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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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「おまえ……城に何しに行ったんだ?」
 寮に戻って、義兄さんに決闘のことを話したら、頭を抱えていた。

「成り行きだし、僕は悪くないと思うんだけど」
「それでも最近、目立ち過ぎだぞ。〈影〉なのに表で目立ってどうするんだ?」
「あー」

 シャラザードを得たあたりから、少しだけ心当たりがある。
 この前のソウラン操者との一騎打ちなんかはちょっとヤバかった。

 技国で脳筋兄妹と訓練で戦ったことは知られていないと思うけど、アンさんとの結婚だって、いつ王都の民に知られるか分からない。

「全力を出すのは禁止な。目立つから」
「そういうことならしょうがないね。分かったよ」

「どう分かったんだ?」
「えっ? 両膝砕いて顎に一発入れればたぶん勝てると思うし、それなら目立たないでしょ」

「……怪我をさせるのも禁止」
「それは酷い」

「いや酷くない。そもそも勝てない相手なのか?」
「たぶん問題なく勝てる」

「だったら接戦でなんとか勝つくらいにしろ。……まったく、竜操者どうしの決闘なんて正気じゃないぞ」

「だから向こうから突っかかってきたわけで……いや、何でもない」
 言い訳しかけたところで義兄さんの目が鋭くなったので、退散した。

 翌日、決闘は二日後になると使者が伝えに来た。
「出発を考えると、妥当ですね」と言ったら変な顔をされた。

 どうやら相手側は相当入れ込んでいるらしい。

「今度は決闘を申し込んで、相手を亡き者にするらしいッスね」
 授業を終えたクリスが部屋に入るなりそんなことを言い出した。

「クリス」
「何ッスか?」

「それ、どこで聞いた?」
「みんなから」

「みんなって?」
「みんなはみんなッス。もうクラス中、その噂で持ちきりッスよ」
「………………」

 次の日には、リンダとアンさんから手紙が届いた。
 ふたりとも決闘のことを知って、慌てて手紙を出してきた。

 アンさんは、純粋に心配している内容だったが、リンダは「これを機会に名を上げなさい」とハッパかけるものだった。

 もう何度でも言うけど、リンダの性格ってこんなんだったっけ?

 義兄さんから、「全力は出すな、接戦を演じろ」と言われている。
 さてどうしたものかと考えているうちに、決闘の当日を迎えてしまった。

 丁寧にも馬車が迎えに来たので乗ったが、寄越したのは女王陛下だった。
 きっと面白がっているんだろう。
 次に会いにいったら、また大笑いするんじゃなかろうか。



 そして闘技場。
 中央に立会人がいる。

 立会人は僕らと直接関わりのない人物が選ばれているはずだ。

「決闘を申し込みしデスレ操者、決闘の申し込みを受けたレオン操者、前へ」

 僕とデスレ操者が向かい合った。
 観客は、ざっと数えて三百人ほど。結構集まった。

 決闘のルールなど、細かな確認は済んでいる。
 観客たちはどちらを応援してもよいが、声を出してはいけない。

 静かに見守る。
 もちろん戦う僕らも口で挑発するのは御法度だ。

「以後、立会人の言葉に従うように」
 僕とデスレは頷いた。次に口を開くのは、決闘が終わったあとになる。

「それではただいまより、両者の決闘をはじめるものとする」

 始めの掛け声はない。立会人が数歩下がったので、すでに決闘は始まっている。
 開始は両者のみが分かっていればいいのだ。

 デスレの身長はかなり高い。僕など、胸のあたりまでしかない。
 横幅も厚みも違う。

 これだけ体格差があれば慢心しようものだが、デスレはゆっくりと間合いを詰めてきた。
 どうやら僕を舐めていない。慎重に僕の出方を窺っている。

 さて困った。
 義兄さんから実力を出すなと言われていたが、相手は思ったより強そうだ。

 デスレは一気に加速して小刻みに拳を入れてきた。
 なるほど、小さなダメージでも蓄積すれば大きな一発と同じ効果がある。
 そして大きな隙は生まれない。

 素早い動きだが、父さんよりも遅い。対応できないわけじゃない。
 僕は飛んでくる拳をすべて避け、カウンターを打ち込んだ。

 僕のカウンター攻撃が続く。拳や肘で、相手の腕から胴体までまんべんなく狙う。
 一撃で昏倒させると拙いので、急所を避けるのも忘れない。

 デスレは苛立ったのか、徐々に大ぶりになってきた。
 息も荒い。何をそんなに興奮しているのか。

 軽々と避けると怪しまれるので、ギリギリまで引きつけて、すべてカウンターで迎撃する。
 一度当てたところを狙わない配慮もできた。これならば怪我することもないだろう。

 カウンターを打ち込む場所がなくなってきた。
 あと狙ってない場所は、下半身のみだ。

 顔は……腫れ上がっているので、これ以上は止めておこう。

 デスレの攻撃は、徐々に間隔が開いてきた。疲れたのだろうか。
 余裕を持って避け、足で迎撃する。

 足の甲から順々に上へ向かって蹴っていく。
 怪我をさせるなという義兄さんの言葉が重くのしかかる。

 骨折させるのは拙い。
 そのため、どうしても筋肉のあたりを重点的に攻撃することになる。
 だがここで失敗に気づいた。

 もう、攻撃する場所がなくなってしまった。
 足の先から頭の上まで、もう攻撃できる場所がな……あった。
 背中だ。

 そういえば、まだ一度も背中を攻撃していない。
 ちょうどよくデスレの動きが止まっていたので、素早く後ろに回り込み、逃げられないよう膝裏を攻撃。

 デスレが大地に両膝を付く。

 この状態で、攻撃を加えていく。
 逃げられるとやっかいなので、手早く正確に。それでいて鋭く。

 怪我をさせないという課題がある方が創意工夫できるようだ。
 首の後ろと後頭部を打ち抜けば一通り攻撃したことになる。

 なるのだが……その前に立会人に止められた。

「レオン操者、お終いです。相手はもう戦意喪失……いえ、意識がとうの昔にありません」
「…………?」

「あなたの勝ちです。もう話してもいいですよ」
 目で訴えたのを感じ取ったのか、そう言われた。

「勝ちですか? 話がありませんけど」
 どうやら知らないうちに勝っていたようだ。

「レオン操者の勝ちです。いやそれよりも、彼を医者へ!」
 数人が慌てて駆け寄ってきて、デスレを運び出していく。

 たしかにデスレの意識はない。
 だがあれで勝ちと言われても、ピンとこない。

「レオン操者の勝利をもって、決闘はここに終了しました」
 考えているうちに、勝利宣言が出た。

 立会人からの終了宣言に、観客たちは騒ぎはじめ……なかった。

 シーンとしている。
 どうしたんだろうか。

 見ていると、王宮官吏の服を着た若い女性たちが、青い顔をして去って行った。
 その後、まるで波が引くようにみなその場からいなくなった。

 三百人はいた観客は、十数名を残すのみになっていた。

「……やり過ぎだ」

 ドージン隊長は、なぜか僕に拳骨を落とすと、「デスレ操者の容態を見てくる」と言って去って行った。

 何だったんだ?

 本当によく分からないうちに、決闘は終了した。


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