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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 竜国の首都には、竜の発着場がいくつかある。

 馬車の待ち合わせ場に併設されていることが多く、リンダをソールの町に連れて行ったときにも使った。

 中型竜ともなると、走竜、地竜、飛竜の区別なく、滅多な場所で乗り降りできない。
 かといって、竜の学院や操竜場、王城にある竜舎のように、一般人が気軽に入れない場所も多い。

 軍に所属していなくても使えるため、大層便利だったりする。

「へえ、ここがそうなのね」
「王都出身なのに、来たことなかったのか?」

「だって必要なかったし……結構人がいるのね」
 ミラはしきりに感心している。

「商人たちも馬車の待ち合わせに使うからかな。屋台が出ていて、普段も混んでいるかな」

「竜国が発展する一端を垣間見た気がするわ」
 奥の方には、小型竜から中型竜まで、竜の展示会のようになっている。

「レオンお兄ちゃんのシャラザードは、その中でも一番目立ってるね」
 クシーノはなんだか嬉しそうだ。

 たしかに目立っている。
 というか、人や竜から避けられている?

 ミラとクシーノとここで待ち合わせをしたのだが、シャラザードと一緒に到着した瞬間、他の竜がいそいそと場所を空けだした。

「まあね。青竜をコテンパンにのしたってのはもう知れ渡っているからね」
 ソウラン操者との模擬戦の話か。

 あれについてはいろいろ言いたいことがあるが、僕自身に対しての悪評を含めて、かなり詳しいことまで知れ渡ってしまっている。

 ソウラン操者が言いふらしたとは思えないが、なぜだろう。不思議だ。

「じゃ、さっそく行きましょう!」
 シャラザードの背中にかかった縄ばしごに足をかけて、ミラは勇ましそうだ。

「落ちるなよ」
「大丈夫よ」

「レオンお兄ちゃん、わたし……無理かも」
「僕が手伝ってあげる」
「わあい」

 クシーノはかわいい。甘え上手だ。
 ミラがのぼったのを確認してから、クシーノを抱えて上がる。

 二人に椅子とベルト使い方を説明する。

「しっかりと金具を締めれば、まず落ちることはないからね」
「かなり大きな金具ね」

「安全を考えるとこのくらいは必要なんだ」
 あまり小さな金具だと、体重を支えきれるか心もとない。

 問題はシャラザードの急加速だが、最近手加減を覚えたので大丈夫だろう。

「よし、シャラザード。出発だ」
『あい分かった、主よ! 一気にいくぞ』
「普通でいいからね!」

 シャラザードにとっては普通の……他の竜ならば急発進となるスタートだ。
 風を巻き上げて、僕らは北方の町ダニエを目指した。

 道中は特筆することもない。

 陰月の路付近で月魔獣を見つけて蹴散らしたり、月魔獣と戦っている竜操者たちを支援したり、雲を突き抜けて息苦しくなるまで上昇したり、急降下から曲芸飛行をしたりしたが、そんなものは、いつものシャラザードだ。

 特大の雷玉を打たなかっただけ成長していると言える。
 ミラがわめいて、クシーノが意識を手放したりと、ささいな問題があったが、昼休憩を取らないまま、僕らは『無事』、ダニエの町に到着した。

 午後を回ったところなので、まだ日が高い。
 今から十分町を回れる時間だ。

 なのだが……。
「や、休みましょう」
 ミラは限界だった。

 はじめこそ、シャラザードに乗って大空へ舞い上がる自分の姿に興奮していたが、大地が遙か下になると震えはじめ、シャラザードが逆さ飛行をするたびに悲鳴をあげ、何度もわめき散らした。

 クシーノはずっとおとなしかったが、あとで聞いたら、驚いて声が出なかったらしい。

 町に到着したものの、ふたりともフラフラで、足腰が立たなかった。
 慣れないうちは体力を余計に使うのだろう。

「宿に行こう。希望はあるか?」

 パン屋は逃げない。
 早く行きたい気持ちもあるが、ヘロヘロのミラとクシーノを放ってはおけない。

「ごめん、レオン……宿を、いや、ぜんぶ任せるわ」
 目まいがするらしく、頭を振っている。

 途中で休憩を入れればよかっただろうか。
 僕の体力基準で考えていたので、失敗したかもしれない。

 宿はどこも空いていた。
 中途半端な時期らしく、ときおり買い付けにやってくる商人以外に、宿泊客はいないらしい。

「……さて、パン屋の場所を聞いてくるから、ふたりは待っていて」

 宿に着くなりベッドに倒れ込んだふたりは、返事をする余裕もなさそうだ。
 僕は階段を下りて、宿の女将に聞きに行った。

「パイ包みパンのことかねえ」
 新しいパンについて聞いたところ、そんな話が返ってきた。

「パイ包みパンですか?」

 パイ生地でくるむパンは、技国で別段珍しくない。
 もしかしてそれが新しいパンのことだろうか。

「近くの森でキノコがたくさん採れるのさ。それが特産品なんだけどね。うーん、まあ説明しづらいんで、実際に行ってみるといいさ」

 そう言われたので、教えてもらったパン屋に足を運んだ。

「いらっしゃいませ!」

 元気よく出迎えてくれたのは、ミラよりも少し年上の女性だった。

「なにかお探しですか?」
 これぞ看板娘という感じで、接客が堂に入っている。笑顔も自然な感じがする。

「パイ包みパンがここにあるって聞いたんですけど」
「外からの人ですか?」

「ええ、そうですけど」
「パイ包みパンは注文してから作るんです。いくつ必要でしょうか?」

「それじゃあ、二つお願いできますか」
「はい、承りました。……にーちゃん! パイ包みパンを二つ。大至急ね」

 奥から「うぇーい」とも「うぃーっす」ともつかない声が聞こえてきた。

「できあがるまで一時間くらいかかりますけど、お客さん、どうなさいます?」

「だったら、作っているところを見てもいいかな?」
「あー、それはちょっと……ご遠慮願いますか」

 駄目らしい。秘密にしたいこともあるだろう。

「じゃあ、一時間後に来ます」
 そう言って僕はパン屋をあとにした。

 宿に戻っておかみさんにその話をすると、「そう言えば、注文した分だけしか作らないんだったわね」と笑っていた。

「みなさんは普段、そのパンを食べないんですか?」

「集まりがあるときは、だれかが買ってくるのさ。それをみんなでわけて食べるかな。私は自分で買ったことがないから、忘れていたよ」

 どうやら複数人で食べるのが普通らしい。
 興味があったが、どういったパンなのか、あえて聞かないでおくことにした。

 部屋に戻り、ミラとクシーノの様子を確認する。
 クシーノはダウン。
 ミラは起きていた。

「いまパイ包みパンを買いに行ったんだけど、注文した分だけしか作らないんだ。できた頃にまた行ってくる」

「へえ。北方のパン屋はずいぶんとのんびりなのね」
「普通のパンは店に並んでいたよ。注文してから作るのは、特別なパンだけだと思うけどね」

「それでも職人がいて、時間がなければ作れないじゃない。そうやって準備だけしておくのも大変なことよ」

 そういえばそうだ。
 いつ来るかも分からない客相手に、下準備をして待機しているのも、手間のかかることだ。

「パンを取りに行くとき、ミラも一緒にくるかい?」

「うーん、やめとく。まだちょっと辛いから」
「そっか。ゆっくり休むといいよ」

 それからきっかり一時間後、僕は再びパン屋を訪れた。

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