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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 ウルスの町に到着早々、アンさんは出迎えの人たちに囲まれて、行ってしまった。
 あの人たち、ずっと待ち構えていたのだろうか。

 だとしたら、ご苦労なことだ。
 残された僕らは竜の世話をしてゆっくり休む手はずになっている。

 いわゆる自由時間だ。
 二日間飛び続けていたので、みな疲れていることから、到着後はある程度自由裁量が与えられている。

『月魔獣狩りに行くぞ』
 シャラザードに限っていえば、それは当てはまらない。

 もちろん僕も疲れていないので、付き合うことにする。
「いいけど、できればこの辺の地理も覚えたいから、少し遠回りするよ」

『うむ。構わんぞ。では行くとしようか』

 到着してすぐに飛び立つのだ。
 竜舎の人たちが何事かとやってくる。

「月魔獣を狩ってきます」

 そう言うと、竜務員たちは呆れた顔をして去っていった。
 ウルスの町の竜操者は数が多く、日頃から月魔獣を狩りに出ている。

 今回は軍事パレードがもうすぐあるので、巡回も大掛かりに行われているらしい。
 近くにはいないかもしれないと言われた。

 なるほど、道理だと思う。
 少し遠出をしなければならなさそうだ。

「シャラザード、ついでに魔国との国境付近に行こうか。見てみたいものもあるし」
『ふむ。構わんが、何かあるのか』

竜見台りゅうみだいというのがあるんだ。魔国から軍がやってきたときすぐ分かるように作られた見張り台だ」
『構わんぞ』

「じゃ、行こうか」

 地上にいたのは、ほんのわずかな時間だった。
 僕とシャラザードは、また空に舞い上がった。

 ウルスの町の領主リトワーンは、竜という強大な軍事力に満足しなかった。
 自分の町を守るために、自ら開発した竜見台を設置して、境界防衛を強化したのだ。

 竜見台は竜操者の間では有名で、ぜひ一度、この目で見ておきたかった。

 魔国領へ向けて進むと、まっすぐだった街道がくねりだした。
 岩場や山が邪魔をして通行できる場所が限られているようだ。

「空からだとすぐに分かるけど、地上を馬車で走ったら、周囲が見えない分、怖いだろうな」

 月魔獣が出てくるとは思えないが、街道のすぐそばまで背の高い木が迫っている。
 曲がりくねった道の先に何があるか、こんな見通しの立たない場所では不安が募りそうだ。

『ふむ、竜見台というのはあれではないか』
「まだ見えないな」
『では近づいてみよう』

 シャラザードは相変わらず目がいい。
 岩場を抜け、山の上を飛んでいくと、たしかに塔のようなものが見えた。

「これが竜見台か。思っていたのと少し違うな」

 飛竜が何百往復もして石版を積んで作ったと言われる竜見台。
 四角く長細いものかと思ったが、少し違った。

 塔のように丸く、そして上にいくほど反っている。
 つまり、下から上れないようになっているのだ。

「下のあれは、自然にできたものじゃないよな」

 竜見台の周囲は深く掘られ、水が張ってある。
 下から上ろうと思っても、まず水面を渡るのに苦労しそうだ。

『あの大きさでは我は下りられんな』
「見張っている人もいるしね」

 一般的な物見櫓ものみやぐらとは違っていても、用途は同じである。
 竜見台の頂上部に小型飛竜と竜操者がいて、魔国側を監視していた。

『見える範囲にあとふたつあるぞ』
「どれ……本当だ」

 用心深いことに、全部で三つの竜見台が互いに見える場所に立っていた。
 なんらかの事情でひとつが襲われた場合を想定してだろう。

 三つ同時に襲う手段がなければ、どこかの見張りがウルスの町に情報を届けてしまうのだ。
 魔国側としては、限りなく手を出しにくい環境ではなかろうか。

「そりゃ魔国からの侵入が難しいわけだ」

 昨年、陰月の路を通って暗殺者がやってきた。
 街道付近にこのような防御態勢が敷かれているのならば、コッソリと侵入できる手段はそう多くないのだと思う。

『主よ。もうよいか?』
「月魔獣狩りに行きたいの?」

『無論だ』
「じゃあ、魔国領に入らないようにしながら、北を目指そうか」
『あい分かった、主よ』

 シャラザードは北にまっすぐ向かった。

 シャラザードにとって月魔獣とは、故郷を滅ぼした憎き敵。
 どれだけ倒そうとも、もはや故郷は帰ってこない。

 それが分かっていてすら、憎悪が抑えられないのだから、シャラザードが受けた心の傷は深い。

 僕はそんなシャラザードの復讐心を押さえ込み、やり過ぎないよう目を光らせる必要がある。
 シャラザードにとって月魔獣とはただの獲物。
 狩られる心配の無い狩りと同義なのだ。

「……大型種か」

 だが女王陛下は言った。
 大型の月魔獣が降下したと。

 目撃されたのはただ一体のみだが、小型竜では太刀打ちできず、複数の中型竜で囲って倒したらしい。

 ――複数の中型竜でも互角

 いま中型竜は傷を癒やすため、戦線を離脱しているのだという。
 たしかに大型種は脅威だが、シャラザードならば一対一で倒せるだろう。

 シャラザードの故郷でもそうだと聞いた。
 シャラザードは大型種や超大型種と戦っている。

 小型竜や中型竜の場合はどうだろうか。

「なあ、シャラザード」
『何用だ、主よ。我はいま月魔獣狩りに忙しいのだが』

 僕が考え事をしている間にも、月魔獣の死骸が積み上がっていく。
 魔国領との国境付近は、それほど巡回に力を入れていないらしい。

 もしくは最近よく聞く、「大量降下」のせいなのか。

「おまえの故郷じゃ、竜が何千、何万っていたんだろ?」
『うむ。我は数千を従えておったからな』

「それでも月魔獣には対抗できなかったと」
『……悔しいが、その通りだ。真っ先に中央部分が落とされたのが痛かった』

 東西南北を守護する竜がいて、中央付近には竜の繁殖場があったらしい。
 幼竜や、若竜、それに老齢になった竜などがいたが、降下してきた支配種によって、その地が奪われた。

 繁殖場を失った竜は、滅びるしかなかったのかもしれない。
 だがその現実を受け入れず、シャラザードは戦った。

 それはいい。問題は、この大陸だ。
 近々起こる大転移を前にして、大型種の降下はどの程度の被害をもたらすのか。

 どうすれば対抗できるのか。
 対策を立てれば、防げるものなのだろうか。

 それはまったく分からない。

『主よ、あっちへ行くぞ』
「えっ? まだ月魔獣が残っているけど」
 珍しい。飽きたのだろうか。

『どうやら竜が一体、飛行型の月魔獣に追われているらしい』
「へっ?」

 聞き返す間もなく、シャラザードは方向転換してしまった。
 僕にはまだそれが見えない。

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