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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 盗み出された竜国商票は、スルヌフと騎竜もろとも海に消えた。
 というか、雷玉で焼けた。

 シャラザードと王都に戻ると、学院の竜舎でお姉さんが待っていた。

「その様子だと、うまく行ったのかしら」
「うん。竜国商票は海に消えた。跡形も残ってないよ」

「分かったわ。そう報告しておくわね」
「お願い。僕は少し……疲れた」

「ふふふ。ゆっくり休むといいわ」
 そう言い残してお姉さんは去っていった。

 寮に戻って寝たいところだが、時刻はまだ夕方にもなっていない。
 今日の授業がまだ残っている。

「……一応、出ておくか」

 日常とは失って初めて気づくものだ。
 失わないよう、大切にしないと。

 僕は休みたがる身体を引きずって、授業に向かった。

 ……途中で居眠りをして怒られた。



「なるほどね。緊急の出動があったわけか」
 授業が終了して、アークと寮で雑談をする。

「王都にいなかったから分からないんだけど、昨日の火事はどうなったの?」
「ああ、火事のことは聞いたんだね」

 アークは王立学校に通っている子女から聞いたと前置きして、話してくれた。
 というか、アーク。まだ王立学校の生徒とつきあいがあるのか。

「夜にあがった火の手は全部で四つ。そのうち二つはすぐに消し止められたらしい」
「四つもか」

 僕が見たときは二つだった。
 そのあと火付けをしようとして事前に排除したのと、もうひとつは発見される前に僕が消した。

 それを入れてだと、他にも一件火事があったことになる。
 王都を混乱させて意識を商館に向けないようにしたのだろうが、連中を野放しにしていたら、どれだけ大きな火事になっていたか。見つけてよかった。

「一つは燃え上がった炎が飛び火して、隣家に燃え移ったようだね。延焼した方は半壊で、火元と見られる家は全焼」

「それはひどいな」
「そうだね。一晩で何カ所も火事がおきただろ。もちろん放火だ。明け方まで警邏兵が走り回っていたらしいよ」

「そっか。犯人は?」
「捕まった。ただし全員かは分からない。連行されていくのを見た人は大勢いるけど、複数犯らしいからね」

 昨日の今日でなかなか詳しいところまで把握している。
 さすが王都の民だな。好奇心と情報の伝達速度が半端ない。

「なんにせよ、犯人が捕まったんだな」
「そうだね。でも変な噂が流れ始めている」

「こんなに早くに何の噂?」
「今回の火事は女王陛下の商人優遇制度に不満を持った人による犯行だって」

 まあ、事実だ。
 経済戦争の一環という側面はあるが、完全に的外れではない。

「火元って、そういう家が狙われたわけ?」

「そういうことはないらしい。けど、竜国の王都を狙ったんだ。竜国を嫌っているか、女王陛下の政策に不満を持っているかしかないからね」

「もしそうなら、第二、第三の混乱もあるわけか」
「そうならないことを祈りたいね」

 そこまで話して眠くなったので、アークとの雑談を切り上げた。
 そして心地よい眠りに意識を委ねていたところで、外に気配が生まれた。

「……まじか」

 外の気配はお姉さんだ。
 昼間、女王陛下の元へ報告にいったはずだが、何の用だろうか。

 どうせ僕が出て行くまで外で待っているつもりだろう。
 さっさと終わらせてしまいたい。

 同室の気配を探る。
 アークはいつものように寝息を立てている。
 新しく入ったクリスとレゴンだが……。

「完全に寝入っているな」
 今日は遅くまで体力作りをしていたようで、ふたりともへろへろになって戻ってきていた。

 全員寝静まっている。
 僕は黒衣に着替えてから、闇に溶けた。



「早かったわね。出てくるのにもう少しかかるかと思ったのだけど」
「用件はなんですか? もう寝たいんだけど」

「女王陛下からあなたに伝えるようにって、言づてを頼まれたの」
「言づて……指令ではなくて?」

「そう。昼間あなたから貰った報告を陛下にしたのね。そうしたらすぐに動いたみたいなのよ」

 スルヌフが使っている屋敷や倉庫、店など、かなりの建物を竜国側は把握していたらしい。
 ただし、五会頭の建物に手を出すのは難しい。外交上の問題にもなるし、優秀な用心棒を雇い入れている場合、戦闘になる。

 未知の機械式罠があれば、けが人や死者だって考えられる。
 場所だけ把握して、監視も入れていなかったようだ。

「もしかして、それらに立ち入ったとか?」
「主人がいなくなったしね。撤収される前に押さえておきたかったみたいね」

 スルヌフは死んだ。
 今そのことを知っているのは僕とお姉さん、そして女王陛下だけだ。

『豪商』の商会員たちはまだだれも知らない。
 準備が整うまえに襲撃したわけか。
 文句をいう当人が海の底じゃ、反撃もできないし……相変わらず、女王陛下は容赦が無い。

「それでどうしたの?」
「一斉にすべての建物を接収して、商会員も一時的に全員拘束したわ。……それで分かったのだけど、隠れ家のひとつに大きな木箱があってね」

「ふうん……ん?」

 何かが引っかかった。
 スルヌフが隠していた木箱。すぐあることに気づいた。

「それ、僕が見つけて開けられなかったやつだ。二つあったんじゃない?」

 屋敷に潜入したときに木箱を二つ見つけている。
 技国式の罠が張ってあったので、壊さずに開けることができなかったのだ。

「ええ、二つあったわ。それで中身なんだけど、ガラクタが詰まっていたの」
「…………はっ? ガラクタ? 大事なものじゃなくて?」

「ガラクタね。正確には漂流物と言った方がいいかしら。海上に漂っていたものを拾い集めた感じね。どれも潮に浸かった跡があったわ」
「………………」

 思っていたのと違う。
 なんだ? スルヌフはそんなものを後生大事に自分の執務室に置いておいたのか?
 罠にかかる奴をあざ笑うためなのか?

「でね、そのガラクタを調べている最中なんだけど、いくつかに共通点があったのよ。判明しているものはすべて、東の海で行方不明になった船の一部。つまりあれは、スルヌフの戦利品トロフィーなんじゃないかしら」

 航海中の船が何隻か行方不明になっている。
 非常に少ない確率だが、陰月の路付近を通過するときに、甲板に鋼殻が直撃することもある。

 あるいは、嵐に巻き込まれたか。
 行方不明の船は、そう思われていた。

「もしかして、スルヌフが……襲った?」
「中型の飛竜……その可能性が高いと見ているわね。だってそんな都合良く漂流物ばかり拾えると思えないもの」

 竜国を移動するとき、なるべく海上を使うスルヌフ。
 そのついでに、目に付いた竜国の船を襲ったのだとしたら……。

 中型の飛竜ならば、船を一方的に攻撃して沈めることができる。

「あいつ……そんなことをしてたのか」

 船を沈めて漂流物を収集するなど、まともな奴のすることじゃない。

「古いもので十年以上前のようなのね。最近だと……」

 そう言ってお姉さんはロザーナさんの町が所有する船の名前をあげた。


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