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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 シルビアに聞いたところ、二年前に竜の学院を卒業していた。
 学年でいうと、僕の二つ上になる。どうりで顔を見たことがなかったわけだ。

 シャラザードが先導してウルスの町に着いた。
 広場に降り立ったことで、竜務員がひとり駆け寄ってきた。

「怪我人がいる。だれか人を呼んで来てくれないか」
「は、はい。ただいま」

 竜務員がシルビアを見て駈け出していった。

「すぐに人がやってきます。とりあえず、下りますか?」
「そうだな。頼めるか?」
「ええ」

 土台を持ってきて、ゆっくりとシルビアを飛竜から下ろした。

 このシルビアの飛竜だが、背中に大きな傷を負っている。

 月魔獣と戦っているときに、シルビアの意思とは別に飛竜が急制動をかけた。
 何が起こったのかと思った瞬間、飛竜の背に月魔獣の牙が突き立てられたという。

「今から思えば、あれは私をかばったのだろうな」
 飛竜が避けなければ、月魔獣の牙はシルビアに直撃していたらしい。

「そうですか。ということは飛竜が先に気づいたのでしょうね」
 シャラザードも月魔獣の気配には敏感だ。

 野生動物の例を出すまでもなく、人間はその手の気配に鈍感なのかもしれない。

「私はまったく気配に気づかなかった。そして巨大な牙が私を掠めただけでこの有様だ。命を永らえたのは僥倖ぎょうこうだった」

「運が良かったのもありますが、飛竜ががんばってくれたおかげですね」

 医者がくるかと思ったら、竜操者の服を来た人たちが駆け寄ってきた。

「あれは、私の隊の者だ」
「ということは無事だったんですね」
「そうみたいだな」

 駆け寄って来たのは四人。
 みな若い。年長の者でも二十代の半ばくらいだ。

「シルビア操者、よく無事で」
「お怪我と伺いましたが、大丈夫ですか?」

「心配してくれてありがとう。危ないところを彼に助けてもらったのだ」
「それはようございました」

 同じ隊なのに、なんだか言葉遣いがおかしい。
 そんなことを思っていると、使用人服を来た男女もやってきた。

 あれよあれよと思っているうちに、シルビアは大勢の人たちに囲まれ、そのまま連れて行かれてしまった。
 医者に診てもらうのだろうけど、何なんだ今の人たちは。

 気がついたら、僕とシャラザードだけが残された。
 シルビアの騎竜は、竜務員が竜舎に連れていった。あれも治療が必要なはずだ。

「……さて、シャラザード。今日の狩りは終わりだね」
『うむ。仕方ない。まあ、同胞を助けられたのだ。それで良しとしよう』

 今から月魔獣狩りに出かけるには、時間が遅い。
 今日はこれで終わだ。

 シャラザードを竜舎に預け、僕はあてがわれた宿へ行く。
「そういえば、まだ荷物すらおろしてなかったな」

 大したものは持ってきていない。荷物は着替え程度だ。
 それらを持って、宿に入る。

 与えられた宿は、竜舎に近い場所にある。その配慮が嬉しかった。

 荷物を置いて、着替えを済ませるとやることがなくなった。
 アンさんと会いたいなと考えたが、今頃は親善大使としての役割を果たしている最中だろう。

 頼めば来てくれるかもしれないが、そんな真似はしたくない。
「身体を拭いて……町でも散策するかな」

 不意に扉がノックされた。
「どちらさまです?」
「領主の使いで参りました」

「リトワーン卿の?」
 慌てて扉を開けると、上品そうな老紳士が立っていた。

「レオン様でいらっしゃいますね」
「そうです……けど、どうしてリトワーン卿が僕を?」

「シルビアお嬢様をお助けいただいた件で直接謝意を表したいと」
 シルビアがお嬢様?

