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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 今日は、ウルスの町へ出発する日。

 王城の一角に集まったメンバーは六人。
 一人足りないのは、デスレが不参加となってしまったからである。

 隊長のドージン・ハイアスは苦虫をかみつぶした顔で僕を見た。
 決闘騒ぎがいまだ尾を引いているのだろう。

「おはようございます」
「う、うむ」

 ドージン隊長は僕の肩を叩いた。

「なんでしょう?」
「レオン操者。くれぐれも、向こうで問題を起こさないようにな」

「はい? もちろんです」
「隊の仲間だけでなく、誰とでもだぞ」

「分かっています」
 ずいぶんとくどい念押しだな。

「先日の決闘だが、レオン操者は実力差があることを鼻にかけ、決闘で相手をなぶったという話が出ている」
「はい?」
 どうしてそんな。

「結果からそう判断したとしても、不思議ではない。だがそれを認めれば、デスレ操者の実力は一般の民よりもよっぽど弱いことになってしまう」

 僕がパン屋の息子というのは、シャラザードを得た後で広まっている。
 市井出身の典型的な十代の若者だと思われている。

 そんな相手に決闘ではても足も出なかった場合。
 デスレ操者の実力は……そこらの子供と同等と思われるのか。

「デスレ操者は強かったですよ」
 努力して強くなったタイプだと思う。

「もちろん私はそれを知っている。彼は若くして優秀。素質もあり、幼少の頃から訓練を積んでいる。竜操者になった今ですら、訓練に手を抜くことをしない。だが結果からみれば、デスレ操者は子供にも劣る力しか有していないことになる」

 やはりそうなのか。
 ドージン隊長としては、非常に受け入れがたい話らしい。

「今回の件はいい。発端はデスレ操者の一方的な物言いであったのでな。あれが評価を落とそうと、自業自得だと私は思っている」

「なるほど」
 勝手に突っかかってきて、挙げ句の果ての決闘騒ぎだ。
 それで負けたのだから、面目がつぶれてもしょうがないと僕も思う。

「だが、それは今回だけにして欲しい。簡単に言えば、他の者の評判を落とすような振る舞いはしないでほしい。私はキミが強いのは理解した。恥ずかしい話だが、私とデスレ操者が剣で戦えば、五回に二回勝てるかどうかだ。それほど彼は強い」

 竜操者に求められる資質の中に、剣の腕は入っていない。
 月魔獣と戦うときに自身の強さは関係ない。

 それでも鍛錬を続けるのだから、やはり努力型の人間なのだろう。

「分かりました。できるだけ、他の人の評判を落とさないようにします」
「できるだけでなく、必ず守って欲しい」

「はい。必ずですね」
 ドージン操者は、さらに念を押して隊に戻った。

 ちなみに、ドージン隊長率いる飛竜隊のメンバーは、みんな僕を遠巻きにする。
 怖いらしい。それだけデスレの強さが突出していたのだろうか。

 それからたっぷりと二時間かけて、本日の飛行ルートの確認と、装備の点検、再点検を済ませた。
 準備は万端である。

 この段階になって、ようやくアンさんとその護衛たちがやってきた。
 僕ら竜操者は、王都と町の往復と、現地で移動の安全を担う。

 アンさんと一緒にやってきた護衛たちは、竜から下りたあとの任務となる。
 重要人物の専属護衛だ。
 きっとあの中にひとり、〈影〉がいると思う。

「レオンくん、お久しぶりです」
 アンさんが僕を見つけて駆け寄ってきた。

「おはようございます、アンさん。今日は一段と素晴らしい格好ですね。似合っていますよ」

「もう、気軽な格好で出歩けなくなりました」

 アンさんは準正装といった服装で現れた。
 竜に乗って移動するにも、きっちりとした格好を求められるようだ。

「大変ですね」
「重いものをつけなくて良いので、それだけは助かっていますわ」
 小声でそう教えてくれた。

 重いものとは、お兄さんの結婚式のときにじゃらじゃらとつけていた飾りだろう。

「レオンくん、今日はよろしくお願いしますね」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 将来僕がアンさんと結婚するのは、ここにいるメンバーならば誰でも知っている。
 そういうわけで、皆さんは僕らの様子を暖かく見守ってくれている。

「……ケッ!」
 わけではなかった。
 護衛のだれかが嫉妬の炎を燃やしているっぽい。

 デスレはそれで決闘を申し込んできたわけで、護衛のみなさんも自重してもらいたい。
 というか、アンさんの人気の高さが改めて浮き彫りになった。

「いや……僕の人気の無さだろうか」
「どうしました? レオンくん」

「なんでも……アンさんはどこでも人気者なんだと理解しただけです」
「いやですわ。急にそんな……」

 照れた顔もかわいいのだが、周囲の温度が若干下がった気がした。
 睨まれているよね?

「さあ、準備はいいか? 出発まで時間がないぞ」
 ドージン隊長の言葉に、僕らは動き出す。

 アンさんはシャラザードに乗るのが決まっている。
 他の護衛たちは、乗り込むことになった竜操者と顔合わせがはじまった。

 途中の町で一泊してウルスの町に向かう。
 どこかではぐれた場合、天候の関係で進路を変える場合、月魔獣を発見した場合など、どう動くかは事前に取り決めができている。
 出発前にその確認を全員でする。

「よし、すべて問題なし。出発するぞ。各自、竜に乗り込め!」
「「「はいっ!」」」

 いよいよである。
「レオンくん、よろしくお願いしますね。シャラザードさんも今日と明日、お願いします」

『うむ、心得たぞぉおおおお』
 シャラザードが気を良くして咆哮を放つ。

 案の定、他の竜がおびえ、竜操者たちが自分の竜をなだめにかかる。
 またやりやがった。

「しっ、出発!」
 ドージン隊長のかけ声とともに、六騎の飛竜が大空に舞い上がった。

 アンさんの護衛は全部で四人。
 男性と女性が二名ずつで、現地に着いたら、さらに身の回りを世話する者が数名付くらしい。

 至れり尽くせりだ。
 その代わり、一人だけの時間は持てないという。

「ですから、つかの間の自由ですわ」

 シャラザードの背にいる間だけ、アンさんは僕とふたりだけ。
 その時間を楽しみにしていたという。

『遅いな。まったく遅すぎる』
 愚痴をこぼすシャラザードを無視して、僕はアンさんとの会話を楽しんだ。

 道中何事も無く進み、翌日の午後には、ウルスの町に到着した。
 ここからが本番である。

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