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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 僕の前に現れたのは、『悪食』と『千本針』。
 女王陛下の〈右手〉だ。本人の弁が正しければだが。

 それで思い出した。敵にやられたのは『首断ち』だ。
 敵にやられたのは『首断ち』……よし、覚えた。

「えっと、指令に失敗して担当を外された人たちだよね。なんの用かな?」
 フレンドリーに話しかけたつもりだが、余計に視線が厳しくなった。

 これはあれかな。
 一戦して、力関係をはっきりさせようってことかな。
 だったら、適当に相手を……。

「……っと、危ないな」
 いきなり針が飛んできた。

「よく避けたな。素直に喰らっておけば、何も知らずにあの世へ行けたものを」
 しわがれた声が聞こえてきた。結構なお歳のようだ。

「いきなりなご挨拶だけど、どういうことかな? そっちは任務に失敗。こっちは成功。実力差ははっきりしていると思うけど」

「ふぉっふぉっふぉ……バカを言うでない。わしらが来たら敵は逃げた。逆にお主には向かっていった。その違いが分からぬか。愚かよの」

 何だろ。こう、むやみに偉そうなのは、自分の腕に自信があるのか?

 でも、不意打ちの針すら躱せるんだけど。
 どうやって倒す算段をつけるんだか。

「冗談はさておいて、今すぐ謝るんだったら、両膝を壊すだけで許すよ。優しいでしょ。逃げたり敵対したら……」

 殺す。

 僕の本気が伝わったのか、悪食が半歩下がった。
 かわりに千本針が間合いを詰めてくる。

 これはもう敵対行動だね。というわけで、排除決定。

 敵意を何度も向けられてヘラヘラしているほど、甘い世界で生きてきたわけじゃない。
 同じ〈右手〉だ。一度は警告した。もう義務は果たしたと思っている。

 その上で殺しに来た相手を許すことは絶対にしない。

「ふん!」

 千本針の黒衣は、どうも変だなと思ったら、内側に針を大量に隠し持っていたらしい。
 バサリと黒衣をひるがえして、何十、何百もの針を僕に放った。

 もちろん、そんなものを受けるほどお人好しではない。
 とっくに闇に溶けて、千本針の後ろに回り込んでいる。

「やあ。そして、さようなら」

 千本針の口を塞ぎ、小刀で首を掻っ切った。

 噴水のように吹き出る血を浴びた悪食は驚愕に目を見開き、直後、口を大きく開いた。

 この悪食、金属の鋭い牙を並べた入れ歯を装着しているのだ。
 ふたつ名からして、あれで噛みつくんだろうなと容易に想像できる。

「てめえ、よくも千本針を殺ったな!」

 口が悪いが、声からして女だ。
 しかもそれなりに若い。

「見てたよね、いま」
 その上で聞いてくるなんて、ちょっとお気楽すぎるんじゃなかろうか。

「喰い散らかしてやる!」

 ああ、やっぱりそう来るよねと僕が嘆息している間に、悪食は間合いを詰めてきた。

 武器は口に装着した入れ歯だろう。先が尖っているから入れ牙か。
 見るからに接近戦しかあり得ない。

 すぐに噛んでくるのかと思ったら、そうではなかった。
 手足を器用に使い、格闘戦を挑んできた。
 これには僕も少し驚いた。

 右手と左手、時には両足を使い、僕を追い詰めるべく動いてくる。
 それなりに洗練された動きだ。

 と思っていたら、悪食がニヤリと笑った。
 顔の下半分は金属の口で覆われているので、見えるのは上半分だが。

「取ったぜ」
 僕の右袖を掴んでいる。

「……おおっ、危なかった」

 一瞬の早業で、僕の右腕を噛み千切ろうとしやがった。
 しかもやたらと速い。
 あれほど速く首から上が動くものなのか。

「よっぽど鍛えたんだな、その首」

 間一髪だった。黒衣を破って手を引かなければ、手首から先は亡くなっていたと思う。

「次は外さねえぜ」
 口をガチャガチャさせて、悪食は笑った。

 両手両足の数は同じだ。
 ということは、口というもうひとつの攻撃方法がある悪食の方が、接近戦で打つ手が多い。

 なるほど考えたものだ。
 ちょっとだけ感心した。

 だけど、接近戦を挑まなければ、どうなんだろうか。
 互いに女王陛下の〈右手〉だ。

 僕らはどんなシチュエーションでも生還し、情報を持って帰る必要がある。
 どんな相手でも、殺せと言われれば、殺しに行かねばならない。

 つまり、戦闘のやり方に向き不向きがあってはならないのだ。

 僕は投擲用のナイフを取り出した。
 細身のそれは、真っ黒に塗られている。
 光を一切反射しないよう、作った一品だ。

 親指を除く、四本の指の間に挟んだそれは、悪食に見えたかどうか。
 さっと手首をひと振りし、三本のナイフを放つ。

 はじめから見えていなかったのだろう。
 脇腹と太もも、そして足の甲、それぞれにナイフは刺さった。

「……ツゥ!!」

 痛みに顔をしかめる悪食の喉元に、僕は剣を突きつけた。

「まさか本当に勝てると思ったわけじゃないよね」

 僕はひとり、彼女らは三人で敵に向かった。
 考えれば分かることだ。

 ふたつ名を得ることは、諸刃のつるぎ。
 悪食はその外見的な特徴から名が付いたのだろう。
 実力がそれに追いついていない。

「運がなかったと諦めてね」

 僕は悪食の喉を剣で突き刺した。……つもりだったが、邪魔をする人がいる。

「何をしているんです、お姉さん?」

 僕は背後に立つ黒衣の人物……僕の連絡役をしている〈右足〉のお姉さんに向かって語りかけた。

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