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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 襲ってきたのはスルーひとり。
 歳のわりに素早い動きだが、それは一般人に比べたらの話。

 僕は握った剣を水平に払った。

 やってきたところへカウンターが決まり、スルーの右腕から血がほとばしった。
 それなりに深く傷つけることができた。

 あれ、意外に弱い?
 受けるか躱すだろうと思ったら、普通に剣が通ったんだけど。

「くっ!」

 悔しがる様子は演技とは思えない。

「もしかして、本当に弱いの?」
 僕の素で発した言葉に、スルーの顔が歪む。

「こちらは魔道を操る身、接近戦では分が悪いか」

 スルーはすぐに退くと、となりのダブルと目を見交わし、ともに窓から飛び出した。

「……やれやれ。どういうことだ?」

 いくら魔道を扱うとはいえ、接近戦を仕掛けてきたにしては弱すぎる。
 調子が悪かったのか。
 だからと言って、見逃すわけにはいかない。

 僕はふたたび、闇に溶けた。

               ○

「二対一とはいえ、あのまま戦ったら不利だったな」
「小僧と思って油断した。あれが竜国の暗殺者か」

 商業街から少し外れた場所、貧民が住む一角にスルーとダブルは逃げ込んだ。
 腕から流れ出る血を丁寧に拭き取り、痕跡を隠そうと必死だ。

 その様子をじっと見つつ、僕は「をいをい」とツッコミを入れたくなった。

 たしかに僕は父さんから暗殺の手ほどきを受けた。
 心が折れそうなほど理不尽な訓練を施されたりもした。

 生きるか死ぬかではなく、死ぬ以外に道は残っているのかと思えるような環境に身を置いたこともある。

 生き残れて僥倖ぎょうこうだったと胸をなでおろしたことが、何度あっただろうか。
 そんな人生を乗り越えてきた。

 僕からすれば、いまの会話はちゃんちゃらおかしい。
 何を甘えているんだと思ってしまう。

「……ッ! そこにいるぞ!」

 おっと見つかった。
 闇に隠れていたのに場所まで特定されるのだから、勘などではなさそうだ。

「さすがはスルー?」
 僕は闇から姿を現した。
 隠れた僕を見つけたのは、スルーの魔道だろう。

「キサマも魔道を使うのか!」
 叫んだのは若い方。ダブルだ。

「まあね。別に魔国人だけが魔道を使えるわけじゃないでしょ」

 僕の場合、父が魔国人でなおかつ魔道を使うので、素養が高かったのだけど。
 ただ、それをここで言うつもりはない。

「くっ。逃げるぞ!」
 スルーの言葉にダブルが頷く。

 それを許すつもりはない。
 僕は足元につぶてをばら撒いた。

 細い針が多数でているちょっぴり凶悪なやつだ。踏むとかなり痛い。
 返しもあるので、中々抜けないし。

 この礫は僕が投げても撒いても凶器となる。
 今回は目眩ましにしか使わないのだけど。

 スルーたちが足元を確認している間に、追加でばら撒いた。
 人は、自分に直接危害を加えない行動に対しては反応が鈍いのだ。
 どうしても「これは何だ?」と見極めようとしてしまう。

 何百という礫が二人の足元にある。
 これで動きを封じることができた。
 対人戦における僕の必勝パターンである。

「さて、祈りは済んだかな」

 僕はゆっくりと、右手・・だけを闇に溶かした。

「なっ…………!?」

 それを見ていたスルーの胸から剣が生える。
 握っていた剣ごと、別の闇から出現させたのだ。

 口から大量の血を吐き出し、スルーは驚愕の目をこちらに向ける。
 あたり前だが、容赦はしない。

 剣を回転させ、傷口を広げた上で、僕は右手を戻した。

「スルー!」

 ダブルが叫ぶが、すぐに後を追わせるつもりだ。
 この『闇刀やみかたな』を見られたからには、生きて返すことはできない。
 飯の種なのもで。

「ぐはっ!」
 同じく胸から剣を生やしたダブルが苦悶の表情で胸をかきむしった。

「終わりだよ」

 剣を引き抜くと、ダブルはその場に膝をついた。
 血溜まりが広がり、その中に倒れ伏す。
 しばらく痙攣けいれんしていたが、それもすぐにおさまった。

「……ふう。こんなもんか」

 魔国の魔道使い。
 どんな相手かと思ったが、どうやら魔道に頼った連中だったようだ。

「にしては、だれだっけ。〈右手〉がひとりやられたんだよな」

 当初、スルーの討伐に向かった〈右手〉は三人。
 スルーの姿を捉えられず、バラバラに散ったところを狙われ、ひとりが倒れている。

「運が悪かったのか、不意をつかれたのかな」

 敵を追っているときに気を抜くのは二流どろこか、三流だと思う。
 王都の〈影〉は人材が豊富と聞いたが、間違いだったのだろうか。



「……おっと、なんだい、なんだい。もう終わっちまったのかい」

〈右足〉を呼んで死体の処理をお願いしようかと思ったら、別なのが出てきた。

「えーっと、誰?」
 現れたのはふたり。僕と同じ黒衣。女王陛下の〈影〉だと思うけど。

 同業者にしては、視線が厳しい。

「あたいは『悪食あくじき』だ。聞いたことがあるだろ?」
「わしは『千本針』と呼ばれておる」

 あー、これ、面倒なやつだ。
 難癖をつけにきたらしい。コッソリと見ていたのかな。
 気配は感じなかったけど。

 さて、どうやって殺そうか。でも、〈影〉どうしの戦闘はご法度なんだよなぁ。
 僕は天を仰いだ。

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