挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

287/656

287

 軍事式典には多くの人が参加する。
 ウルスの町には、日に日に人が集まりだしている。

「ようやく時間がとれましたわ」
 アンさんが領主の館を離れて僕の元にやってきたのは、式典を翌日に控えた早朝だった。

「忙しそうでしたね。遠目で見かけたことが何度かあったんですけど」
 さすがに声はかけられなかった。

「わたくしもレオンくんの姿は見かけたのですけど、抜け出すのは無理でした」
 アンさんは、すぐにでも駆けつけたかったのだと言い添えた。

「そうした場合、かなり噂になったでしょうね」
「そうですわね。王都の話はここに届いていないでしょうし、あえて広める必要はないと判断しました」

 アンさんは、僕との結婚話について、周囲に触れ回ってないようだ。
 僕は……言ったな。まあ、あれはしょうがない部分もあったのだけど。

「技国の方は来られているのですか?」
「ええ。ですけれども、ほとんどの方が一般参加のようです。領主の館ではお見かけしませんでしたわ」

 ウルスの町からはかなり距離があるし、普段から技国と交流はない。

「それだと大変でしたね」
「はい。初めての方とお話しすることが多かったので、お名前を覚えるのが少し……」

 技国から正式に招待されたのがひとりだと、色々と大変そうだ。
 そもそも、アンさんの参加は女王陛下からみだろうし。

「何か気づいたこととかありますか?」

 僕はあれ以来、領主の館には足を運んでいない。
 シャラザードと月魔獣狩りに行ったり、パレードの打ち合わせをしたりして過ごしている。

「そうですわね。魔国からの招待客の方々が多かったですわ」
「そうですか。敵対……いや、潜在的な敵国なのに、変ですね」

 軍事力を見せつける意味があるだろう。大勢招待したのか。
 そこまであけすけ(・・・・)でいいのだろうか。

 政治的なことはよく分からないけど、竜国は戦力を隠す傾向があるので、ちょっとだけ意外だ。

「それでですね。少し小耳に挟んだのですが」
「なんですか?」

「レオンくんと仲良くなられた竜操者の方がいらっしゃるとか」
 その人は若い女性と伺ったのですけど、とアンさんの顔が真剣だった。

「はっ、仲良く? いや、そんなことないですよ」
「そうですか? 気に入られてお部屋を訪問する仲だとか」

「だれがそんなことを言ったんですか? 誤解です」
 親しくは……ないと思う。部屋に行ったけど。

「館の使用人の方から聞いたのですけど」
「でしたら、ただの噂ですね。月魔獣に襲われたところをシャラザードで助けに入ったのですが、その竜操者は怪我をしていまして、あとで見舞ったことはあります」

「まあ、そうだったのですか」

「ええ。傷の具合が気になったので。でもそれ以来会ってないですね」
 僕がそう答えると、アンさんはあからさまにホッとした表情を浮かべた。

「リンダさんからも色々言われていましたので、良かったですわ」
 リンダが? なんでここでリンダの名前が出てくるんだ?

「しかし、使用人の噂もアテにならないですね」
 とりあえずそう答えておく。

 アンさんにシルビアのことをリークしたのは姉のシーナではなかろうか。
 さりげなく名前を出して反応を窺うくらいのことはしそうだ。

 もし本当に僕とシルビアをくっつけようとしているならば、アンさんとの縁談話が広まって欲しくないだろうし、真実を確かめるためにカマかけをした感じかな。

「それでですね。わたくしがここに来られたのは、実は理由があるのです」
 アンさんはふふふっと人の悪い笑みを浮かべた。

 もとから上品なので、ぜんぜん悪い人っぽくなっていないのだけど。

「当てましょうか。アンさんは頑張って親善大使の役目をみごと果たした。だから今日一日オフを貰った……どうですか?」

「半分あたりです。ですけど、すべてではないのです」
「半分だけですか。うーん、なんだろ」

 本気で分からない。

「実はですね。明日のパレードですけど、わたくしはレオンくんの竜に乗ることに決まったのです」
「シャラザードにですか?」

 驚いた。
 シャラザードはパレードの訓練に参加しているとはいえ、ほんの数日だ。
 事前に綿密な準備をしている他の竜操者を差し置いて、来賓を乗せることはないと思ったのだけど。

「リトワーンさまが特別にって、仰ってくださったのです」
「領主様がですか」
「はい。これでパレードはレオンくんと一緒ですね」

 アンさんは喜んでいる。

 でもこれってどういうことだろう。
 シャラザードの出番は後ろの方だ。
 影響のない位置にいる。

 パレードの中央部分にリトワーン卿や王女殿下など、重要な人たちが並ぶ。
 わざわざアンさんを後方に下げてもいいのだろうか。

 僕との関係を知って配慮した?
 よく分からない。まあ、深い意味はないのかもしれないけど。

 楽しみですわねと喜んでいるアンさんにつられて、僕も微笑む。

「シャラザードの飾り付けは見物ですよ」
 背中にキラキラした宮殿のような建物が乗っている。

 そこのバルコニーみたいなところに僕が立つことになっていたのだが、アンさんも同じ場所でいいのだろうか。

「それは楽しみですわ。でもシャラザードさんは飛ばないのですね」
 パレードには地上と空があるが、観衆の目に触れるのは地上のみだ。

 空を飛ぶ飛竜だと、飛んでいる姿しか目に入らない。

「シャラザードが言うには、空は……遅すぎると。ですから、地上のほうがまだマシだって言っていました」
 のろのろを通り越して、止まっているようだとシャラザードが嫌がった。

「……まあ。でもありえますね」

 アンさんが目を開いて驚いたあと、笑い出した。

「あいつは我が侭な奴なので苦労します」
「なかなか大変そうですわね」

「このウルスの町に来る前は、定速ていそく飛行の訓練をしたのですけど、好きに飛びたがって参りました」

 一定の速さで飛ぶ訓練をしたが、他の飛竜と違い、シャラザードは速い。
 今まで自由気ままに飛んでいたため、それが窮屈に感じている。

「大丈夫ですの?」
「なんとか。それができないと、地図作製ができないんですよ」

 長期休みに入ったら、『しおの民』の行方を捜しに、海上に出て行かねばならない。
 そのとき、どこをどれだけ調査したのか、地図におこさないといけないのだ。

 定速飛行ができないと、地図にムラができる。
 まる一日同じ速さで飛ぶ。
 それがシャラザードに課せられた命題だったりする。

 奴のことだから、やればできるだろうが、やらない。
 というより、やりたくないのだと思う。

「まあ、できないと月魔獣狩りに行かせないと言えば、しぶしぶ従ってくれます」
 そう言ったら、アンさんはさらに笑った。

「それで先ほどの質問。レオンくんが当てた分ですけれども」
「はい?」

「わたくしは頑張ったので、今日一日オフなのです。というわけで、一緒におでかけしませんか?」
「……いいですね」

 というわけで、日が暮れるまで、僕とアンさんはウルスの町を散策して楽しんだ。

 明日は軍事式典である。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