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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 呪国人の二人目は、指の間に長針を挟んで、肉弾戦を挑んできた。
 間合いが小剣と変わらないのに、針の方が素早い。

 さらに足場の悪いここでは、大きく避けることができないため戦いにくい。
 だがそれは相手も同じ。

 小剣で針を弾き、躱し、逸らした上で反撃を試みる。
 当たらなくても、牽制になればいい。

 手数を増やす。
 敵の手が止まった間を見計らって、攻守を入れ替えた。

 僕の連撃が敵を襲う。
 敵は大きく間合いを開けられない。逃げようと動けば僕が追い詰める。
 あとは時間の問題だ。

 ――ザク。
 ついに僕の一撃が、敵の手首を半ばまで斬り裂いた。
「……ぐぁっ!」

 敵が手首を押さえて後ろに下がる。
 追撃はしない。まだあと二人、無傷で残っている。

「役たたずめ! おい、やれ!」
 スルヌフが言うと、残った二人の呪国人が大きく頷いた。

 そのうちの一人は見たことがあった。
 竜操者のときの僕ではない。〈影〉として屋敷に忍び込んだときに戦った。

 部屋を調べているときにそっとやってきた奴だ。手練れだった。
「今度は近接かな」

 僕の軽口に応えはなかった。
 無言で圧力をかけてくる。

 僕があのとき戦った相手だと認識していないようだ。
 相手は素手であるし、僕の方が有利か。

 ただ闇のないここでは、僕は魔道が使えない。
 静かな攻防が続く。

 実力は五分かと思ったそのとき、無警戒だったもう一人の呪国人が幅広の剣を使って責め立ててきた。

 二対一の戦い。
 しかも、もうひとりの方も中々の実力者だ。

「……おっと」

 大剣を避けると、もう一人が手首を掴みに接近してくる。
 ふたりの連携はかなりのもの。

 避けることはできるが、その隙をもう一人が見逃さない。
「慣れているな」

 執拗に腕を掴みにくることから、行動を阻害させようとしているのだろう。
 寝技を仕掛けられたら、もう一人から剣で突き刺される。

 着替える暇は無かったが、暗器だけはいくつか忍ばせてきた。
 ただ、それを取り出す暇が無い。

「これでどうだ」

 足で相手の胴を突く。
 ダメージは与えてない。だが、それで十分。

 剣での斬り合いは不利だが、ここは足場の悪い竜の背。
 バランスを崩させただけで勝手に後方へ流れていく。
 発生する風の流れは強力なのだ。

 後方の荷台まで下がって一人は止まった。
 今のうちにもう一人を……。

「おっとっ!」
 やってきたのが見えなかった。

 スルスルと足下を這うようにして接近してきたので、急に目の前に現れたような錯覚を覚えた。
 やはりこの中では一番強い。

「くっ!」
 組み付かれた。

 首を折ろうと手を伸ばしてくるが、それは防げる。
 だが、足を払われた。

 竜の背に二人とも横になってしまった。
 まずい。このままだと寝技に持ち込まれる。

 敵の呪国人の方が背が高く、手足も長い。そして体重もある。
 以前壁に張り付いているのをみたが、握力も相当なものだろう。

「……ハッ!」
 下腹部を蹴り、脱出を図ろうとするが、受け止められた。
 腰が入ってない蹴りではむずかしそうだ。

「ちょっ……あれ?」

 傾いた。
 身体が片方に向かって引っ張られる。

「このまま落としてあげましょう!」

 高笑いするスルヌフの声が聞こえた。
 竜操者に命じて横転させるつもりだ。

 なにか手近なものに……と思ったがなにもない。
 足はまだ呪国人に掴まれたまま。

 まず呪国人を蹴り出す。
 そして手を伸ばして……。



 竜が上下逆さまになった。
 結束していないものがどんどん落下していく。

 呪国人がふたりとも落ちていった。
 それを横目で見ながら僕も落下する。

 ここは雲の上。
 雲を突き抜けたら下は海。

 海面に叩きつけられたら、身体はバラバラだ。

「こんなとき父さんなら、軽々と生還するんだけどな」

 日が昇ったいま、僕は無力だ。
 せめて夜だったら手はいくらでもあったのだが。

 突然、風を斬る音が止んだ。
 身体は硬いものの上でバウンドし、黒い巨体が見えた。

『主よ、このまま落ちる趣味でもあるのか』
 シャラザードが気を利かせて、落下地点に身体を持ってきてくれた。

「いや別に」
 とりあえずそう答えておいた。

「ありがとう、助かったよ」
 そして礼を伝えた。

『なあに、主ならなんとかするかと思ったが、下まで探しに行くのは面倒であるしな』
 買いかぶられていた。

「正直、落ちきるまでに有効な手が浮かばなかったと思うよ」
 こんな切羽詰まった状況じゃ、なおさらだ。

『それで、追いかけなくてもいいのか?』
「そうだった。盗んだものは持っていたし、このまま帰すわけにはいかない。シャラザード、やれるか?」

『もちろんだとも。主が命じてくれれば、我は何にでもなろう』
「じゃあ、僕が命ずる。あいつを始末しろ」

『あい分かった』

 逃げる飛竜に向けて、シャラザードは特大の雷玉を……放った。



 とある日の明け方。
 商国に近い、竜国南部の海上で何度も雷鳴がとどろき、閃光とともに複数の雷が落ちたと海岸沿いの住人たちが証言した。

 それが止み、しばらくしてから特大の雷が落ちたとも。

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