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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 ウルスの町の軍事式典が始まった。

 といっても、僕とシャラザードは式典そのものには参加していない。
 町中の広場で待機だ。

「広いなここは」
 魔国と戦争がおきた場合、民が避難できるよう、町の奥に広場が設けられいる。

『しかし、なんだこれは』
 シャラザードの背に乗った宮殿らしきもの。

 大きく派手だが、中身はない。
 ハリボテだ。

 それでも大きめの宿屋くらいあるので、シャラザードからしたら鬱陶うっとうしいのだろう。

「パレードが終わるまでの間だし、我慢な」
『それはいいが、終わったらちゃんと月魔獣狩りに行くのだろうな』

「約束だしね。それは大丈夫」
 学院の授業に出られない日が続くが、パレード前にシャラザードの機嫌を損ねたくない。

 取り引きくらい仕方ない……はず。

「パレードの参加位置が変わったって聞いたが」
 ドージン隊長がやってきた。

「ええ。アンさんを乗せることになったので、中央付近に移動になりました」
「そうか。だったら、パレードが始まったら会うこともなくなるな」

「そうですね。でも、僕らもパレードの列に入れるって、いいんですかね。ウルスの町にはたくさんの竜がいるでしょうに」

 自前の兵力だけでパレードをするのかと思ったら、そうではなかった。
 ドージン隊長の飛竜編隊だけでなく、王女殿下を乗せてきた飛竜編隊もまた、パレードに参加すると聞いた。

 ちなみに王女殿下が率いてきた編隊は、僕の知っている人たちだったので、顔を合わせないようにしている。

「町中にかなりの数の竜を残しているぞ。何かあったときのための備えだな」
 自前の兵力はそっちに割いたわけか。

「それでパレードの方は僕らの出番ですか」
「そうだ。他にも、陰月の路付近や魔国との国境にも多数の竜が配置されているはずだ。パイル操者の姿も見えないだろ?」

「そういえばそうですね」

 大型の走竜を駆るパイル・ボレックスは、四十歳を少し超えた年齢だと聞いた。
 ウルスの町の最大戦力で、通常は陰月の路で単独の狩りをしている。

「まあ、大型の走竜がここにいたら大変なことになるけどな」
 そう言ってドージン隊長は去っていった。

 パイル操者は、同じく大型の地竜を駆るオリヴィエ・ナハラ操者と同じく有名人だ。

 ドージン隊長の言葉通りならば、陰月の路にいるのだろう。

『いつまでここにいれば良いのだ?』
「飽きたのか?」

『うむ。飽きたな』
「パレードは、式典が終わってからだから、まだ時間はかかるよ」

『ううむ……だったら、狩りにでも』
「行かないからね!」

 軍事式典は三部構成になっていて、いまは第一部。
 退屈な式が粛々(しゅくしゅく)と行われている頃だろう。

 王女殿下などは、さぞかし暇をもてあましているに違いない。

 一般の民は式典を見ることができず、その後に始まるパレードに注目している。
 昼を挟んで始まるので、まだ先だ。

 パレードは町中を練り歩いたのち、町の外へ出て行く。
 そもそも町中では、たくさんの竜が移動できる場所がほとんどない。

 民の多くは、町の外で竜がよく見える高台に移動する。
 大勢の観衆が、そこから列をなす竜を眺める。

 子供たちは近寄って見上げるのが好きらしい。
 どちらにせよ、近隣の町からも、多くの観光客が訪れる。

 こんなお祭りならば、さぞ珍しいパンが売っている……と思ったが、僕はここで待機なので、出歩けない。

 まだ見ぬパンよ。どうか夜まで残っていて欲しい。必ず買いに行くから。

『パレードが終わったら狩りに行くぞ』
「夜になるよ。そもそもパレードの後はパーティだから僕も参加しなくっちゃ」

『なんだと!? だったらいつ行けばよいのだ』
「明日だね。午後に帰るから、それまでの時間ならつきあえるから」

『分かった。そのかわり、早く出るぞ。日が昇る前だ』
「……マジか」

 シャラザードはどうしてこう、月魔獣狩りにあり得ないほど情熱を燃やすのか。

『ふむ……終わったようだぞ』
「見えるのか」

 シャラザードの目がいいというより、背が高いから見通せたようだ。

『パレードが始まるのだな』
「お昼を食べてからだね。僕も今のうちに腹ごしらえしておくよ」

 支給されたのは、保存食だけだったので、早朝にちゃんと店でパンを買ってある。
 残念ながら技国式のパンはなかったが、贅沢は言ってられない。

 昼食を摂ってしばらくしていると、アンさんがやってきた。

「おまたせ致しました、レオンくん」
「アンさん、お綺麗ですね」

「いやですわ、レオンくん」
 照れた姿がかわいい。

 今日のアンさんの服装は、真珠色のドレスに花をあしらった帽子。
 アクセサリは控えめだ。

 光沢のある衣装は、遠くからみると日の光を反射して、さぞかし艶やかに見えるのだろう。
 この姿でパレードにでるようだ。

「さあ、行きましょうか」
 アンさんの手を取り、シャラザードの背にのぼる。

「これは……お城のようですわね」
「派手ですよね」

 目に痛い色が所々使われている。
 かろうじて下品にはなっていないが、黒を好む僕からしたら、絶対に選ばない配色だ。

「どうやって中に入ればいいのでしょう」
「扉はないので、後ろから回り込む感じですね。中に階段がありますので、最上部のバルコニーまで出ることができます」

 アンさんの手を引いて、一番上まで向かう。
 シャラザードは足を折って低い姿勢でいるが、それでもバルコニーに出るとかなり高いことがわかる。

「ここからなら、遠くの景色がよく見渡せますね」
「シャラザードの視点ですね。それで先ほど、式典の終わりが分かったようですよ」

「まあ、そうでしたの」
「式はどうでした?」

「大変立派なものだったと思います。重厚でいて、厳粛な雰囲気の……もう少し明るい感じを想像していたのですけど、少し違いました」

 技国では、新年の式典などで、氏族の者が一般の民に向かって挨拶をする習慣があるようだが、同じものを想像していた分、面食らったらしい。

「リトワーンさまの演説は、真に迫っていてすごかったです」
 壇上に立って、拳をふりあげつつ熱弁したらしい。

「それは見てみたかったような、見なくて良かったような……」

 そんな話をしていたら、前の列が動いた。
 パレードが始まるらしい。

「アンさん。これから町を練り歩くようですよ」
「そうですわね。レオンくんは隣にお願いしますね」
「はい」

 シャラザードが歩を進める。
 背にいる僕らが落ちないよう、上下に揺らさないようにゆっくりと歩いてくれた。

 広場を出て、観衆が待ち構える大通りに向かって、僕らは進んだ。

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