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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 ウルスの町は軍事戦略上、対魔国への重要拠点として位置づけられている。
 絶対に落とされてはならない町。それがウルスであると。

 魔国がウルスの町の南か北から侵攻してきたとする。

 その情報はすぐさま王都に伝達され、即座に王都から迎撃軍がやってくる。
 同時に、ウルスからも追撃軍が背後をつく。


 魔国からすれば、ウルスは巨大な戦力を有する町であり、決して素通りできない町という位置づけになっている。

「ウルスの町で軍事式典があるのよ」
 女王陛下は穏やかに言った。そう、あくまで穏やかに。

 だが、その言葉の内容はとても穏やかとは言いがたい。
 防波堤の町で行われる軍事式典。

 もしこれが裏の謁見だったならば、「もしかして僕も参加するのでしょうか」と聞き返しただろう。

 女王陛下は笑って「当然よ」と言ったであろうが。

「行ってくれるわね」
「はい。もちろんでございます」

 僕は頷くしかなかった。



 謁見が終了して、アンさんと控え室に戻る。
「レオンくん。さっきのことですけど……」

「僕とアンさんの結婚の話ですよね」
 アンさんが顔を赤くして頷いた。

「どうしてあの場でそんなことをお話になったのでしょう。もちろん、他の方々に聞かせたいというのは分かりましたが、まだ秘する方が良かったと思うのですけど」

 アンさんの言いたいことは分かる。
 周囲に無用な情報を与えるのはよくない。

 情報はしかるべき時期にしかるべき手段をもって広めるのが得策だ。
 僕も女王陛下の真意は分からない。

 今回の場合、僕らが結婚する情報を誰かに知らせたかったのだ。

「その第三者が誰なのかですね。竜国内のだれかまでは分かりませんけど」
 商国と魔国の間者があの場にいたとも思えない。

 間接的につながっているかもしれないが、そこはとりあえず置いておこう。
 間違いなく『竜国のだれか』に向けて発した言葉だと思う。

「これで王宮内でも噂されますね。でもレオンくんとでしたらわたくしは構いません」
「王宮内でも(・・)ということは……王立学校内で何か噂があるのですか?」

「わたくしが三年になって身分を明かしたことで、噂が少々……」
 歯切れの悪い言い様がすごく不安だったが、よくよく聞いてみると、単純な話だった。

 アンさんは、竜国に婿捜しに来た。そう思われている。
 ここにきて身分を明かした。つまり、本格的に動き出したと思われたようだ。

「領主に連なる者たちからアプローチがありましたか?」
「そうですわね。少々……」

 アンさんは竜国から優秀な者を連れて帰る。
 ならば、次男、三男が相応しい。

 アンさん争奪戦が、どうやら水面下でおこなわれたらしかった。

「アンさんはパトロンに立候補していないですし、そう考えるのも不思議ではないですよね」
 だから噂か。誰がアンさんのハートを射止めるか。

 残り期間は一年……とは言うものの、諸々を考えればここ半年が勝負。
 さぞ、噂が駆け巡ったことだろう。

「そしてここへ来て女王陛下のあの発言です」
 僕とアンさんが結婚する。

 僕が婿に行くのか、アンさんが嫁に来るのか。
 今度はその噂が駆け巡るのだろうか。

 今後、王宮内で『賭け』が行われても不思議ではない。

「軍事バランスを考えれば、この時期の発表は益のないことだと思うのですけど、本当にどうしてなのでしょうね」

 アンさんが不思議そうな顔をする。
 シャラザードの軍事的価値はかなり高い。

 僕が嫁を取るか、婿に行くかは、両国のつながりの問題ではなく、軍事的な問題をはらんでいる。

 今日、女王陛下の話を聞いて、文官、武官が戦々恐々としているかもしれない。
 いや、賭けに興じているかな。さすがにそこまで神経が太くないか。

 なんにせよ、噂は王宮だけに留まらないだろう。
 本当に女王陛下は何を考えているんだか。

「そういえば」
 アンさんが何かを思い出したようだ。

「どうしました?」
「先ほど、軍事式典の話が出たとき、レオンくんの様子がおかしかったと思いまして」

 鋭い! 動揺したのを隠したのだけど、隣にいたアンさんにはバレていたようだ。

「竜国の軍事式典には、パレードがつきものでして」
「まあ、そういえば聞いたことありますわ」

「ウルスの町の場合、竜によるパレードが盛大に行われるのです。魔国に対する示威行為ですね。ウルスの民を安心させる意味もありますが、竜国の力を見せつける場でもあるのです」

「なるほど。それに参加しなければならなくなったから、様子がおかしかったのですね」

「そうなんです。シャラザードの奴……ああいった人が大勢集まる場面が殊の外好きみたいで、またやらかしたりしないだろうかと心配なんです」

 ああいう場で、大勢の竜を自分の意のままに操ったらもう、目も当てられない。
 領主の顔を潰すことにもなるし、僕がシャラザードを押さえられていないと思われてしまう。

 操竜会との関係も悪くなるだろうし、自分の竜を操られた竜操者たちだって気分が悪い。
 あとで全員に謝りにいく必要が出てくる。

「軍事パレードですか。多くの竜が集まれば、さぞ盛大なのでしょうね」
 アンさんはそっちの方に食いついたようだった。

 都市の中で最大戦力を誇るわけだし、壮大なパレードだろう。
 それは間違っていない。

「アンさんの立場としてはどうなんですか? 竜国の軍事パレードに出席するのは」
 一応魔国の高官も招待するはずで、彼らに竜国の素晴らしさをアピールするのも狙いがある。

 技国は今まで距離も離れていたことで、正式な招待はなかったと思う。

「もちろん大丈夫です。できるだけ顔を売ってきなさいと祖父が申しておりましたから」
 氏族長のお墨付きがあるわけか。

 竜国寄りの立場を表明することでデメリットだってあるはずだけど、そこは敢えて考えないのだろう。
 いや上層部は脳筋も多いし、何も考えてないとか?

 なんとなく技国の場合は、行動して後で反省するイメージがある。
 まあ、ここでその思惑について考えたところで分かるはずもないのだけど。

 そう考えると、やはり政治の世界は複雑で分かりにくい。

「では、アンさん。ともにウルスの町へ行きましょう」
「はいっ!」

 僕が誘うと、アンさんは満面の笑みで頷いてくれた。

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