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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 室内には上半身裸の若い女性がいる。シルビアだ。
 部屋に入ったのは僕だけ。
 シーナの姿はない。

 そしてシルビアは、状況を理解したのか、顔を赤くして震えている。

 ――ガチャリ

 無情にも、僕の背後で扉が閉まった。

「な、なんで……」
「他意は無い!」

 後ずさりして、後ろ手に取っ手を掴んで回す……ことができなかった。
 反対側で押さえてやがる!

「で、出て行って!」
 シルビアは両手で胸を隠し、顔を真っ赤にして怒鳴る。

 その気持ちは分かる。分かる……が、ノブを押さえている馬鹿がいるわけで。

「早く出て行って!」
 シルビアが持っていた包帯を僕に投げるが、そんなものが当たってももちろん痛くない。
 逆に、シルビアがそんなことをしたので、『揺れた』。

 ――ぷるん、ぷるんと揺れた。

「見ないでーっ!」

 両胸を掻き抱いてしゃがみ込む。

「シーナさん、聞こえてますか? 冗談もほどほどにしてください」
「なんのことでございましょうか」

「いいから、ノブから手を離してください。出られないんですから」
「まあそれは失礼致しました」

 ノブから抵抗が消えた。手を離してくれたようだ。
 すぐに扉を開いて廊下に出た。

「……ふぅ」
 後ろ手に扉を閉めて、シーナさんを睨んだ。

「お疲れさまでございます」
 しれっとそんなことを言ってくる。
 この人、実姉だって言っていたよな。なんでこんなイタズラを?

「ふざけるにしても、今のはやりすぎだと思います」
「ふざけておりません。大まじめです」

「……ひょっとして、妹さんが嫌いだとか?」
 こんな嫌がらせを日常茶飯事にしているとか。

「かわいい妹と思うことはあっても、嫌いな感情は抱いたことはございません」
「だったらどうして?」

「この町にいる限り、妹は感情を殺して生きねばなりませんので、連れ出してくれる殿方をお待ちしていたのでございます」
「…………? 分かりやすく説明してくれませんか」

 シーナは手をポンっと叩いて
「そうそう、包帯の交換をするよう申しつかっていたのでした。このままでは服を着ることができませんね。ちょっと失礼致します」

 僕に一礼すると、扉をノックして部屋に入っていった。
「……一体何だったんだ?」



 もう大丈夫だと言うことで、僕は部屋に通された。
 着替えを済ませたシルビアと何食わぬ顔でお茶を入れているシーナ。

 シルビアの顔はまだ赤く、複雑な表情をしていた。

「……ども」
 お茶が僕の前に置かれた。
 こんな状態で、何を話せばいいのだ?

「口に合いますかどうか」
 シーナはニッコリと笑った。
 なんでこの人、こんなに落ち着いているんだろう。

「あの……」
 シルビアが意を決したように僕を見た。
「はい」

「先ほどは……い、命を助けていただいて、あ、ありがとうございます。キチンとお礼を言う暇がなかったもので」

「いえ。竜操者は助け合うのが基本です。お気になさらず……」

「………………」
「………………」

 互いに黙ったまま時間だけが過ぎる。

「まあ、まあ、まあ。まるでお見合いみたいですね」
「……!? お姉ちゃっ」

「私はお邪魔かしら。あとは若い者どうして」
 ほほほほと後ずさりして、部屋を出ようとする。

「シーナさん、待ってください。さっきのこと。説明してもらいますからね」
 ここは強く出てもいいはずだ。というか、なにかダシに使われた気がする。

「わたしも聞きたい。どうしてあんなことしたの!」

 僕とシルビアに睨まれて、お盆で顔の半分を隠したシーナは、ひとつ息を整えると、壁の一部を指した。

「飛竜隊の……紋章?」
 壁に小さめのタペストリーが掛かっている。
 ウルスの町の飛竜隊が付ける紋章らしい。

「シルビア様、いえ、シルビア。最近のあなたは、周りがまったく見えていません」
「お姉ちゃん、なにを言って?」

「ずっとそばで見てきた私には、最近のあなたは危なっかしく見えます。竜紋が現れたあとのあなたは人一倍がんばりました。竜の学院から戻ってきたあなたを見たときは、その成長に涙したものです」

「な、ならば」
「ですが竜操者としてウルスの町で任務に就いてからは、どうでしょう」

「わ、わたしはしっかりやっているわ」
 シーナは首を横に振った。

「期待の大きさに押しつぶされています。できることとできないことの区別もつかない。結果を出そうとするあまり、無茶なことを平気でやります」

「………………」

「領主様の期待、一族の中にいるという自負。周囲からの扱い、いえ、過剰な期待と言っていいでしょうか。それらがあなたをがんじがらめにして、立ち止まる余裕をなくさせています」

「……だって、だって、しょうがないじゃない」
「しょうがなくありません」

「ここはウルスの町だよ。一族の中から久しぶりに出た竜操者なんだもん。周囲が期待するのは当然じゃない。当たり前のことだよ」

「その期待すべてを受け止めるには、あなたはまだ年齢も経験も足りません」
「だって、期待は待ってくれない! 月魔獣だって」

「それで感情を殺すのですか? 優秀な竜操者、忠実な一族の者、訓練された兵を演じていても楽しくないでしょう?」

「楽しくは……ない。けど……仕方ないじゃない」
「あなたがすべてを背負うことはないのです。今回のことも、あなたが隊長に進言したと聞きました」

 危険な任務を日頃から率先して引き受けているらしい。
 今回も、より危険な方へ自分を追い込んだ結果があれだったという。

「……というわけで、あなたはしばらくウルスの町を離れた方がいいかと愚考した次第です」
 シーナはニッコリと笑った。

「親しくなった竜操者……レオン様のことですが、その人を追って付いていった。そんな筋書きでしょうか」

「はい!?」
 なんでここで僕の名前が?

「最終的にめとってもらっても構わないのですが、それはおいといて、ここを出る何らかの理由があればいいのです」

「シーナさん、それは無茶でしょう。だいいち、飛竜隊でしたっけ? 簡単に抜けられるものなんですか?」

「大丈夫です。飛竜隊のみなさんも、最近のシルビア様を見て、思うところがあるようですので。そして今回の事件」

「でも領主様がウンと言わなければ……」
「領主様はご存じです。というよりもけしかけろ(・・・・・)と言われましたので」

「……はい!?」

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