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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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「お客さん、できてますよ!」
 パン屋に入るなり、元気な声が飛んできた。
 さて、新しいパンは一体どんなものなのか。

「これですか?」
 台に置かれたパンは丸かった。いや、平べったかった。
 厚みもそれなりにある。

「円柱なんですね」
「そうだよ。中にはキノコがたくさん。それ以外にも新鮮な野菜が入っていますよ!」

 ツタと葉で編んだ入れ物に円柱のパンが二個、入れられていた。
「持つと重いですね」

 パンとは思えないほど重かった。
「中には水分をあらかた飛ばしたシチューが入っているのさ。そのせいだろうね。食べ応えあるよ」

「食べごたえ……たしかにありそうです」
 パンを両手で抱えて、ヨロヨロと宿に戻った。

「……これが新しいパンなの?」
「たしかに見たことない形だよ、お姉ちゃん」
 復活してきたミラとクシーノが興味深げに見ている。

「味はどうなんだろう。ひとつはロブさんたちへのお土産にするとして、ひとつは食べてしまおうか。と言っても三人分以上は余裕でありそうだけど」

「じゃ、切り分けるね」
 クシーノが包丁を取り出す。こんなところまで持ってきていたのか。

 パンを切っても、中から汁がこぼれることはなかった。
 クシーノが綺麗に八等分し、みんなでひとつずつ手に取った。

「美味しいといいけど」
 ミラがパクつく。

「楽しみだね、お姉ちゃん」
 クシーノが続く。

「どれどれ、僕も……ん? これは」
 パイとシチューを一緒に食べたような味がした。

「見たままだったけど、ふたりはどう?」
「そうね。でも食べやすいかな。お腹に溜まるし、竜国の民は喜ぶんじゃないかしら」

「ひと切れでお腹いっぱいになるね」
 クシーノには多かったようだ。

 シチューを作るのは手間だ。
 食べるのだって、深皿とスプーンを用意しなければならないし、それなりに作法もある。

 これならば手で取って食べるだけなので、時間短縮にもなる。
 大勢でわいわいやっているとき、たとえば立食会では重宝しそうだ。
 わざわざシチューを大皿から盛る必要もない。

「パーティで食べたらおいしそうだね」

 クシーノの意見に賛成だ。
 これはパーティなどの集まりに効果を発揮する。

 宿の女将が普段買わないと言った理由も分かる。

「……でも、これがあの商人が言ったパンだったのかな」
 なんか違う気がする。

 あのとき商人は毎回食べたくなってくると言っていた。
 とにかく手軽で美味しいんだとも。

「違うの?」
「なんかね。大勢で食べたらそれは楽しいだろうけど」
 商人が言っていたニュアンスとは少し違う。

「なら、明日また探してみればいいわよ」
「そうだな。町の探索もしていないし、明日はいろいろ見てまわろう」

「わあい。明日は早起きしようね、お姉ちゃん!」
「だったら早く寝ないとね」

 僕らは明日に備えて、早めに就寝した。



 翌朝、二手に分かれて町の散策をすることになった。
 ミラはひとりで別行動。僕はクシーノと一緒だ。

「どこにいくの? レオンお兄ちゃん」
「ミラは町の中心部に行ったから、僕らは反対側に行ってみよう」

 北方の町は寒いからか、早朝から開いている商店は少ない。

 パン屋だけは開いているが、それは町の人が仕事前の腹ごしらえをするからだろう。

 僕とクシーノは、目に付いたパン屋に入って珍しいパンを購入し、ついでに新しいパンの情報がないか聞いてまわった。

「新しいパンって、あれじゃないか? ほらっ、池のそばの」
「ああ、『水月すいげつ屋』か」

 クシーノがパン屋の店員に聞いたところ、その場にいたお客さんから意外な答えが返ってきた。
「『水月屋』ですか?」

「ここから南に進むと、大きな池があるんだよ。水がいつも湧き出ている綺麗な泉だ。その側に一軒のパン屋があってね。そこのパンが変わっているな。竜国式でも技国式でもない、みたことないものだったなぁ」

 新しいパンを求めているなら、それじゃないかと。
「ありがとうございます、行ってみます」
 いい情報をもらった。

「よかったね、レオンお兄ちゃん」
「ああ、すぐに行ってみよう」

 聞いた場所にそのパン屋はあった。
 中に入ると、ミラがいた。

「あら、レオンも聞いたのね」
「ミラもか。ここに珍しいパンがあるっていうから、来てみたんだけど」

「ちょうどできあがるところみたいよ」
 ミラの視線の先には、木製のかごを持った店員がやってくるところだった。

 店員の顔は見えない。
 真っ白な湯気が籠からもうもうと上がっているのだ。

「はい、蒸気蒸しパン。できあがったよ」
 店員が持っていた籠ごと台座に置いた。

「これが新しいパン?」
「真っ白だよ、お姉ちゃん」

 パンは手に持てないほど熱かった。

 籠ごとに味が違うらしく、甘いあんが入ったもの、肉と野菜が入ったもの、辛みのあるシチューが入ったものの三種類があった。

 三人で三つ買って、さっそく食べてみる。

「すごく柔らかいわ。ふかふかよ」
「お姉ちゃん、熱い」

「中の具は別に作って包んだみたいだね」
「熱いけど美味しい」

「冷めたら味が落ちそうだな。ホカホカのうちに食べた方が何倍も美味そうだ」
 これが商人の言っていた新しいパンだろう。珍しい。

 店員は蒸気蒸しパンと言っていた。
 このパンは窯で焼いてない。

 だからこんなにも柔らかいし、白いのだ。
 そして外の生地がしっとりしているのは水分がふんだんにあるからだろう。

「どうやって作るのかしら」
「蒸気蒸しパンって言うくらいだから、水を沸騰させてできる湯気の熱で暖めたんだろうね。なかなかよく考える」

「でも技国式でもこんなに柔らかく膨らまないわよ」
「そうだな。特別なものを使っているんだろう」

 竜国式でも技国式でもないパン。
 そして窯を使わないだけでなく、僕らが知らない材料が加えられている。

 店の人に聞いたところ、作り方は秘密だそうだ。
 教えてもらっても、材料を揃えられない気がする。

「お父さんたちのお土産に買ってかえろう!」
「そうね。じゃ一種類ずつ……」

「いや、二種類ずつにしよう。戻ってからも食べてみたいだろ?」
「……そうね」

 こうしてぼくらは、新しいパンの情報を仕入れることに成功した。
 食べたくなったらまた来ればいい。

 シャラザードと月魔獣狩りのついでに、足を伸ばせばいいのだ。

 さて、帰りだが。
 ミラはシャラザードに何度も「ゆっくり飛んで!」」と念を押していた。

 シャラザードがその願いを聞き入れたのかは……言わないでおく。

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