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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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「ただいま戻りました」
「おう、おかえり。北部はどうだった? 楽しかったか?」

「ええ、いろんな発見がありました」

「ただいま、お父さん! 自然の中に町があって、良かったわよ。でも料理は王都の方が上ね」
「レオンお兄ちゃんのシャラザードに乗ったの。すごく速いの」

「そうか、ミラもクシーノも楽しめたようだな」
 ロブさんがニコニコして、ふたりの頭を撫でた。

「寒いせいか窓も少なくて、店の中がよく見えないんです。初めて行くと同じ家ばかり並んでいて迷いますね」

 王都だと、民家もお店も、通りに面したところに窓を大きく作って、分かりやすい。
 ダニエの町は、どの家も戸を閉め切ったような作りになっていて、みな同じ印象を受けた。
 加えて入り口が狭いため、よけいそう感じた。

「南部に行けば、店外で涼むのもいるらしいし、土地柄なんだろうな」
「ああ、そういえば王都では見かけないですね、そういうの。僕の地元でもありましたよ」

 ソールの町だと、長椅子を通りに出してきて、みなそこで涼んだりする。
 家の中だと暑くてしょうがない季節があるのだ。

「王都にいると、そういうのも忘れちまうな」
 ロブさんは若い頃にいろいろ旅をしたらしい。

「そうだ、今度シャラザードに乗って、どこか行ってみます?」
「いや、いや。この年になると、そういう冒険はいらんな。毎日を無事に送れればそれだけで十分だよ」
 なんだか、ロブさんは枯れていた。

「それとこれはお土産です。冷えているので味が落ちるかもしれませんけど」
 ダニエの町で買ったパイ包みのパンと、蒸しパンを渡した。

「ほう、これが新しいパンってやつか」

「蒸しパンがそうみたいですね。柔らかく膨らませるのに、普段と違うものを使うらしくて、こっちで再現できそうにないんですけど」

「へえ、パイ包みはキノコがいっぱい入ってるな。そんで新しいパンってのは……おう、こりゃうまいな。そんで手軽だ」

「ええ。これはあまり保存できないので、携帯食として長期の旅には向かないって言っていました。町中で食べる分にはいいですけどね」

「ウチらの焼くパンとなにが違うんだ?」
「秘密だそうです」

「そりゃそうだな。まっ、有名になりゃそのうちどっかの商人が製法を高く買い取るだろう」

「そうですね。蒸すので意外と手間がかかっていますよ。あと、一度にたくさんできないので、大量に作って売るのは難しいかもしれないですね」

 そのまま僕はロブさんと話し込んでいると、着替えを済ませたミラがやってきた。

「ねえ、夕食ができたって。レオンも食べていくでしょ。シャラザードの背中にずっといたから、お腹空いちゃったわ」

「そうだな。店を閉めたらいく。レオン、おまえも食っていけ」
「はい」

 夕食の団らんは、今回の旅の土産話に花がさいた。
 僕が帰りの道程を話そうとすると、ミラがムキになって止めたが。



 スルヌフが起こした事件だが、僕が北の町へ行っている間に、少しだけ進展を見せていた。
 竜国は技国に、今回の顛末を伝えた。

 竜国は技国と軍事、経済の両面で共同歩調を取りつつあり、その一環として情報共有を推進している。
 顛末を伝えたのは、情報共有の一環らしい。

 竜国が出し抜かれた話なので、隠しても良かったと思うが、女王陛下はそれを選択しなかったようだ。

「竜での情報伝達はすごいですわ。あっという間に行って返ってくるなんて」
 アンさんが感心した声を出した。

 そう、竜が行って帰ってきたのだ。技国の返事を持って。

 今回の報告には、スルヌフが起こした事件だけでなく、工場が完成し稼働をはじめた件も伝えてあったらしい。

 技国からの返事だが、僕は詳しい内容は知らない。
 アンさんから「今後も両国が協力して事にあたることが確認されました」と教えてくれた。

「そうですか。このまま良好な関係が継続するといいですね」
「はい。レオンくんの言うとおりです。そのために、わたくしがいるのです」

 アンさんはニッコリ笑った。

 ちなみに今、僕はアンさんと一緒の馬車に乗っている。

 僕とアンさんは王宮に呼ばれたのだ。なぜ僕が?

「よく来たわね」
 馬車をおり、正式な手続きを通過したらすぐに王宮に通された。

 向かっていく先は謁見の間だ。つまり行われるのは公的な会話となる。
 謁見の間に入ると、すでに女王陛下が待っていた。

「女王陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
 アンさんが頭をたれる。僕もそれに倣った。

〈影〉として女王陛下の前に立ったことは何度もあるが、こうやって表から訪問して謁見したのは初めてだ。

「ふたりの婚姻について、竜国は正式に認めます」
「!?」

 思わず僕は、女王陛下を凝視してしまった。
 まだ秘密ではなかったのか?

「ともに惹かれ合うふたりに祝福を……ですが、いまだ両人とも人に教えを請う身。正式な結婚はふたりが卒業を待って行えばよいでしょう」

 女王陛下の言葉が謁見の間によく響いた。
 この場にはもちろん僕やアンさんだけではない。

 文官や貴族が何人もいる。
 王宮で下働きする者や、衛兵だっている。

 そしてアンさんはここでは有名人だ。
 いや、僕だって……悪い意味でかなり有名だったりする。

 周囲がざわついているのだけど。

「さて、ふたりに公務があります」
 周囲の驚きを女王陛下はスルーしたよ。

 説明を求めてもらいたそうな人間が何人がいる。
 当然だろう。
 アンさんの結婚といったら政治的な問題だ。

 そしてシャラザードを得た僕の去就だって、『軍事的』な問題をはらんでいる。
 アンさんと僕が結婚した場合、シャラザードはどうなるのか。

 これは文官、武官双方とも非常に気になる話題だと思う。

「公務でございますか?」

「そうです。技国と竜国の友好のため、ひとつ頼まれてもらえますか」
「はい……わたくしにできることでしたら」

「難しいことではありません。視察に赴いてほしいのです。彼と」
 そこで女王陛下は僕を見た。

 僕がアンさんと一緒に視察?
 それが公務って?

 僕は女王陛下の〈影〉で、全赦を賜っている。
 だが、こういう表の状態では促されない限り、女王陛下に直答できない。

 黙って聞いているしかない。
 それを察したのか、アンさんは僕を一瞥してから、こう言った。

「わたくしたちは……どこへ行けばよいのでしょうか」
 女王陛下はゆったりと笑う。

「ウルスの町へ」

 ウルスの町は魔国への玄関口。
 陰月の路を除けば、竜国の最大戦力がそこに集中している。

 領主はリトワーン・ユーングラス。
 王女殿下は、リトワーン卿を「キザ男」と呼んでいた。

 フィロス・シラームさんが「気をつけろ」と言った人物だ。
 そこへ、公務として行かねばならないらしい。


 どうやら僕の静かな生活は……まだ遠いようだ。

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