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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 竜国の王都から南東に向かった先にある港町。
 ここには、竜国七大都市のひとつに数えられるアクリの町がある。

 アクリの衛星都市の多くは漁港として栄え、竜国全土へ干物や海産物を運んでいる。

 そこへ、一体の巨大な竜が舞い降りた。
 中型竜より大きく、全身は青い。

「やあ、よく来てくれた」

 出迎えたのは、アクリの領主であるフラット・エイドル。
 領主の座について十五年、今年でちょうど五十歳になる。

「しばらくお世話になります、お義父さん」
「娘も待ちかねていたようだよ。さっ、中へ」

 ソウラン・デポイは、フラットに招き入れられて、建物の中へ入っていく。

「なんでも最近、黒竜と戦ったそうじゃないか」
「もう噂が届いていましたが」

「出入りする商人たちの話くらいだな」
「そうですか。中々強かったですよ、彼」

「黒竜が? それとも若者の方?」
「両方です。黒竜――シャラザードと名付けたようですが、あれは敵いませんね。地力はそれほど差が無いように思えるんですが、結果は一方的でした」

「ほう、それほどか」
「そして彼――レオン操者の方は……よく分かりません」
「ん?」

「後で思い返してみたのですが、彼は本気ではなかったようですね。実力を隠していました。僕と互角……くらいでしょうか」

「まさか、まだ十代の若者だったはずだが」

「ええ、末恐ろしいですね。僕があの歳の頃、あれほど戦えたかとは思えませんので」

 ソウランは十八歳で竜を得て、七年目になる。
 現在二十五歳のソウランにとって、レオンの実力は自分とそう大差ないものに感じられていた。

「それはそれは、竜国の将来は明るいな」

「ええ、そうですね。先が楽しみな若者です」
 笑顔をみせたソウランの口元、歯がちょうど一本分、隙間を見せていた。

「ソウランさま、ようこそいらっしゃいました」
「お世話になります、サフラン様。お会いできて大変嬉しく思います」

「まあ、わたくしたちは婚約者の間柄。そんな遠慮するようなことを仰らないでくださいまし」

 サフラン・エイドルは、頬を染めてソウランの袖を取った。
「庭園で珍しい花が咲きましたの。ご一緒に観賞しませんこと?」

「サフラン様が育てていた花ですね。はい、喜んで」
 ソウランとサフランが並んで歩き出すのをフラットはにこやかに見送った。



 サフランと庭園でゆったりと花を眺めたあと、ソウランは領主のフラットと応接室で酒を傾けていた。

「そうか。ソールの町周辺は、そんなにも混乱しているのか」
「ええ、竜操者仲間に聞いた感じですと、被害は北に向かって少しずつ広がっているんだとか」

「……困ったものだな」
「はい。この町はどうですか?」

「アクリの場合、複数の馬車が徒党を組んで進むからな。今のところ被害の報告はない。だが、そうも言ってられないだろうな」

「そのうち通達がくると思いますが、商人の馬車に偽装するようですので、町の出入りで少しは発見できるかもしれません」

「警邏兵に話しておこう。……通達と言えば、大転移についてはどうなのだ? 何か新しい情報はあるのかな」

「いえ。私たちには何も。ただ、陰月の路では月魔獣の降下が増えたのではと言われています。統計を取っているわけではないので、巡回する者たちの体感ですが」

「そうか。二つの月が接近する回数は年間を通しても偏りがある。単純に統計を取ったところで意味のあるものにはならないしな。しかし、女王陛下の秘密主義にも困ったものだな」

 フラットは嘆息した。
「陛下は民の心の安寧を第一に考えているようです」

「そのせいで私たち領主にも情報がおりてこないと、対策の立てようがない。まあ、あと数年の猶予があるならば、少しずつ戦力を増強しておくくらいか」

「ここは陰月の路からは離れていますので、さほど影響は出ないでしょう」

「分からないぞ。次の大転移は、陰月の路がそのまま北にずれると考えられているが、そうならない場合も考慮しなければならない。とくに予想を大きく外した場合、対策を立てていないと、甚大な被害が出る」

「そうですね。僕の考えが浅はかでした」
「なに、万一に備えるのは領主の勤め。戦うのは任せるから、そのときは存分に力を振るってもらえばよい」

「そのときは間違いなく、力になります」
 ソウランは破顔した。
 フラットはもちろん、ソウランの一本欠けた歯を見なかったことにした。



 竜国首都。
 商国による一連の工作活動に対して、竜国は一斉攻勢に出た。
 まず、王都騒乱の首謀者である『豪商』スルヌフに対しては、商会単位で指名手配した。

 これによって、スルヌフが所有していた竜国内のすべての拠点が捜索対象となり、悪事の証拠が多数見つかった。

 前回の件とあわせて、『豪商』の商会は竜国内で活動禁止の措置がとられ、スルヌフの身柄引き渡しが商国に求められた。

 それに対して商国は、「いまだ帰還せず」とだけ返答している。

 拠点の捜索においては、他の商会が所有し、スルヌフが関与していないものも多く含まれていたが、竜国側は容赦しなかった。

 商国商会側から激しい抗議がおこなわれたが、竜国からの正式な回答はない。
 これによって、商国商会と竜国は完全に敵対したと町の住民はとらえた。

 次に、ソールの町を中心とした通商妨害の件について、町の出入りを商札で判断するという措置が取られた。

 竜国商会に加盟した商会には、専用の商札を支給しており、それの提示がない場合、出入りする馬車は徹底的に調べられることになった。

 これには商国だけでなく魔国からも抗議の声があがったが、商人に偽装した盗賊団が捕らえられるうちに、その声も小さくなった。

 最終的に百名を越える盗賊が検挙され、その素性を衆目にさらすことで、非難を躱したとみられる。

 また、竜による巡回を強化し、とくに国境付近や街道などを重点的に見回ったおかげで、竜国へ不法に入国する者たちが多数捕らえられ、送り返されることになった。

 彼らの多くは食い詰めた者たちであったが、二度目は犯罪者として扱うという強力な脅しによって、再度不法入国しようとする者はほとんど出なかった。

 また二回目に捕まった者は容赦なく、北嶺地帯での作業に従事されられることになった。

 そしてもうひとつ。
 これらの捜索権は、地方領主のみならず、王都から派遣してきた者たちでも可能となる法案が作られた。

 地方独立性の侵害であると多くの領主が反発したが、地方領主たちには実際に捜索や捕縛できる兵を派遣する余裕があるところは少なく、実施したとしても名目だけになる恐れがあったため、強行もやむなしと町の人は捉えていたようである。

 だが、これにより、領主と王都との心の距離は、確実に広がっていった。

 そんな中、ソールの町近くにあるヴィラーインとバロドリストの二つの町で工場が完成し、即日から稼働をはじめた。


 時代はこれ以上ないほど急速に動き出していた。

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