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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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「巨大な月魔獣ですか?」
 通常よりも遥かに大きな月魔獣。
 シャラザードが大型種と言っていたやつだ。

「そうなの。小型竜では対処できなかったので、中型竜を三体派遣して対処に当たったのだけど……」
「まさか、失敗したのでしょうか?」

「討伐は成功したわ。けど、三体ともしばらくは使い物にならなくなったのね」
「………………」

 大型種一体で、中型竜三体とほぼ互角か。

「出現したのはその一体だけでしょうか」
「そうよ。他の場所に降下例はなし」

 それは良かった。
 大量に降下したら、大パニックだ。
 だが、気になることはある。

「これはもしや、大転移と関係があるのでしょうか」
「そうね……あると思うわ」

 史料によれば、大転移が起こった場合、大型種の降下があったと記述されている。
 逆に言えば、通常の月魔獣だけならば、中型竜や大型竜、特殊竜がいれば撃退可能だろう。

「僕が以前お渡しした報告書――シャラザードから聞き取りした内容ですが」
「全部読んでいるわ」

「ありがとうございます。シャラザードが言うには、大型種ではなく支配種というものがいると」

 すでに数十度、僕はシャラザードから当時の様子を聞いている。
 それはすべてノートに記し、ある程度まとまったら女王陛下に献上している。

「大転移に関する史料には載っていないのよね、その支配種は」
 竜国に残された史料にも、大型種や超大型種の記述はある。

 だが、支配種と思われる月魔獣については、一切記載がない。

「もし今回の大転移で支配種の降下が認められた場合、大陸が滅ぶかもしれません」
「なんとかならないかしら」

「総力を結集すれば、一体だけでしたらなんとか」
 シャラザードから聞いた話が正しいとすればだ。
「……難しいわね」

「それに支配種の怖いところは、その地を変えてしまうところにあります」

 月魔獣の支配種は、文字通りその地を『支配』してしまう。
 鋼殻から月魔獣に変わって活動を始めた場合、体内の月晶石が力を失うまでしか活動できない。

 それが月魔獣の弱点であり、長くて半月の命であることが分かっている。

 だが支配種がいれば、月魔獣の力がいつまでも衰えることはない。

 月魔獣がその地を出ない限り、いつまでも活動を続けていられる。
 シャラザードたちの世界では、そのせいで滅んだと言っても過言ではない。

 倒さない限り、無限に動き続ける月魔獣。
 その大型種や超大型種を相手にしつつ、支配種を倒さねばならないのだ。

 そんな事態に追い込まれたら、竜国といえども滅ぶ。
 それは同時に、他の三つの国も同じ運命を辿ることにつながる。

「しかし、大型の降下が早いわね。大転移までこれが続くのかしら」

 今回は一般の民に知られることなく処理できたという。
 だが陰月の路付近と言えども、稀に人が通る。

 いつ民の目に触れるか分からない。
 そこから話が広がり、大転移の話が漏れれば……。

「たとえばですが、大転移の噂が広がったとします。そのことで竜国が一致団結するでしょうか」

「難しいわね。大転移はたしかに恐ろしいわ。でも、目に見える脅威ではないもの。足の引っ張り合いが始まるわよ」
「………………」

 噂の段階で私情を捨てて、全体のために尽くそうとは思わない。
 女王陛下はそう言いたいらしい。

 大転移の混乱に乗じて成り上がりたい。富を得たい。隣国の力を削ぎたい。
 そう考える者がいると女王陛下は言い切った。

「その時は、その時ね。対応策はあるわ。あまり使いたくない手だけれども」
 女王陛下の笑顔は怖かった。

「……では、お話は終わりのようですので、失礼させていただきます」
「あら、もう帰るの?」

「二つだけということでしたので」
「そう言えば、そうだったわね」

「では、御前、失礼致します」
 僕は闇に溶けた。



 女王陛下との謁見は散々だった。
 いつものことだけど。

 翌朝僕は、王城に向かう前に病院へ足を運び、デスレを見舞うことにした。
 広い病室のベッドに寝かされたデスレは、全身包帯だらけ。
 ひどい有様である。

 さすがにこれは過剰ではないかと、医者に尋ねた。
 全身打撲に加えて、筋や筋肉を痛めているので、しばらく動かせないのだという。

「治療をはじめて三十年になりますが、こんな酷い状態の患者は診たことないですな」

 入念かつ執拗に痛めつけられたようだと。
「大勢から暴行を受けたのか、暴徒の群れに立ち向かったのか……命があって良かったです」
 医者がしみじみと言う。

 そういうつもりじゃなかったのだけど。

「……ううっ」
「時折、こうしてうなされるんです。よほど怖い思いをしたのでしょう」

「そうですか」
「たまに目を覚ますのですが、まだ話せるまでに回復していません。いま身体は必死に治している最中なのでしょう」

 脂汗をかいて苦悶の表情を浮かべているデスレを見ると、さすがに「やり過ぎたのかも」と思えてくる。
 義兄さんの言ったことが正しかったのだろうか。

「……うっ、うううっ」
 何かを避けるように首が動く。だが、デスレはがっちりと身体を固定されたままで、どうすることもできない。

「あと数日したら落ち着くと思います。それまではこのままでしょうか」
 医者は、ハンカチでデスレの額に浮かぶ汗を拭いた。

「僕はそろそろ行かねばなりませんので、よろしくお願いします」
「分かりました」

 ようやく分かった。
 やり過ぎたようだ。本当に。
 いたたまれない気持ちになって、僕は病院をあとにした。



 近い将来、レオンとともに月魔獣と戦うことになるデスレ・ロディス。

 後世、シャラザードに付き従う『つるぎの七竜』のひとりとして数えられるようになるのだが、レオンとの出会いは最悪だった。

 のちの英雄のひとりは、今はベッドの上で自分の汗すら拭けない有様である。

 大転移は、近い。


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