 たしかにウルスの町に帰還したとき、周囲の対応が少し変だったけど。
 だが、城主の名前はリトワーン・ユーングラス。

 シルビア・ハロリとどういう関係だろう。
「シルビアお嬢様は、主のはとこ(・・・)にあたります」

 疑問が顔に出ていたのだろう。説明してくれた。
 はとこ……つまり、シルビアとリトワーン卿の祖父母が兄弟か姉妹になるわけだ。

 なるほど。領主に連なる家系だったわけだ。
 それで僕に会いたがっていると。これは行くしかないな。

「分かりました」
「外に馬車が停まっておりますので、準備が必要でしたら私は外で待っています」

「いえ、大丈夫です。町を見て回ろうと思っていたところでしたから」
「そうでございますか。では参ります」

 老紳士と一緒に領主の館へ行った。
 まさかこんなに早く領主に会うことになるとは思わなかった。

 ウルスの町の領主は……
 女王陛下いわく、「謀反の噂がある男」。
 王女殿下からは、「キザ男」と呼ばれている。

 さて、どんな人物なのか。



「レオン殿。我が一族の娘を助けていただいたそうで、あなたに最大限の感謝を」
 両手を広げてオーバーアクションしているのが、城主のリトワーン。

 なるほど、たしかにキザ男だ。
 真っ白な軍服、肩から純白のマントを羽織っている。

 キザというより、勘違い男か?
 室内でマントはない。

「僕は偶然出会ったに過ぎません。それに月魔獣に狙われた同胞を助けるのは当然のことです」

「それでも、レオン殿がいなければあの娘は死んでいたでしょう。本当に良かった」
「なんでも、ひとりで月魔獣を引き受けたとか。危険な状態でしたので、間に合ってよかったです」

「一族の中から竜操者を輩出できたことは喜ばしいですが、それに見合った働きも求められます。周囲がどうしても甘やかしてしまうゆえに、本人もやりにくいのでしょう」

 話を聞いてみると、シルビアとリトワーンの祖母が姉妹の間柄らしい。母系の繋がりだ。

 この場合、ウルスの町を治めるリトワーンの家系とは離れているため、一族といっても、シルビアの血に価値があるわけではない。

 そのため、幼少時は領主の館にも来たことがなく、リトワーンも数いる親類の一人として、名前だけは知っていたに過ぎなかったという。

 ところが十四歳になった年、シルビアに竜紋が現れて、状況が一変した。

「あれには一族の重荷を背負わせたくないのですが、周囲が納得しないのです。それならばせめて目の届くところにいて欲しい。私はそう思っています」

 シルビアは領主軍に入っているものの、普段は街道を巡回するか、竜見台での見張りがメインだったらしい。飛竜は情報伝達の上で貴重なため、危険な任務をできるだけ与えないよう、配慮がなされていたらしい。

「では今回、魔国との国境巡回に赴いたのは……」
「人手不足ゆえの措置でした」

 悪い偶然が重なったらしい。戦闘経験も少ないのだろう。

「国境ですが、僕が見た限りでも、かなりの数の月魔獣がいました」
「やはり国境で戦うのは、隣国を刺激するので難しいのですよ」

 長い間放置していたことで、月魔獣が常にあの一帯に存在している状態になっているらしい。

「でしたら、式典までの間、僕が掃討しておきましょうか」
 シャラザードが喜び、恩も売れる。

「おお、よろしいのですか?」

「シャラザードが暴れたがっていますので、嬉々としてやるでしょう」
「ありがたいことです。でしたら、こちらでしっかりとバックアップします」

 リトワーンが手を出してきたので、握手した。
 この人、本当に謀反を考えているのかな? いい人そうだけど。

「それとシルビアですが、先ほど医者の診察が終わりました。よければ顔を出してあげてください。ちゃんとお別れが言えなかったと気にしていたものですから」

「町に着いたときのことですね。分かりました。このあと向かいます」
「よろしくお願いします。ちなみに彼女は独身です」
「……はい?」

 最後に意味不明なことを言われ、僕は領主の元を辞した。

「シルビア様の付き人をしております、シーナと申します」
「レオンです。付き人……ですか? 顔がそっくりですけど」

「はい。付き人で姉です」
「なるほど」

 シーナ・ハロリは、シルビアのひとつ歳上で、実の姉だそうな。
 シルビアに竜紋が現れたとき、リトワーン卿は、将来を考えてシーナを領主の館で雇い入れたらしい。

 決断が素早いな。
 ウルスという重要な町を治めるだけのことはある。やり手だ。

「シルビア様は自室におりますので」
「実の妹なのに、様付けなんですか?」

「職務中ですので」
 職務を離れたら、姉に戻るらしい。公私をきっちり区別する人のようだ。

 シーナさんに先導されて領主館の中を進む。
 ある扉の前で立ち止まり、ノックした。

「……だれ?」
「わたしです。入ってよろしいでしょうか」
「いいわよ」

「……では、レオン様、どうぞ」
 扉を開けて促されたので、中に入った。

「………………なっ!!」

 中でシルビアが両手に包帯を持って固まっていた。
 上半身は……なにも着ていなかった。


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