通りだ。パレードの見栄えを重視するあまり、すべての中型竜に籠を乗せ、身動きできないようにさせてしまった私の不手際だ」

 大事にならなくて本当に良かったとリトワーン卿は僕に頭を下げた。
 不手際というが、大型種の襲来は予想不可能だろう。

 さて、僕にお礼を言いたくてこの忙しい時間を割いたわけじゃないはずだ。
 僕は黙って、その先を待った。

「それで今さらだけど、あれはやはりきみの黒竜が動かしたのでいいのかね」
 核心に切り込んできた。

「そうです」
「全部?」

「はい。竜迎えの儀でもそうでしたが、シャラザードが他の竜へ言うことを聞かせられます」

「ふむ……噂には聞いていたが、素晴らしい能力だね」
 もしくは恐ろしい。リトワーン卿は、あえて後半を紡がなかった。

「火急でしたので」

「いや、それはいい。さっきも言ったように、あのままだったら、多くの死者が出ていた。こちらが招待した人々にも犠牲が出ただろう。それは他の町との関係悪化だけではなく、他国との関係も修復できない傷を残した可能性もあった」

「そう言っていただけると助かります」

「ひとつ疑問なのだが、あの戦い方はなんだったのかな」
「一直線になって立ち向かったことでしょうか」

「そう。私は寡聞にして知らない戦法だったものでね。聞いたところ、攻撃に参加した竜操者たちも同様だったらしい」
 あれはなんだったのかと、リトワーン卿は穏やかに尋ねてきた。

 やっぱり、竜操者にヒアリングしていたか。
 それについての答えは用意してある。

「それはですね」
 僕は説明をはじめた。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