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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 パレードの先頭は大通りに達したらしく、大きくなった歓声がここまで聞こえてきた。

「アンさんはこういうの、慣れていますよね」
「そうですね。恒例の行事ですので、何度か経験があります。レオンくんはどうですか?」

「僕は苦手です。普段は人前に出ることはないので。笑って手を振っていればいいって言われましたけど、それができるかどうか」

「目を合わせないようにして、漠然と景色を眺める感じでいいと思いますよ。緊張したときは、大きく息を吸い込んで空を見上げると落ち着きます」

「分かりました。やってみます」

 パレードの隊列は進み、シャラザードの巨体が観客たちの目に触れた。

 ――わぁあああ

 今までとは違って、大きな歓声があちこちからあがる。

「ふふっ、大人気ですね」
「シャラザードの姿を見ても怖がらないようですね」

 竜迎えの儀のときは、王都の民ですら逃げだそうとする人がいた。
 あのときはまだ竜を得たばかりで、しっかり制御できるか不安に思った人もいただろうけど。

「よく見ると、愛嬌のある顔をしていますよ。シャラザードさんは」
「ありがとうございます。お世辞でもシャラザードは喜ぶと思います」

 さすがに愛嬌はないんじゃなかろうか。

 バルコニーからだと、集まった観客を見下ろす形になる。
 集まった観衆の顔がよく分かる。喜んでいる者がほとんどだ。

 怖がっているように見えないので、ウルスの町の住民は竜に恐れを抱く者は少ないのだろう。
 さすがは、魔国と陰月の路に近いだけのことはある。

 戦う竜を見て怖いと感じるか、頼もしいと感じるかは、死が身近にあるかどうかだろうか。
 彼らを見ていると、ここが最前線だと理解できる。

「このまま町の外へ出るようですわ」
「町の中は中型竜が通れない道が多くて、そうそう練り歩けないですしね」

 町の目抜き通りを通過しだだけで、外へ向かう。
 竜が通行できる道は複数あるだろうが、集まった観衆が安全に見学できる広さはない。

 町の外の方が広くて安全だ。

 僕はアンさんの真似をして手を振る。
 服装から僕が竜操者だと認識されていると思う。

 何人かが、思いっきり手を振り返してくれる。
 とくに少年少女たちの食いつきがすごい。

 あの中に、将来の竜操者が何人か出るだろうか。
 ぜひ出てもらいたい。そして国の平和を守ってほしい。

「こうして並んでいると、わたくしたち、夫婦みたいですわね」
 アンさんが顔を赤くして近づいてきた。

「揺れますよ」
 僕はそっと腕をまわす。

「ありがとうございます」
 へにゃっと笑ったアンさんの顔がかわいい。

 今までいろんなアンさんの顔を見てきた。
 まじめな顔、氏族の使命を背負った顔など、会うたびに新しい発見があった。

 こうやってデレるアンさんは珍しい。

「一緒に手を振りましょうか」
「はい」
 僕の誘いに、アンさんは顔を赤くしつつも頷いた。

 シャラザードの背のさらに上。
 ハリボテに作られたバルコニーで、僕はアンさんとふたりきり。

 たしかに夫婦のようだ。僕の顔も赤らむ。
 ちなみにアンさんの護衛は外してもらっている。
 次に合流するのはパーティのときだ。

 僕らの気持ちを知ってか知らずか、シャラザードは静かにパレードの中を進む。

「………………」
「………………」

 互いに無言で観衆に手を振る。
 このまま時間が過ぎてゆくかと思われた。

「……きゃあぁあああああ」

 絹を切り裂くような悲鳴が、賑やかなパレードに響き渡った。

「なんだ?」
 周囲を確認するが、だれが悲鳴をあげたか分からない。

「レオンくん。あれっ!」
 ただし、その原因だけはすぐに理解できた。

 空から月魔獣が迫ってきた。飛行型だ。

「シャラザード、迎撃を……っと、これじゃ無理か」

 いま、シャラザードの背中にはゴテゴテとした装飾過多なハリボテが乗っている。
 このまま飛び立てば、アンさんは振り落とされ、ハリボテの残骸が観衆の上に落ちてしまう。

『主よ、どうするのだ?』
「このまま待機だ。僕らが動いたら、足下の観客たちに死傷者が出る」

「レオンくん、大丈夫でしょうか」
「いろんな場合を想定して、警備しているはずです。ほら、飛竜が向かった。これで安心……」

 上空を滑空していた飛竜が月魔獣の方へ向かう。
 小型竜でも五体もいれば蹴散らせる……そう思っていた。だが、何か変なのだ。

「……なんだあれは?」

 なかなか月魔獣に襲いかからないと思っていたら、思っていた以上に距離が離れていた。
 つまり、実際に月魔獣がいたのは、僕が想像していたよりもはるか遠くで、それに向かっていく飛竜の身体がどんどん小さくなる。

「レオンくん……あれは、あの大きさは」

『大型種だぞ』

 向かっていった飛竜が一瞬で蹴散らされた。

「きゃぁああああ」
「うわぁあああああああ」

 観客が逃げ惑う。
 遠くで五頭の飛竜が落下していくのが見えた。

 シャラザードの足下を人々が右往左往する。
 これで身動きがとれなくなってしまった。

 大型種の月魔獣は確実のこちらへ近づいてくる。
 シャラザードだけでなく、パレードに参加したすべての竜が身動きとれないでいる。

 頼みの綱は、パレードと一緒に飛行していた小型の飛竜だけだが。
「あれじゃ、蹴散らされて終わりだ」

 力量差ではない。そもそも大きさが違う。
 さっきは、ただ散らされるためだけに向かっていったようなものだった。

 小型竜では太刀打ちできないのはすぐ分かった。

「中型の飛竜はいないのでしょうか」
 アンさんもそれに気づいたようだ。

「中型竜はシャラザードと同じように、背に人や物を乗せています。地上をパレードしていて身動きが取れてないんだと思います」

 まさかパレードを計画した人も、こんな事態になるとは思わなかっただろう。
 小型の飛竜編隊が複数いるが、大型種の月魔獣に比べれば、まるで赤子にしか見えない。

 国境を守る竜や、陰月の路を守る竜、そして町に待機している竜は大勢いる。
 だが、すぐここへ来られる竜はいない。

 残る手は、中型竜が観客を踏みつぶしてでも、月魔獣に向かうかだ。
 シャラザードが飛び立てば、背中のハリボテは地上に落下する。

 それだけで大勢の死者が出る。
 決断……しなければいけない。

 そう思ったとき、シャラザードの咆哮が響いた。

『しゃげごぉおおおおん(襲いかかれぇえええ)!』

 一声だった。

 それまで乱雑に飛んでいた飛竜が、一直線になって月魔獣に向かう。
 大型種の月魔獣は飛行型。

 小型の飛竜は、下から無防備な腹部に襲いかかった。
 ダメージは与えられたようには見えない。

 だが、同じ場所へ何十という飛竜が襲いかかる。

「シャラザード……おまえ、今の」

『ぎぇええん(反転しろ)!』

 攻撃を加えた飛竜は綺麗な弧を描いて離脱。
 しかるのち、また攻撃隊に加わった。

 小型飛竜の永久機関。
 絶え間ない一点集中の波状攻撃である。


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