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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 同族が月魔獣に襲われている。
 シャラザードが目の前の月魔獣を放り出してまで駆けつける。

 こう見えても仲間思いなのだ。下のものに優しいだけなのかもしれないが。

「まだ見えないけど」
『もうすぐだ』

 シャラザードの飛翔速度は速い。
 風を斬る音が耳に障る。どれだけ速度を出しているのか。

「見えた!」
 飛行型の月魔獣に一体の小型の飛竜が追われている。追っているのも一体だけだ。

「変だな。なんで一体だけ?」

 陰月の路を甘く見た? いや、それはないと思う。
 ウルスの町の竜操者ならば、実戦経験も豊富なはずだ。

『ギャァアアオン(こっちへ来い)!』

 シャラザードの咆哮が届いたのか、飛竜が向きを変えてやってくる。
 もちろん月魔獣も方向を変えた。

「行けるか、シャラザード」
『無論だ』

 飛竜を追ってくる月魔獣をシャラザードはすれ違いざまに爪にかけた。
 一撃だ。相変わらず、戦いにもならない。

 飛び去ろうとする飛竜をみた。
 動きがおかしい。

「飛竜が怪我をしている。竜操者に意識がないのか?」
 すれ違うときの確認だと、竜操者は竜の背で突っ伏したままだった。

『地上に下ろす』
「やってくれ。このまま飛ばれると、国境を越えてしまう」
 シャラザードに飛竜を近くの平地へおろさせた。

 竜は素直に従ったが、竜操者が降りてくる気配がない。
 飛竜には絶対に動かないよう、シャラザードに命令させてから飛び乗った。

「気絶してたか……それと傷が深いな」

 出血がひどい。
 シャラザードの背には、万一のときにと、食糧や水、医療品がある。

 馬車一台分を乗せたところで毛ほどにも感じないので、必要そうなものはとりあえず乗せてあるのだ。

「竜操者は女性か……まだ若いな」
 年もアークとそう違わない気がする。
 学院を卒業したばかりだろうか。

 ひとつ上の先輩にはいなかったと思うが。
 卒業した先輩の顔を思い浮かべたが、該当する人はいなかった。

「とりあえず、処置をしなきゃ」

 包帯を巻こうとしたが、傷口が汚れている。
 服を脱がして、傷口に水をかけた。

「…………うっ!?」
 染みたのか、女性が目を覚ました。

「大丈夫?」
「は、はい……えっ!? な、なんで裸?」
「あっ、それは……」

 上半身は脱がした。たしかに僕が脱がした。
 けれど、その前に上着はズタボロになっていた。意味をなさないほど。

 はやく説明しなければと思ったら……

 ――パチーン!

 女性は片手で胸を隠し、残りの手で僕の頬を叩いた。

「……あっ」
 その直後、女性は気を失った。血が流れすぎているのだ。

 僕は痛む頬をさすりつつ、彼女に包帯を巻き続けるのだった。
 あれは救命行為なのに、理不尽だと思う。



 すぐに彼女を連れ帰ろうと思ったが、飛竜がいる。
 彼女をシャラザードに乗せて、飛竜は操ってもいいのだが、事情が分かるまでそのままでいることにした。

「さっきの様子なら、またすぐ目を覚ますかな」
 その予想は当たった。

 しっかりと止血したことで容態が安定したのか、少しして意識が戻った。

「……ここは?」
 毛布の上に寝かせておいたら、腹筋だけで上半身を起こしてきた。
 意外に鍛えられている。

「ここは魔国との国境付近……陰月の路から少し離れたところかな」
「陰月の路……? そうだ。月魔獣!」

「月魔獣はシャラザードが倒したから安心して。というか、一人で巡回?」

 伝令ならば飛竜一体で行動するが、ここは陰月の路。
 陰月の道を横断するならば、伝令でも複数行動が基本のはずだ。

 月魔獣の恐ろしさを知っていれば、ひとりで行動なんて無謀な事はしない。
 もし一体だけならば、何か事情があるはずなのだ。

「私はシルビア・バロリ。ウルス防衛飛竜隊の所属だ」

「僕はレオン・フェナード。竜の学院の二回生かな。……それとさっきはごめん。包帯を巻くのに服が邪魔だったから、服を……その」

「……こちらこそ早合点して申し訳ない。見れば分かる。治療してくれたのだな。礼を言う」
 誤解は解けたようだ。 

「顔色が悪いようなので、簡単にいうけど、僕はウルスの町の軍事式典に出るために来て、時間があったから月魔獣狩りをしていたんだ。見つけたのも、助けに入ったのも偶然。状況は一切分かってないのだけど」

