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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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「おまえは一体なにをやったんだ?」

 寮に戻って購買の前を通ったら、義兄さんに呼ばれた。
 前にもこんなことがあったような。

「えっ? 言われた通り、決闘では手を抜いて、怪我をさせなかったけど?」
 なんでそんなに怒っているのだろうか。

「シルルがさっき伝えに来た……おまえ、本当に心当たりはないのか?」
「……うん」

 義兄さんが頭を押さえた。
 花屋のお姉さんが何を吹き込んだ?

 僕は言われた通りやったはず。

「決闘相手の心を折ったそうじゃないか。観客は全員声も出なかったと聞いたが」
 骨は折らなかったけど、心を折ったって? 義兄さんも上手いことを言う。

「観客の声が出なかったのは、決闘のルールだからだよ」

「そういう話じゃない……いや、それはいい。問題は、おまえの実力が知れ渡ったことだ」
 今回の決闘相手デスレ・ロディスの親兄弟は、城で武官をしている。

 一族そろって女王陛下の信頼が厚く、次男であるデスレはまだ若いものの、中型竜を得たこともあってアンさんの護衛に抜擢された。

 家柄や忠誠心だけでない。
 本人の努力、体格に恵まれたこともあり、竜とは関係なく強者として名が知れていたらしい。

 つまり、名実ともに実力者ということだ。

「アンさんを乗せていたみたいだし、優秀な人なんだよね。不思議じゃないんじゃない?」
「それをおまえは赤子の手をひねるように下したわけだ。何か言うことは?」

「ええっ!? すぐに終わらせないように苦心したんだけど、なんでそういう表現になっているの?」

 一撃で終わったら、あの外見もあって、見かけ倒しだと思われるだろうから、できるだけ決闘を引き延ばしたんだけど。

 僕が首を傾けると、義兄さんは深い、それはもう深いため息を吐いた。

「オレは現場を見ていないからこれ以上は言わんが、常識を教える者がもう少し周囲にいたらと思うよ」
 義兄さんは僕の肩を叩いて、「頼むからもう決闘だけはしないでくれ」と言った。

 もとより僕が希望したわけではないし、するつもりもない。

「もちろんだよ」
 僕の笑顔に、義兄さんは一気に老け込んだように見えた。
 なぜだ?



 この話はこれで終わったかと思ったら、夜になってお姉さんがきた。
 女王陛下が呼んでいるので、明日来てくれとのこと。

「なんで?」
「さあ、私は〈左手〉から言われただけですし。でも、予想は付きます」

「なに?」
「昼の決闘のことではないでしょうか。やり過ぎましたし」

「あー、また笑われるのか」
「笑われる……ですか?」

「女王陛下って、ああいう楽しみを直接見られないせいか、僕をからかって楽しむんだよね」

「私の認識といささか齟齬そごがあるように思いますが……クリスタンどのが様子を見るように言ったわけですね、はぁ」

 なんでも、今日の決闘。
 義兄さんが「あいつがやらかさないように様子を見てくれ」と依頼したらしい。

 日中は花屋の仕事があるものの、義兄さんの様子から何かを察して、わざわざ決闘を見に行ったのだという。

「だから僕が寮に戻ってくるよりも早く、義兄さんが知っていたわけね」
 義兄さんが依頼していたのか。

「とにかく、明後日にはウルスの町へ出発ですよね」
「うん」

「ですので、明日の夜に必ず来るようにと」
「分かった。必ず伺うよ」

「お願い致します。それと、決闘はくれぐれも受けないように。あれはさすがに……やりすぎです」
 そう言って、お姉さんは去っていった。

 だから手加減していたというのに……本当に酷い言われようだ。



 翌日の夜、女王陛下に謁見すると……。
「さすがにやり過ぎよ、レオン」

 女王陛下に怒られた。
 普段からやり過ぎる女王陛下にだ。
 ……なぜ?

 義兄さん、お姉さんに続いて女王陛下からも言われてしまうと、本当に僕が悪いことをしたように思えるから不思議だ。

 あの決闘は、手を抜いてすぐに終わらせることはせず、さりとて怪我をさせないよう注意して見事成功させたのだ。それなのになぜか反論しづらい雰囲気になっている。

「………………」
 僕が黙っていると、女王陛下は大きく息を吐いた。

 なぜだろう。
 決闘が終わってから、僕の前でため息を吐くのが流行っている。

「デスレは今回置いていきます。出発前に見舞っておくように」
「はい」

「それと今回、レオンに伝える話は二つ」
「二つですか?」

「そうよ。いつもあなたは妾が話をするたびに面倒ごとの顔をするでしょう?」
 バレていた。
「バレていた」

「それは思っても口に出さないのよ」
「……はい」

「一つ目ね。ウルスの領主リトワーンだけど」
「はい」

謀反むほんの疑いがあるのよ」
「はい?」

「気をつけてね」
「どうやって!」
 思わず突っ込んでしまった。

 謀反って、反乱とかか?
 女王陛下を廃して自分が王になろうとしているのだろうか。

 ルクストラ王家は今でこそ何代も続いているが、もとを辿れば地方領主だったはずだ。
 竜による武力を背景にしたのか、女王陛下の祖先の一人が新しい王朝を打ち立てた。

 王朝の交代がいまの世に起こらない保証はない。
 それを実現させるには、強力な武力が必要だ。

 たとえば、ウルスの町のような……。

「それは確かな情報なのでしょうか」
「複数筋からあがっているけど、確かかどうかと聞かれれば、『否』かしらね」

「そうなのですか?」
「確実な証拠があれば……ねえ」

 あったら殺すつもりだ。
 ということは、本当に明確な証拠はないのだろう。

「そういえば……」
「なにかしら」

「以前、王女殿下に忠告した者がおりました。『気をつけろ』と」

 本人は医者と言っていた。
 ただの医者にしては、王女殿下と親しく話すなと思っていたら、その人の奥さんが王配の妹だったのだ。

 その縁で、王女殿下と話をする機会もあるのだとか。

「リトワーンは、竜国運営会にも代理を出すだけで、ちっとも出てこないのよね。顔を合わせなくなって久しいわ。おかしいと考える人は多いでしょう」

 竜国運営会とは、竜国中の代表者が集まって、さまざまな案件を話し合う場だ。
 女王陛下を入れて六十一名の構成員がいる。

 僕の出身地、ソールの町からも領主が貴族員として出席していると思う。
 あれを欠席しているのか。

「分かりました。気をつけておきます」

 今の時点では、そう言うしかない。
 過度に警戒してもいいことはない。

「アンネロッタの身になにかあると大変だから、注意してね」
「はい、必ず」

「では二つ目」
「はい」

「陰月の路に巨大な月魔獣が降下したの」
「はいいっ!?」

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