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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 商国。
 東の都にある一際大きな建物。
 そこに三人の男たちが集まっていた。

「スルヌフの奴、未帰還なのかよ。ったく使えねえ」

 そう吐き捨てたのは、浅黒い肌に銀髪の男。
 潮焼けした赤ら顔には、いくつもの刀傷と深いしわが刻まれていた。

 男は椅子にだらしなく座って酒瓶を左右に振るが、中からは何の音も聞こえない。

「ダイネン殿、良かったらこちらをどうぞ。魔国から取り寄せた一品です」
「おっ、『天蓋てんがいしずく』か。めったにお目にかかれねえモン、よく持ってたな」

「偶然手に入ったのですよ。魔国の酒は西の五会頭の管轄でしたが……どうやら、それどころではないようです」

「そりゃおめえのせいだろ、『麦野ばくや』の」

銀檻ぎんかん』のダイネン・フォボスは、受け取った酒瓶を振って中を確かめると、栓を抜いて立ちのぼってくる匂いをかいだ。

「それはそうですけどね。ですが、スルヌフの暴挙は私のせいではありませんよ」

『麦野』のフストラ・エイルーンは、首を左右に振って、無実をアピールする。

「分かってるよ。西の連中は視野が狭くていけねえ。竜国商票なんてほっとけば良かったんだ……ったく、『豪商』のせいで、オレの商品が四十も失なわれたぜ」

 ダイネンは酒瓶に口をつけて、喉を鳴らして中身を飲む。

「一応貴重な酒なんですけどね、それ。……それで失った者の割合は?」
「呪国人が十二、商人が二十三、残りは傭兵だ」

『銀檻』のダイネンは、様々な人を扱う。
 それこそ奴隷から傭兵、売春婦、一般労働者、貴族相手の執事まで、幅広く。

 ダイネンとフストラの会話に、今まで黙っていた『宝寿ほうじゅ』のドナルマー・テンナイが口を開く。

「別にどうでもいいのに張り切ったのは、スルヌフの独断でしょう。問題はそれによって計画に支障がでるかどうかですが」

「そうだな。『宝寿』の言うとおりだぜ。そこはどうなってるんだ?」

「計画は順調ですよ。問題ありません」
「そうかい。だったらいいんだが。『飛蝗ひこう』なんか、しびれを切らせてどっか出て行っちまったんだからな」

「あれはそういう性格の人ですから。……問題があるとすれば、ハリムの能力がいささか心許ないことでしょうか」

 穏やかな声で、フストラは同じ五会頭のひとり『華密はなみつ』のハリム・イーヴァを貶めた。

 だがダイネンもドナルマーも反論せず、頷いた。

「まさか『魔探またん』が五会頭の座を追われるとはな。実力はダンチだったはずだが」
 ダイネンが言うと、フストラが首を横に振った。

「あれは追われたのではないと私は考えますよ。もともとデュラルは野心の薄いところがありました」

「だからハリムを下に付けた方がいいって、オレがけしかけたんだ」

「ですが、下克上がおこった」
「一報を聞いて、驚いたぜ」

「私もデュラルはハリムより一枚も、二枚も上手うわてだと思います。にもかかわらず、下克上がおこった。ならばそれはデュラルが自ら身を引いた証でしょう」

「なんでまた?」

「さて、それは『魔探』の残した遺産に関係あるのか、ないのか」
 フストラの言葉にダイネンは難しい顔をした。

「そう遺産だ。あれが分からねえ。なんで奴は『楽園』の情報を暗号にして残したんだ?」

「一国に相当する肥沃な大地、暗号にはそう書いてありましたよね」
「ああ……」

「どこに残されていたか覚えています?」
「どこって……西の都の資料室の中だろ。奥の方に隠してあったって聞いたぞ」

「そうですが、その情報は正確ではありません。あなたは知っていますか?」
 フストラはドナルマーに尋ねた。

「資料室の奥としか私も聞いてないが、違うのですか?」
 フストラは人差し指を上に向けた。

「大転移について書かれた書庫の本に、暗号それは挟んでありました」
「そんで? だからなんだってんだ?」

「なぜ『魔探』の遺産――暗号が見つかったのでしょうか。それはつい最近、大転移について調べる必要があったからです」

「そうだな。竜国が隠し持っていた情報。近々大転移が現れると知ったからだろ?」

「つまりデュラルは『楽園』の情報は隠したい。けれどもし大転移がおきた場合、『楽園』が必要になる。だからそこへ隠したのでしょう」

「なるほど。あんな黴臭い資料、必要にならなければ開こうともしないか」
 ドナルマーが頷いた。

「どういうこった?」
「デュラルは『楽園』を見つけたんですよ。けれどそれを公表しなかった。いまの時代には必要ないと思ったのでしょう。『楽園』をめぐって戦争が始まることを危惧したのかもしれません」

「だからって大転移……そうか。国難の時代だったら、人間どうしで争ってられねえ」

「ええ。そのため本気で大転移のことを調べる人が現れたときに分かるよう、あそこに隠したのでしょう。まさかこんなに早く必要になるとは思わなかったでしょうが」

「……ったく、食えねえ奴だぜ」
「一緒に挟まっていた葉と種はどこにもないものでしたからね」

「あれは原種であることが確認された。四つの国のどこにも自生していない。種もそうだ。より原始的な、異種交配を繰り返していない原木がそこにあると推測される」

「つまり『楽園』は隔離された世界ってことだ。どこにあるのかね」

「……さて、それを探すには竜が一番適していますからね」
「竜国をぶっ潰す……いや分断させねえとな。全部掻っ攫われる」

「そういうことです。計画はもうすぐ実行に移せます。それまでおとなしくしていましょう。これ以降はスルヌフのような行動は命取りになりますから」

「分かってら。オレが貸し出した兵どもに使用条件をつけといた。もう暴発はねえと思うぜ」

「でしたらあとは月が満ちるまで」
「おう。竜国を混乱の渦に陥れようじゃないか」

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