「学院生が式典に?」

 不審そうに見られてしまった。
 まあ、そうだろう。ここで公務と言っても通じないと思うし。

「来賓の護衛も兼ねているかな。知り合いがそうなんで」
「なるほど」


「それはいいんだけど、もし良かったら話してくれるかな。小型竜が一体だけで陰月の路を飛ぶなんて無謀だと思うし」

「あれはたまたまで……複数の月魔獣に襲われたことで、隊がバラバラになってしまって……それよりキミもひとりというのは」

「僕の場合、単独行動が認められているから」
 中型竜以上は一体だけで月魔獣を狩れる。

 シルビアは首を巡らして、シャラザードを視界におさめた。

「黒竜……ということはキミが噂の……なるほど、パレードに呼び寄せたのか」
 シャラザードをみて、色々察したようだ。

「月魔獣で隊がバラバラってことは、仲間はまだ?」

「いや、もう脱出していると思う。飛行型の月魔獣だけは、隊で対処できなかったので、私が引き受けたのだから」

「なんでそんな無茶を」

「仕方なかったのだ。私が所属している飛竜防衛隊は、珍しく国境付近の巡回をしていた」

 普段は、魔国との国境付近はあまり巡回しないらしい。
 月魔獣を追いかけて国境を越えてはいけないし、多くの竜が国境付近に現れれば、警戒される。

 両国ともその気がないくても、武力衝突することだってありえる。
 つまり、月魔獣狩りのためでも、国境にあまり顔を出さない方がよいらしい。

 ところが、久々の軍事式典がもうすぐ行われる。
 毎年小さな式典は行っていたが、今年はかなり大規模なものが企画されているらしい。

 そういうわけで、魔国からも高官がやってくることもあって、街道付近だけでなく、陰月の路全域での、月魔獣殲滅作戦が敢行されたらしい。

「そのわりには、国境付近は月魔獣が多かったような……」
 シャラザードが嬉々として月魔獣を狩っていたが。

「最近、月の交わりが増えたせいで、月魔獣の降下が頻繁に起こっていた。加えて、隊の多くは式典の準備や有力者の移動警護で出てしまっていたため完全ではなかったのだ」

 手が足らなくなっていたらしい。
 最大戦力を持っているとは言っても、実情はこんなものなのだろう。

 そしてシルビアたちの隊は、複数の月魔獣を発見して討伐に向かったが、戦っている間に数が増え、撤退することになった。
 竜操者の消耗をさける正しい措置だ。

 二手に分かれて逃げている最中に飛行型の月魔獣に襲われ、交戦すれば先ほどの月魔獣に追いつかれる。

 やむなくシルビアが囮となったらしい。

 言っては悪いが、意外とだらしないな、飛竜防衛隊。
 小型竜一体だけで月魔獣を狩るのは難しいことを考えればしょうがないのかもしれないが。

 シルビアの怪我は、このとき負ったらしい。
 囮となって逃げるにしても、町のある方面へは逃げられない。
 国境付近で敵をまく予定が、出血のために途中で意識を失ったようだ。

「そこを僕が発見したわけか」
「正直助かった。あのままだったら」

「追いつかれて地上に落とされたか、国境を越えて魔国領に入ったかもしれないですね」
「…………」

「なんにせよ、事情は分かりました。隊の人も気になるでしょうし。町へ戻りましょう」
「そうだな」

「飛行は大丈夫ですか?」
「血は止まったし、左腕が多少ぎこちないが、なんとかなると思う」

「じゃ、行きましょう」

 こうして僕とシルビアは、ウルスの町を目指して出発した。

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